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俺様獅子との猛愛エンゲージ!  作者: 古都助
~第二部・俺様獅子様の出張と婚約パニック!~
22/71

~俺様獅子への出張命令~

両想い後、第二部に入ります。

いきなりの出張命令です。





「え? 獅雪さんが外国に?」




幼稚園の勤務後、家でゆっくりと雑誌を読んでいた私に、

蒼お兄ちゃんがそう告げた。

やれやれと肩を竦めているのはなんでだろう。




「土壇場まで粘ったらしいんだけどね。

 さすがに社長命令じゃ、行かないわけにはいかないし、

 征臣も、社会人だからね。

 命令には逆らえないさ」



「確か、獅雪さんの勤めている会社って、香水の開発と販売をしているんだっけ?」



「そうそう。その関係で二週間ほど飛ばされちゃうらしいね」



「そうなんだ……」




雑誌を閉じると、それをテーブルの上に置いた。

獅雪さんと恋人同士になってから一か月。

一緒にお休みの日に合わせてどこかに出掛けることはあったけれど、

最近は、どうにも予定が合わない。

その矢先の、二週間の出張、か……。




「ほのか、寂しいのかい?」



「……ちょっとだけ」




会える日が、また先へと伸びた。

獅雪さんと付き合う前は、彼が家に来ること自体に怯えていたのに……。

今では、逆に早く会いたいと心が騒いで獅雪さんの温もりを探してしまう。

二週間、か……。長いよね……。

その憂鬱な感情は、私の吐息となって外へと零れた。

蒼お兄ちゃんが、私の座っているソファーに腰を下ろし横に並んだ。




「大丈夫だよ。二週間なんてすぐだし、連絡だって出来るだろう?」



「そう、だよね……。

 仕事もあるし、そんなに長い時間じゃないよね」




背中をぽんぽんと軽く慰めるように叩かれて、私は空元気の笑顔を蒼お兄ちゃんに向けた。

意識した時間というものは、存外に長く感じられるもの。

なら、仕事に集中して、少しでもその時間を短く感じられるように心がければいい。

蒼お兄ちゃんの腕の中に身を寄せて、そんな風に私は自分をごまかす方法を思い浮かべていた。








部屋に戻った後、スマホがオルゴールの着信音を奏で、私は通話オンの表示をタップした。

相手は、――獅雪さん。

多分、用件はさっき蒼お兄ちゃんから聞いた出張のお話だと思うんだけど、

私の名前を口にした後、獅雪さんが言い辛そうに押し黙ってしまった。




「獅雪さん、……出張の事は蒼お兄ちゃんから聞いています。

 大丈夫ですよ、私、ちゃんと待ってますから」



『悪い……。最近も会えてねーのに、また伸ばすようなことになって』



「お仕事でしょう? 社会人の本分なんですから、私の事を気にしたりしないでください」



『……』



「獅雪さん……?」




自分の本音を抑えてそう言ったのに、通話の向こうの獅雪さんはまた黙り込んでしまった。

たまに通話口から聞こえる獅雪さんの小さな吐息だけが、耳をくすぐるように伝わってくる。




『会いたい……お前と……』



「し、獅雪さん……」



『出張は、来週からなんだ。 

 だから……、二日後の日曜日、俺に時間をくれないか』



「でも、出発前の忙しい時なんじゃ」



『準備はもう済ませてある。

 朝に迎えに行くから、……ずっと一緒にいてくれ』




いつもの俺様命令口調が影に隠れ、私に懇願するように囁かれるその声音は酷く切ない。

獅雪さんも、私と離れるのを嫌だと思ってくれているんだろうか。

男の人にとって、仕事は一番の優先事項だから、てっきりプライベートとの割り切りは出来ているのだと思っていた。

私だけが、寂しいと感じていたかと思っていたのに……。




『ほのか、聞いてるのか?』



「あ、はい……。日曜日ですね。わかりました。

 獅雪さん……」



『なんだ?』



「……私も、獅雪さんに会いたいです。

 日曜日、ずっと一緒に……いてくださいね?」



『……っ、当たり前だろう』




獅雪さんが素直な気持ちを伝えてくれたように、私も自分の中の寂しさを彼に打ち明けた。

通話口の向こうで、獅雪さんが息をのんだ気配がした後、

彼が急に俺様な態度に戻って日曜日の約束を確認してから、すぐに通話を終わらせてしまった。

……どうしてだろう。私も獅雪さんに会いたいって、素直に伝えただけなのに……。

獅雪さんの変化の意味を上手く受け取れず、私はスマホを机の上に置くと、寝台に横になった。






――コンコン。





「ほのか、入るよ」



「あ、はい」




部屋の扉が開くと、蒼お兄ちゃんが頭の上からタオルを被ってやってきた。

お風呂で髪を洗ったのを、タオルで少し拭いただけのラフな装いだ。

普段なら、ちゃんと髪を乾かしてから部屋に戻る人なのに珍しいな。




「ねぇ、ほのか。一応聞いておくけど、もうお見合いなんてする気ないよね」



「私は獅雪さんともう婚約してるんだから、それはないと思うんだけど」



「だよね。うん、ほのかの気持ちが固まっているならいいんだよ」



「蒼お兄ちゃん、一体どうしたの? そんなことを聞くなんて……」



「いや、別に何もないんだ。変な事を聞いてごめんね」




曖昧な表情を浮かべて、私の頭をそっと撫でると、蒼お兄ちゃんはまたすぐに部屋を出て行ってしまった。

お見合い、……。

私はもう獅雪さんとのお見合いを済ませているし、彼とも両想いになっている。

獅雪さん以外の人と、またお見合いをするなんて二度とありえない。

でも、私にはまだ一つ不安なことがあった。

それは、私と獅雪さんがまだ……仮婚約中だということ。

私の両親の都合が合わなくて、まだそれを確定させる報告に行っていないのだ。

だから、……もし、私の両親が他所からお見合い話を持ち込まれたら、

色々ややこしいことになってしまうかもしれない。

普通はありえないけれど、たまに、強引にお見合いを持ち込んでくる方がいるから、

可能性としてはないとは言い切れない。

出来れば、気のせいであってほしいのだけど……。




獅雪さんと過ごせる日曜日の約束に期待を募らせる一方で、

私は、蒼お兄ちゃんが聞いてきた問いに、小さな不安の種を心に蒔かれたのを感じていた。




出張前の甘々デート予定です。

それが終わったら、俺様獅子はおあずけの期間に入ります(笑)

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