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俺様獅子との猛愛エンゲージ!  作者: 古都助
~第二部・俺様獅子様の出張と婚約パニック!~
35/71

秋葉家の長男と三男

ほのかと自分達の息子を結婚させようと熱心に行動している秋葉家さん。

そんな彼らの息子達は、親の思惑から外れてあまり乗り気の様子ではなく……。


――コンコン。




『専務、れいさんがいらっしゃいました』




秘書の声を扉の向こうに聞いた男は、パソコンのキーを叩くのやめ入室の許可を出す。




「お仕事中、すみません。すばる兄さん」




専務室に入って来たのは、賢そうな顔立ちをした眼鏡の似合う青年だった。

青年……とは言っても、まだ高校を卒業して大学に進んだばかりで、

顔立ちもパッと見は高校生ぐらいにしか見えない。

しかし、彼の纏う冷静で理知的な雰囲気が、彼を子供だとは思わせない。

彼の入室の後、秘書である青年がそっと扉を閉め、二人だけが室内に残される。




「お前が俺を訪ねて来るとは珍しいな、怜?」



「ちょっと兄さんと話がしたくなりまして……。

 『あの話』についてなんですが……」




男の一番下の弟にあたる『怜』。

彼は感情のあまり宿らない表情で、淡々と兄である昴に用件を切り出した。

怜が言っているのは、彼らの両親が最近しつこく熱心に話題に出す『鈴城家の娘の話』 の事だ。




「あれか……」



昴は仕事用のレザーチェアに背を預けると、あまり覚えていない鈴城家の娘について記憶を探った。

確かに可愛い顔をしてはいたが、両親の話と写真だけでは、どうにも気が乗らない。

それは弟の怜も同じようで、ソファーに腰かけ憂鬱そうに息を吐きだしている。




「悠希兄さんが気乗りしない段階で、諦めるべきなんですよ。

 それなのに……よほど気に入ったのか、俺達にまで話を振ってくるなんて……」




我が親ながら、なんて暑苦しい性格をしているんだろうか。

怜はテンションの高い思い込んだら一直線の両親の姿を思い浮かべながら、再度溜息を零した。

まだ大学生の怜は結婚願望よりも勉学優先、

兄の昴は、顔と性格に似合わず唯一人の女性を探し続ける隠れロマンチストだ。

そんな二人が、急に向けられた鈴城の娘との縁談に乗り気になるわけがない。




「その上、鈴城家は獅雪家と縁を結んでいる。

 とっくに相手がいる娘に、横槍をいれようとする事自体が無謀な話だな」



「そのとおりです。ですが、父さんと母さんは諦めが史上最大級に悪い人種です。

 本人に会って、恋愛的な意味で実力行使で落として来ればいいとか本気で言ってますからね。

 何なんでしょうか、あの人達の無意味に暑苦しい自己主張……」



「その無駄に暑苦しい力が、今の秋葉を創り上げているんだがな……。

 先祖代々、周囲が無謀だろうという事を片っ端から挑戦して、

 最後にはちゃっかりと成果を収めている。理解に苦しむ習性だ……」



「でも、俺達三兄弟には、誰にもそれ、引き継がれてませんよね……。

 強いて言うなら、悠希兄さんぐらいじゃないですか?

 ……自分の好きな事に一直線で、自由奔放に生きてるのって」




怜と昴も、先祖や両親に似ず、冷静さが売りの低テンション派だ。

本当に秋葉家の直系の子供かと疑われるほどには、あまり似ていない。

その中で、次男の悠希だけは少し違っていた。

低テンションなところは二人に似ているが、いかんせん……不思議系に分類される青年だ。

自分の好きな事に関してだけは、凄い行動力を見せるというか……。




「悠希の場合は、秋葉家の新ジャンルに分類しておけ。

 それと、鈴城の娘に関しては、あまり気にするな。

 俺達が折れなければ、あの人達もいずれ諦めるだろう」



「そうだといいんですが……」





――コンコン。





「入れ」




兄弟二人で話していると、先ほど怜をここへ通した秘書の都々凪つづなぎという男性が、

トレイにお茶とクッキーを載せて入って来た。




――コトン。




目の前の応接テーブルに置かれたそれに、怜を目を落とす。




「……あの、都々凪さん」



「何でしょうか? 怜さん」




クッキーをひとつ手にとった怜が、眉を顰めて秘書を見上げた。




「これ……もしかしなくても、母さんが仕込んだクッキーじゃないですか?」



「はい。朝に差し入れと仰られて置いていかれました」




弟と秘書のやり取りに意味がわからない昴は、レザーチェアを立ち上がり近付いた。

一体何をそんなに訝しがっているのだと、くだんのクッキーを見て、彼もまた固まってしまう。

丸いクッキーの真ん中に、……人の顔がデフォルメキャラ仕様で焼き込まれている。




「母さんの特技って、料理全般ですからね……。

 しかも器用だから、こんな手の込んだ事まで……」



「都々凪……、他に茶菓子はなかったのか?」



「すみません。今丁度切らしておりまして……」




怜と昴の母親は、その器用さと料理の腕を活かして今まで何度も息子達を驚かせてきた。

子供の頃も、周囲の子供達や、その親が驚くほどの凝ったお弁当を作ったり、

バレンタインデーには、可愛い女の子の等身大チョコ像を用意していたり、

さらには、お菓子の家が作りたいと言い出して、海外の別荘地に巨大なそれを……。

とにかく、今までの制作物に比べれば、このクッキーの難易度は低いかもしれないが、

このクッキーに焼き込まれている『人の顔』が問題なのだ。




「鈴城の娘のデフォルメを焼き込むとは……っ」



「母さん……、いい加減にしてくださいよ」



「これも、奥様の愛情なのではないでしょうか?」



「「笑顔で空気を読まない発言は控えてくれっ」」




うんざりとした表情で頭を悩ませる兄弟とは対照的に、

秘書の都々凪は、にこやかに微笑んだまま立っている。

鈴城の娘との話は、この男も知っているだろうに、気遣うどころか茶菓子にこれを出す始末。




「これはあれなんでしょうか、兄さん……。

 徐々に周囲から固めて、洗脳していこうって算段なんでしょうか?」



「家に帰れば、写真見せの嵐だからな……。

 はぁ……、しかし、会社でも見る羽目になるとは、自分の親にある種の恐怖を感じるのは気のせいか」



「仕方ありませんよ。専務はもう今年で三十歳におなりになられますし、

 奥様も社長も、ご心配なのではないでしょうか」



「いらん心配だ。自分の相手は自分で探す」



「そう言って、もう三十歳になられたんですよね?

 次期社長であられるのに、浮いた話ひとつないのでは、皆心配して当然ですよ」



「……」




爽やかに笑顔で痛いところを突いてくる秘書である。

昴と、この秘書である都々凪は元々は幼馴染でもあり、もう長い付き合いだ。




「学生の頃は、試しに女性とお付き合いはなさっていましたが、

 全部長続きしないんですよね……」



「確かに、兄さんの年齢からすれば、結婚していてもおかしくないですからね」



「男は別に幾つになっても子は作れるからいいだろうが……。

 ……怜、茶を飲んだらさっさと帰れ。都々凪の方もさっさと仕事に戻れ」




しっしと追い払うように手を払えば、都々凪は苦笑を漏らしてあっさりと専務室を退室していった。

パタンと扉が閉まった後、昴はソファーに座り込み、クッキーをひとつ手にとった。




「いっそ、この娘に会って、互いに共同戦線でも張るか……」



「え?」



「互いに気はないんだ。協力すれば、さっさと事は片付くかもしれんだろう」



「まぁ、その可能性は高いかもしれませんが……」




本当にそれで上手くいくのだろうか……。

怜はお茶に口を付けながら、専務室の全面窓仕様の青空に視線を投じた。


もうウチの両親どうにかしてくれ! が本音の様子です。

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