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俺様獅子との猛愛エンゲージ!  作者: 古都助
~第二部・俺様獅子様の出張と婚約パニック!~
26/71

前日デート~帰宅~

デート終盤です。






楽しい時間ほど、あっという間に時が過ぎるもの……。

展示会に水族館、美味しいご飯に、二人で歩いた見晴らしの良い公園。

色々な所を回って、レストランでの夕食のひと時を過ごし終わると、

一日が終わる合図のように、外は一面真っ暗闇のベールを空に落としていた。

もう……、帰らないといけない時間だ。




「獅雪さん、明日からの出張……頑張ってくださいね」




私の家へと車を走らせる獅雪さんの隣で、

無言だった車内を和ませるように私は笑みを貼り付けてそう言った。

二人の時間が終わりを告げようとしている、この帰り道。

何故時はこんなに早く過ぎ去ってしまうのだろう……。

彼と会える日を待っている間は……、あんなにも長く感じて寂しかったのに……。

どうしてそこに違いが出てしまうんだろう……。




「本当は別の奴が行くはずだったんだがな……」



「そうなんですか?」



「ああ、だけど奥さんが妊娠したらしくてな。

 傍にいてやりたいから、日本からは離れたくないんだそうだ」




なるほど、それで獅雪さんが行く事になったんだ。




「ま、妻帯者の奴に文句言うわけにも行かないしな。

 駆け付けてやれる距離にいたいって気持ちはよくわかる」



「獅雪さん……」




ちらりとこちらに視線を一瞬だけ向けて、ハンドルの向こうに広がる車道に意識を戻す獅雪さん。

私を見た時の瞳は、切なそうな表情をそこに宿していたように思う。




「俺も、……お前と離れたくないからな。

 いっそ出張に連れて行きたいくらいだ」




それが無理だという事を、獅雪さん自身もよくわかってくれている。

だけど、お互いに離れがたいという気持ちが強いから……。

私も自分の仕事を辞めて獅雪さんに付いて行く事は出来ないとわかっているれど、

やっぱり、同じように傍にいたいなという気持ちは止めようもなく溢れ出てくる。




「私も寂しいですけど……、獅雪さんが帰ってくるまで、

 日本で……待ってます、から。……貴方の事を想いながら……」





私に出来るのは、獅雪さんの事を心に想って帰りを待つことだけ。

幼稚園の先生は昔から憧れていた職業で、やっと叶った夢だから……。

そう簡単には捨てて行く事は出来ない、私の大切な存在もの

子供達の笑顔、笑い声……、あの子達の成長を傍で見守れる事に、

私は確かな幸せとやり甲斐を感じている。

一番の優先順位に獅雪を定められない事実に申し訳なく思いつつも、

心を込めてもう一度、「待ってます」と彼に伝えた。




「お前は本当に子供が好きだからな。

 その言葉を貰えただけでも良しとするか。

 浮気せずにちゃんと待ってろよ?」



「そんな事するわけないじゃないですか!」



「お前の事は信じてるんだけどな……。

 幼稚園には余計な虫がいるし、どっからか別のが湧いて出ないとも限らない」



「はい?」




透先生の事は、もうちゃんと返事をお伝えしてあるはずなんだけど……。

前を向いたまま、獅雪さんの表情が不機嫌そうに少しだけ歪んだ。

浮気なんて私はする気もないし、第一お相手だってそんなコロコロ転がってませんよ?

むぅと頬を膨らませてそう抗議すると、獅雪さんが疲れたように溜息を吐き出した。




「無防備なのも、考えものだな……」



「言ってる意味がわかりませんって!!」




失礼です! 人の顔をまたチラ見して困ったような人を見るような目をするなんて!

二週間で私が誰かと浮気するなんてありえないのに!!

獅雪さんが人生初の彼氏さんであるのに、信じてもらえないのは傷付く。




「私、浮気なんてしませんよっ」



「だから、お前の事は信じてるって言っただろ?

 ……と、家に着いたぞ」




キィィ……と車が私の家に到着した事を知らせるように停車した。

もう着いちゃった……。話していたらあっという間だった時間に、

今度こそ暫しの別れを感じて、私は助手席で俯いてしまった。

降りたら……獅雪さんとは本当に二週間もの間……、

ううん、獅雪さんの予定が空くまで待つとしたら、それ以上……。




――ギシッ……。




ふいに、運転席の方から音がした。

なんだろうと視線を上げると、獅雪さんが私に向かって両手を伸ばしてくるところだった。

両脇の間に手を入れ、力を入れて自分の方へと抱え上げる獅雪さん。

え? なんで? 何してるの!?




「し、獅雪さん!?」



「大人しくしてろ。よっと……」




どこにそんな力があるのか、私は獅雪さんの座る運転席へと移る事になってしまった。

丁度、獅雪さんのお膝の上に乗り上げる形になってしまい、彼の綺麗な顔が至近距離に近付く。

じっと私の瞳を捉える獅雪さん。

その目に徐々に浮かんできたのは、熱い感情を告げる何か……。




「二週間……、長いよな」



「そ、そうですね……」



「はぁ……」



「獅雪さん?」




背中に回された手が、獅雪さんの内面を表すかのように強く私を抱き寄せる。

首筋に顔を埋めた彼が、悩ましげに吐息をひとつ吐き出す。

それがくすぐったくて、私は少し身を捩った。




「獅雪さん、私……もう降りないと、って、きゃああ!」





――ガタン!





急に前に向かって運転席のシートが後部座席へと倒れ込んだ。

左下を見れば、獅雪さんの手がシートレバーを掴んでいた。

意図的に……倒したの?

彼の胸の上で、きょとんと獅雪さんを見上げると、その大きな手のひらが私の頬へと伸びた。




「お前に触れられるのも……、暫くおあずけ、か」



「あ、あの……、獅雪さん」



「じっとしてろ。もう少しだけ、お前を傍に感じていたいんだ……」



「んっ……」




背中を撫でる感触と、頬を愛おしむように包み込み、私を見つめてくる獅雪さんの熱が強くなる。

早く降りないと、もしかしたら獅雪さんの車が停まっている事に気付いて、

蒼お兄ちゃんが外に出て来るかもしれない。

それを口にしたいのに、獅雪さんの温もりから離れがたくて、私はその熱に身を委ねてしまう。

車内には二人だけ……、もう少し……、あと少しだけ……、お互いの温もりを感じ合っていたい。




「獅雪さん……、んっ」




止める間もなく、獅雪さんが私の頬を両手で挟み、熱を分け与えるかのように唇を塞いだ。

大好きな人とのキスは、何度それを重ね合わせても幸せだと感じられる瞬間だ。

瞼を閉じて、獅雪さんが与えてくれるままに触れ合えば、

心の中が獅雪さん一色に染まり、行為に溺れこんでいくしかない。




「……本当、攫ってでも連れて行きたくなるな」



「そ、それは……」



「駄目だって言うんだろう? 

 なら、大人しくもう少しだけ俺の傍にいろ。

 どうせ家には着いてるんだ、ちょっとぐらい……」



「し、獅雪さん!! んっ、だ、駄目ですって!!」



「うるさい。大人しく俺に二週間分補給させろ」





――コンコン。




一度は離れた唇が、再び獅雪さんの熱へと呑み込まれそうになった時、

ふいに運転席側の窓がノックされた。

……。

まさかという思いで、外に視線を向けると……。




「征臣、門限とっくに過ぎてるよ。

 ウチの可愛い妹を、……今すぐ出しなさい?」



「あ、蒼お兄ちゃん!?」




爽やかな笑みを湛えた私のお兄ちゃんが、獅雪さんと私を上から見下ろしていた。

み、見られた……!! 獅雪さんと抱き合っているのを、キスしているのを……。




「(見られたーーーーーー!!)」



「ちっ、……魔王降臨かよ」




私の下で、獅雪さんが嫌そうな顔をして窓の外にいる蒼お兄ちゃんを睨んだ。




「わ、私、降ります!! 今すぐに!!」




身内にラブシーンを見られた事に猛烈に恥ずかしさを感じていた私は、

急いで助手席に戻り、バッグを掴むと外に飛び出した。

蒼お兄ちゃんの顔を見られず、ダッシュで家の中へと逃げ込む。

恥ずかしい! 恥ずかし過ぎて死んじゃうくらいにショックが大きすぎる!!














―― side 征臣




「……全く、送り狼とはこのことかな?」



「二週間会えないんだから、少しくらい多めに見ろよ」



「俺が止めに来なかったら、狼さんが可愛い妹に何を仕出かすかわからないだろう?」




顔を真っ赤にしながら、別れの挨拶さえ交わせずに、ほのかは自宅の中へと逃げ込んでしまった。

二週間分の空白を補う為に、ほのかの温もりを味わっていたというのに……。

この妹溺愛男は、最悪のタイミングで割り込んできた。

せめて俺がほのかを外に出すまで待てなかったのか……。

だが、蒼の言う事も一理ある。

俺は、ほのかと両想いになってから……、いつでも忍耐の中で自分を鍛え続けていると言ってもいい。

いつだって、アイツに触れて抱き締めていたいし、キスだってもっとしたい。

その先も……浅ましく求めて止まないんだ。

それを蒼は十分にわかっているんだろうな。

今さっきの自分の行動を振り返っても……、途中から目の前のほのかに夢中になって、

危うく暴走しそうになっていた事は否定しない。




「結婚前に手を出したら、容赦なくお仕置きするからね、征臣?」




おいおい……。

笑みを浮かべているくせに、

どこか人を殺しそうな敵意が目の奥に妖しく光っているような気がするのは、俺の気のせいか?

殺害まではいかないとしても、瀕死状態までは平気でやる可能性が高いよな、この魔王は。




「わかってるよ。結婚まではキスまでで我慢する。

 だから、そんな睨むな。悪寒が走ってしょうがねぇ」



「ならいいよ。じゃあ、ほのかを送って来てくれてありがとね。

 明日からの出張、頑張りたまえ」



「おう」




運転席のシートを前に戻し、蒼に向かって返事を返すと、

俺は自宅に帰る為に、車のエンジンをかけた。

明日から二週間、ほのかの声だけでも電話で聞けるのは救いだが、その姿を見る事が出来るのは遥か先だ。

まだ見ぬ外国の地に背を向けたい衝動に駆られながらも、俺は溜息と共に諦めの気分を味わうのだった。




安定の蒼お兄さんの介入完了です。(笑)

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