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俺様獅子との猛愛エンゲージ!  作者: 古都助
~第二部・俺様獅子様の出張と婚約パニック!~
44/71

ほのかの家にて

最初は、ヒロイン・ほのかの視点。

後半は、獅雪征臣の視点で進みます。

話はあまり動いていません;

―― ニ週間後。

Side 鈴城ほのか


「……ほのか、征臣、一応聞くけど、……大丈夫かい?」


幼稚園勤務がお休みの日曜日。

私の自宅のリビングには、お昼間に起きてきた蒼お兄ちゃんが思わず引くほどに、

シュールな光景が広がっていた。

テーブルに顔を伏せ、どよ~んと敗者の気配を漂わせている……。


――私と獅雪さんの二人。


「あの……頑固親父め……っ」


「獅雪さんのお父さん……、ふふ……本当に手強いですねぇ」


休日の朝一番を狙って、今日も今日とて獅雪さんのお父さんに、

婚約しても幼稚園の仕事を辞めなくても良いようにと、お願いしに行ったのだけど、

……相変わらずの頑固鉄壁スタイルの前に、私達は二時間粘った後、引き下がる事に……。

獅雪さんがどれだけ怒鳴っても表情ひとつ変えないし、

かといって、私の為に獅雪さんがあえて低姿勢で土下座して頼んでも以下略。

ちなみに今日でもう何回目の説得に行ったかも思い出せない。

それぐらい二人で必死に頼みに行っているのだけど……はぁ。


「お疲れの二人に、俺が珈琲とケーキでも用意してあげるとしようかな。

 ほのか、征臣、生クリームとチョコ、どっちがいい?」


「あ、……チョコで」


「俺も……」


「了解。……にしても、征臣のお父さんは、折れる様子を全然見せないね」


冷蔵庫からケーキの箱を取り出し、それぞれのお皿にケーキを載せていく蒼お兄ちゃん。

口許には苦笑の気配が浮かび、手慣れた動作が続き、香りの良い珈琲の匂いが混ざり始める。


「ったく……、他の事には柔軟性があるくせに、

 なんでこの件に関しては頑固一徹を通すんだか……」


「本人も言ってたじゃないか。子供時代に寂しい思いをした、って」


「それはわかってる。だけどな、まだ婚約も結婚も、

 ましてや、妊娠だって遥か先の話だってーのに、今からほのかを縛りつけてどうすんだよ」


「獅雪家の嫁として、

早い段階で心構えや子供を生んだ時に備えての教育をしておきたいんじゃない?」


「いつの時代の話だよ、くそ……っ」


顔を上げ、ソファーに身を預けながらぐっと背中をそらした獅雪さんが、

疲れ切った溜息と共に自分の目元を片手で覆い隠した。

獅雪さんのお父さんから婚約に関する条件を付けられた日から二週間……。

お互いの仕事が終わった後に、獅雪さんのお父さんの説得に伺ったり、

休日の日は朝から押しかけて何時間も粘ったりと頑張っていたのだけど、

……一向に成果は見られない。


(獅雪さんのお父さんのお気持ちは良くわかるけれど……、

 私にも、譲れない仕事への想いがあるわけで……)


出来れば、まだもう少しの間、子供達と過ごさせてほしいと願ってしまう。

幼い頃からの大切な夢だった、幼稚園の先生という職業……。

まだその夢が叶ってから、ほんの少しの時しか流れていないように思う。

子供達と育んで来た大切な時間、あの子達の笑顔……。

それを手放す覚悟は、まだ……もてない。

だけど、それは一方で、私が獅雪さんを一番に出来ていない証明なんじゃないかって、

時折、物凄く申し訳なく感じてしまって……。


「獅雪さん……、ごめんなさい」


「ん?」


「私が……、獅雪さんだけの事を考えていられれば、

 きっと、皆さんを困らせずに済んだんですけど……」


ギシッと、ソファーが獅雪さんの動きを受け止めて軋んだかと思うと、

彼は席を立ち上がり、私の座る場所の横に腰を下ろした。

そして、その力強く頼もしい腕を伸ばし、私の肩を抱き寄せると、

額に優しいキスを落とし、私の頬を包んで苦笑交じりの笑みを向けてくる。


「お前が謝る事なんて、何ひとつないだろうが。

 俺はな、お前を口説く前に、蒼の奴に散々言われてるんだよ。

 ほのかの大切な物を、何ひとつ傷付けずに幸せにしろ、ってな。

 俺自身も、お前の仕事に対する想いがどれだけ強いかは知ってるし、

 勿論、親父の言に従う気もない。だから、お前が罪悪感を覚える必要はないんだ」


「獅雪さん……」


「好きな仕事なんだ。誰に何を言われようが、胸張って自分の道を行け。

 お前の道は、俺が絶対に守り通してやるから……」


こんなに、……こんなに私は、幸せで良いのだろうか。

獅雪さんの温もりに抱き締められながら、何度も大丈夫だからと優しく囁かれる。

蕩けるほどに甘い……、大好きな人の思い遣りに、折れそうになっていた心が、

彼の温もりに全てを預けるかのように、溶け込んで行く……。


「私……、獅雪さんの事が、好きです。

 他の誰よりも……大好きで、……だけど、仕事も同じくらいに大事で……」


「わかってる……」


「これは、私の我儘なんだって思うんです。

 どちらかひとつを選べない私は、獅雪さんの優しさにばかり甘えていて……」


本当に獅雪さんの事を愛しているなら、彼を困らせるような選択をすべきじゃないのに、

それでも、……私はまだ、幼稚園の子供達の先生であり続けたいと思っている。

勿論、獅雪さんと結婚してからもずっと……というのは、正直、無理があるとは思っている。

普通の一般家庭でもないし、獅雪さんは未来の社長さん……。

彼の妻になる私も、獅雪家の社長夫人としての自覚と責任を持たなければならなくなるわけで……。

キリの良い所で今の職を辞めないといけない事はわかっている。

それに、獅雪さんのお父さんが望むのは、婚約と同時に仕事を辞める事だ。

子供が出来るまでは……なんて、甘えた保留期間は存在しない。

確かに、獅雪さんのお父さんの言うとおりかもしれないとは思う。

一応、結婚してから獅雪さんと相談し合って、子供を作る時期を決めて、

タイミングを計って、幼稚園の仕事は辞めようと、前に一度だけ話した事はあるけれど……。

愛し合っていれば、そういう行為に及ぶのも自然なわけで……。

それによって、予期せぬタイミングで授かってしまう事もある。

一応、私の勤めている幼稚園には、担当の先生に何か辞めなくてはならない事情が生じた時に、

子供達が戸惑わないように、独自のフォローシステム的なのを取り入れてはいるけれど、

やっぱり、担任の先生が変わってしまう不安や戸惑いは、完全には拭いされない。


(だけど、今辞める事になっても、結局タイミングが悪い……)


私が勤めている幼稚園は、年少さんクラスと、年長さんクラスの二年間、

同じ先生が担当するというシステムを取り入れてしまっている。

だから、今、私が受け持っている子達が春に年長さんクラスに上がった場合、

その担任は私になるわけで……。

婚約と同時に私が幼稚園を辞めてしまうわけにはいかない。

だから、出来る事なら……、今受け持っている子供達が卒業する来年の春までは……。

その事を獅雪さんと蒼お兄ちゃんに話してみると、


「うーん、一番手っ取り早いのは、婚約自体を来年に持ち越す事かなぁ。

 ほのかが子供達の旅立ちを見送って、それでキリ良く幼稚園を辞められるなら、

 一番良いタイミングかもしれない。……だけど、あと一年なんて……。

 お前が今まで一生懸命になって叶えてきた夢だろう?

 こんなに早く終わらせる決心なんかして……本当に良いのかい?」


ずっと続けていたいなんて、きっと凄く我儘なお願いになってしまうから、

だから、あと一年だけ……、どうか子供達との時間を許して欲しい。


「それに、きっと、結婚したら……、獅雪さんの妻としてのお仕事も多いと思うし、

 幼稚園の仕事と両立できるかどうかも……不安で」


「俺が社長になるのなんて、遥か先の話だろう。

 もしそうなったとしても、俺はお前に、社長夫人としての仕事は、

 必要最低限だけしかやらせるつもりはない」


「まぁ、だろうね。主に、ほのかに寄り付く虫を増やさない為に」


「秋葉家の三兄弟みたいなのが出てくると面倒だからな。

 それに、こいつを家に閉じ込めるなんて、俺は気が進まない」


「獅雪さん……」


獅雪さんは私の頬を撫でながら、迷いのない力強い眼差しで私の瞳を射抜いている。


「お前だって、本当は幼稚園の仕事を続けたいのに、

 色々面倒な事に気をまわして、……今、妥協しようとしただろう?」


「……」


「そこで黙るな。お前、もう少し我儘になっても良いと思うぞ?

 子供が好きで、あんなにも慕われてるくせに、たった数年で諦めるなんて、

 何の為に必死こいて勉強してきたのか、わからないだろうが」


私の頬をむぎゅっと指先で抓った獅雪さんが、ちょっとだけ怖い顔で私を睨んでいる。

蒼お兄ちゃんも、トレイにケーキと珈琲を載せてリビングに戻ると、

うんうんと獅雪さんに頷いて、それをテーブルの上へと置いた。


「大体、結婚してからも仕事を続けてる奴は沢山いるだろう。

 お前のとこだって、透が産休の担任の代わりに勤務してるわけだし、

 そうやって、どこの園でも助け合いながらやってるわけだろ」


「そうそう。子供達にはちょっと申し訳ないけど、

 フォローがきちんと行き届いていれば、そこまでの混乱はおきないよ。

 ほのかの幼稚園だって、透君と前の先生の件だって、

 何事もなくスムーズに引き継げたんだろう?」


「う、うん……」


「いつもそうだとは限らないけど、

 征臣の言うとおり、皆助け合っている事の方が多いから、

 たとえ、ほのかが結婚して子供が出来ても、ちゃんとフォローしてくれるはずだよ」


私の隣に座ると、蒼お兄ちゃんはケーキをそれぞれの席へと配り始める。

そして、……。



――ググググググッ!!



「さて、お茶の時間だから、自分の席に戻ろうか? 征臣……」


「何の真似だ? まだ、ほのかの話を全部聞いてないだろうがっ」


「くっついていなくても、話は出来るんだよ?」


ど、どうしたらいいんだろうっ。

蒼お兄ちゃんが獅雪さんの腕を鷲掴んで、私から引き離そうとしているのだけど、

獅雪さんは青筋を浮かべて徹底抗戦のこの状態……。

真ん中に挟まれている私は、身動きもとれず、差し挟む言葉も浮かんでこない。


「ほのかが不安がってるのに、恋人の俺が慰めてやらなくてどうするんだよっ。

 それにな、茶を淹れ終わったなら、さっさと自分の部屋に戻ったらどうだ?」


「余計なお世話だね」


……ふ、二人共、今までにないぐらいに怖い顔をして睨み合って力の押し合いをしているんだけど。

私を挟んでバチバチと火花を散らすかのような二人の視線を怖々と眺めていると、

私のスカートにしまっておいたスマホが、メールの着信を知らせた。

それを取り出し、表示画面を確認した私は、「あ……」と、小さく驚きの声をあげる。


「お兄ちゃん、獅雪さん、ごめんなさい。

 ちょっと友達からメールがきたので、席を外しますね」


「あ? あぁ……」


獅雪さんの腕の中をするりと抜け出し、私は自分の部屋へと向かう。

スマホのディスプレイに表示されていたのは、時々しか会えない友達の名前。

昔からの幼馴染でもある彼女は、同じ大学に進学してから二十歳の年に、

急にお父さんのお仕事の都合で、海外へと渡ってしまった彼女……。

前に会ったのは、……確か、一年前、だったかな。

私は自室に飛び込むと、すぐにメールの内容をチェックした。


『ほのかちゃんへ。

 近々、日本にまた戻るので、良かったら会いませんか?』


「帰って来るんだ……」


さっきまで、これからの事についてあんなに悩んでいたのに、

大切な友人の帰国予告メールに、嬉しさで胸が満たされ始めていく。

同じ幼稚園からの付き合いで、家は離れていたけれど、

私達はいつも一緒にいた。本当は、彼女の引っ越しの日にも駆け付けたかったけれど、

鈴城家の用事があって……、結局それは出来なくて。

最初の一年は全く会う事も、連絡をとる事もできなくて……。

二年目になって、やっと彼女と再会出来た。


「嬉しいなぁ……」


続きの内容を読んでみると、彼女が帰って来るのは、丁度二週間後。

久しぶりに会う事が出来るんだ、と思うと……、ふふ、今からわくわくしてしまう。





―― 一階・リビング

Side 獅雪征臣


「なぁ……、ほのかのあの反応……。

 友達って、女だよな?」


そわそわとしながら二階に駆けて行ったほのかを見送った後、

俺は蒼との攻防を一旦終わらせ、珈琲が冷めない内に口をつけると、そう聞いていた。

嬉しそうな気配と、何かを期待するようなほのかの表情……。

相手は、男なのか、女なのか……、神経質だと言われても構わない。

俺はどうしようもなく気になっている。


「相当心配みたいだね? だけど、残念ながら、あの反応だと……。

 『あの子』からだと思うな」


「……『あの子』?」


「ほのかの幼馴染の女の子なんだよ。……凄く素直な良い子でね。

 二人共仲が良くて、行事ごとにデジカメに思い出を収めに行くのが俺の楽しみで……」


「ほのかの……学生時代、か」


「……見たい?」


「……」


そりゃ見たい。本音を言えば、今すぐここに持ってこい!!

ついでに、良いショットがあったら、持ち帰らせろ!! が、俺の主張だ。

だが、この蒼相手だ。果たして、大人しく見せるのか……。


「ふふ、久しぶりに俺も見たくなったし、今日だけ特別に」


「見せてくれるのか?」


「100m先からなら見せてあげよう」


「遠すぎるわ!!!!!!!」


全く……、最初から見せる気がないなら、話すなというに……。

今ので、今日一日分の気力と体力を全て搾り取られた気がするぞ……。

ぐったりとソファーに身を預けていると、

蒼はクスリと意味ありげな笑みを零し、珍しく……、

一度、反対側のソファーの上部を押し上げ、そこから数冊のアルバムを取り出した。

まさか、そんな所に仕舞ってあるとは……。

まぁ、リビングだからな。家族が揃った時に取り出しやすい、か。

テーブルにそれを開いて置いた蒼とアルバムを一度交互に見比べて、

……アルバムに映っている記憶の欠片に目を落とす。


「こ、これは……!!」


「せっかくだから、小さい時からの写真を見るのも良いかと思ってね。

 ほのかの友達、さっきのメールの子も映ってるし、

 今日だけ特別に見せてあげるよ」


多分これは、幼稚園時代だな。

小さなほのかが、友達と思われる女の子と手を繋いで走っている姿。

……。


「征臣?」


「……」


「バッチリ釘づけだね……。

 ついでに……、『こういう』のもあるよ?」


俺が、ほのかの幼少時代の写真に見入っていると、

蒼がテレビの方へと向かい、一枚のDVDを手に取り、それをセットし始めた。

なんだ……あれ。

リモコンを操作し、DVDの中身を再生し始めた蒼の視線を追って、

俺もテレビの画面へと視線を向ける。

……。


「蒼……、お前、俺をどうしたいんだ?」


「萌え死んで帰ってもらおうかなって思っただけだよ?」


「冗談抜きでそうなりそうな映像なんだが……」


今度は、音声&映像付きのダブルアタックときたか……。

中学生時代のほのかが、桜の舞う光景を背に、撮影者へと微笑みかけている。


「蒼……、俺にもこれを」


「生憎と、これは家族だけが見られる非売品なんだよ。

 コピー? そんな事して、もし、ほのかに見つかったらどうするんだい?

 本人の許可もなく所持してたりなんかしたら……、変態呼ばわりされるよ?」


「ぐっ……」


蒼の発言にも一理ある。

もし、俺の部屋にほのかが入った際に、映像やら写真やらが見つかった日には、

百パーセントドン引き確定だな。ストーカー呼ばわりでもされたら立ち直れない。

まぁ、ほのかはそういう事を言うタイプじゃないが、

……控えめに頬を引き攣らせ、困ったように笑う姿が目に浮かぶ。

俺はロ○コンじゃないが、目の前に映っているほのかの中学生時代の映像は、

手元のアルバムも含め、俺が知らない、……出会う前のアイツの思い出が広がっているから。

どうしても、貴重だと……思えるんだよな。

だが、……ここで食い下がっても、俺の立場が、さらに悪化するだけだろう。

俺は結局、蒼のニコニコ顔を視界の端に映しながら、

ほのかの過去の思い出を延々と見せられる羽目になってしまうのだった。

勿論、帰り際に蒼が俺の為を思ってDVDをコピーしてくれる事もなかったのは、

言わずもがな、だ。はぁ……。

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