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俺様獅子との猛愛エンゲージ!  作者: 古都助
~第二部・俺様獅子様の出張と婚約パニック!~
24/71

前日デート~水族館のハプニング~

水族館にやってきました。




「で、なんでお前がここにいるんだ?」



「梓さんとデートだからに決まってるだろう!!」




ドヤァ! とばかりに胸を張って答えた恵太さんに、

獅雪さんがあきらかに疲れたような顔をした。

恵太さんは、獅雪さんの大学時代の友人で、今は鍋物屋さんの主をやっている人。

彼の隣では、その奥さんである梓さんが「あらあら」と楽しそうに笑みを浮かべている。

私の住んでいる町からは、一時間ほどの距離にあるこの水族館でまさか出会う事になるとは。

予想外の巡り会わせに、私も獅雪さんもびっくりだ。




「いやぁ~、奇遇だな~。

 せっかくの縁だ、ダブルデートでもするか?」



「こっちは、明日から出張で時間がねぇんだよ!

 二人きりにさせやがれ!!」




げしっと獅雪さんが恵太さんの足を踏もうとしたけれど、

それを難なくさっと避けて、獅雪さんの両肩を恵太さんがバンバン叩き出した。

豪快に、大きな笑い声までつけている。




「なんだ、おあずけ期間前のデートだったのかー!

 そりゃあご愁傷様だなぁ、征臣!!

 せいぜい、出張中に、ほのかちゃんに愛想尽かされないように

 マメに連絡は取れよ~!!」



「やかましいわ!! 梓さん、すみませんけど、

 この馬鹿さっさと向こうに連れて行ってもらってもいいですか?」



「ふふ、征臣君たら必死ね~。意外な可愛さを見ちゃったわ。

 でも、お邪魔しちゃ悪いわね。ほら、恵太行くわよ」




獅雪が恵太さんの手を掴み、ギリギリ攻防を繰り広げながら梓さんに助けを求めた。

ぐいっと自分の旦那さんの耳を強く引っ張って笑顔で向こうに連行していく梓さん。

耳を引っ張られると結構痛いと思うんだけど、恵太さん……なぜかすっごく嬉しそう。

顔もにやけているし、痛みなんて脳に伝わってないんじゃないかなぁ……。




「ふぅ……、邪魔者排除完了だな」



「獅雪さん、別に私は一緒でも構いませんでしたよ?」



「俺が嫌なんだよ。

 次いつお前に会えるかわからないんだ……。

 誰にも邪魔されずに、二人だけで時を過ごしたい」



「あ、……えっと……、はい」




すごく切ない声音でそう言われて、私は思わず赤くなってしまう。

獅雪さん、ズルイですよ……。

ふいに、そんな風に素直な気持ちを不意打ち同然で仕掛けてくるなんて……。

でも、今日この日を、獅雪さんがすごく大事な時間として思っていてくれることに喜びを感じる。

寂しいと感じるのは私だけじゃない。

獅雪さんも同じように明日からの出張に対して同じものを感じているんだってわかる。

私は獅雪さんの腕にぴったりと寄り添った。




「獅雪さん、ごめんなさい。

 せっかく二人だけでいたいって思ってくれてたのに、

 あんな事言っちゃって……」



「お前が人に気を遣うのはいつもの事だろ。

 今日のは俺の勝手な我儘だ。

 だが、その我儘を押し通したいくらい……、お前との時間が大切だ」



「はい……。私も、ずっと一緒にいたいです。

 次に会う時までに、獅雪さんの愛情を、補充させてくださいね」



「それは、こっちの台詞だな。

 外国なんて遠いとこまで飛ばされるんだ。

 二週間耐えられるように、しっかりとお前の愛情を俺に注いでくれよ」




私の顔を覗き込んで、獅雪さんが予告なしで頬に優しいキスを落としてくれた。

穏やかだけれど、どこか熱を帯びたその眼差しに、私の心は余裕もなく鼓動を打つ。

ただでさえ綺麗で迫力のある美貌をもつ男性だから、

間近でこうやって見つめられると気恥ずかしくてしょうがなくなってしまう。

ギュッと目を閉じて小さく震える私に、獅雪さんの苦笑が聞こえてきた。




「安心しろ。まだ取って喰う気はねぇよ。

 ただ、一緒の時間を長く過ごしたいだけだ……。

 だから、そんなに怯えるな。昔に戻ったようで悲しくなる」



「ご、ごめんなさいっ。私、そんなつもりじゃ……」



「わかってるって。

 ほら、イルカショー見に行くぞ。丁度良い時間帯だ」



「は、はい……」




本当は、獅雪さんが私に対して何を望んでいるのか気付いてる。

もう大人なんだから、この軽い触れ合いの先に、彼が何を求めているのかを……。

だけど、まだそれに対して私の気持ちが追いついていない事を、獅雪さんは気付いてる。

わかっていて、あえて先に踏み込まず私を気遣ってくれている。

大人の獅雪さんと、……まだ精神的に子供な私。

いつか彼の気持ちに応えたいと思ってはいるけれど、

今の私に出来る事は、獅雪さんの腕に身を預け一緒に歩く事だけだった。














――バシャァアアン!




「……」



「し、獅雪……さん?」




イルカショーを見るために、屋外に出て来た私達は最前列に座っていた。

だけど、その最前列……、正確に言うと、獅雪さんの座っている位置が悪かった。

飼育員さんの言う通りに芸を見せていたイルカが、獅雪さんを見た瞬間にビクッと震えて尾を水に叩き付けてしまったのだ。

大きな水音が響き、次の瞬間には、ずぶ濡れの獅雪さんがそこにいた。

幸いな事に、私達が来た時間帯は人が少なく、この付近の最前列に座っていたのは私達だけだった。

だから……、本当に……、ピンポイントで獅雪さんだけに水が……。




「申し訳ありません!! お客様!!

 もうっ、サクラちゃん駄目でしょう? めっ!」



「キュゥ~っ」




スタッフの人が慌ててタオルを持って私達の元まで駆け下りてくる。

でも、獅雪さんの服……、拭いただけじゃ駄目だよね。

急いでどこかで着替えを調達しないと、風邪を引いてしまうかもしれない。

飼育員さんもイルカも、すまなそうに獅雪さんを見つめている。




「キュゥ~……キュキュッ」




プールからバシャッと顔を出したイルカが、頭を上下に何度か振った。

もしかして……、獅雪さんに謝ってるのかな?

可愛らしい鳴き声でが続き、それに気付いた獅雪さんが仕方なさそうに嘆息した。

スタッフの人から受け取ったタオルで服を拭きながら口を開く。




「最前列にいた俺も悪いんですよ。

 だから、イルカの方もあまり叱らないでやってください。

 このタオルだけで十分ですから」




他人が相手だからなのか、急に敬語になった獅雪さんがタオルを受け取って微笑んだ。

イルカにも優しげな笑みを向けているけれど、イルカは動物的本能からなのかまたビクッと身体を震わせた。

イルカさん……、獅雪さんが猫被ってるのに気付いているんだろうな。

怒ってないのは本当なんだろうけど、獅雪さんの中の本性……俺様的な性格を見抜いているようだ。

私も過去に、獅雪さんの恐ろしさは身に染みて体感した事があるから、その気持ちがよくわかる。

飼育員のお姉さん、イルカさんの心のケアの方、どうかよろしくお願いします。




「……なんであのイルカ。あんなに俺を怯えた目で見てたんだ……」




スタッフさん達が去って行った後、タオル片手に獅雪さんが本当に不思議そうな声音で私に聞いてきた。

動物園のライオンの子供は、獅雪さんに懐いていたよね……。

という事は、あのイルカさんが結構な怖がりさんだってことかな~と考えつつ、

私は、「さぁ、なんででしょうね~」と曖昧にごまかしておいた。

初対面では確かに、獅雪さんをまるごと理解する事は難しいだろう。

それを思えば、あのイルカさんが獅雪さんに慣れるようになるまではまだまだ時間がかかるんだろうなと

私は密かに息を吐いた。





 

 

 

獅雪的には、散々な目に遭ったという感じですが、

イルカに対しての怒りは全くありません。

なのに、気配で怯えられる獅雪。

無意識にとはいえ、彼は不憫なポジションにいるのかもしれません。

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