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俺様獅子との猛愛エンゲージ!  作者: 古都助
~第一部・俺様獅子とのお見合い騒ぎ!~
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鍋屋の主と俺様獅子





私と獅雪さんの口喧嘩を一瞬で収めてくれたのは、鍋屋・勝の主、勝原恵太さんでした。

少しだけ時間がとれたからと、御座敷に上がって自己紹介してくれた恵太さんは、とても爽やかで面倒見の良さそうな男の人だった。

笑った顔が、どこか少年のようにも思える人。獅雪さんも恵太さんには素を隠さず接している。




「お前が予約入れたって聞いて、誰と来てんだろうな~と思ったら、ははっ、意外すぎたっ」



「うるさい。俺が誰と来ようと勝手だろうが」



「そうは言うけどなぁ、お前が女の子をここに連れて来たことって、初めてだろ?

 大抵は、会社の人間か、蒼ぐらいだろ」



「あの、ウチのお兄ちゃん、蒼もここに来たことが?」




大学時代の友人というならば、蒼お兄ちゃんと接点があってもおかしくはないけれど。

私は、ちょっとした好奇心で恵太さんにお兄ちゃんのことも聞いてみた。

恵太さんはそれを聞くと、意外そうな顔をして目を大きく見開いた。




「え? 君が、蒼の妹!? 嘘ぉ……、こんなに可愛くて素直そうな子が、あの蒼の……」




なんでそんなに驚いたような顔をするんだろう。

私を指さして、ぷるぷるとそれを震わせている。

まるで……、この世の七不思議にでも出会ったような表情で。

獅雪さんの方は、その肩に手をおいて慰めるようにぽんぽんと叩いている。




「信じられないのはわかる。だが、一応現実だ。

 蒼の妹、鈴城ほのかだ。俺達の三つ下だな」



「いやいやいやいやいや!! これ夢だろう!! むしろ、夢と言ってくれ!!」



「げ・ん・じ・つ、だ。てか、落ち着け。ほのかが怯えてる」




いや、怯えてはいませんよ~。

ただ、恵太さんの驚愕と青ざめた表情にびっくりしているだけで……。

どうしてこんなに、私が蒼お兄ちゃんの妹であることに現実逃避したがるんだろう。

私の知らない三人の大学時代があるんだろうけど、さすがにその反応は切ない。




「あぁ、ごめん。つい、衝撃の新事実すぎて。ははっ、ごめんな、ほのかちゃん」



「いえ、でも……、そんなに私と蒼お兄ちゃん、似てませんか?」



「いや、違う違う! 顔じゃなくて……、あー、はは、そのへんは言うと後が怖いから、

 ごにょごにょ、内緒! ってね」



「お前には優しい兄貴だろうが、俺達には別の面があるってことだ。

 別に気にすることでもねーから、ほら、鍋の続き食べろ」



「あ、はい……」




これ以上は聞かないでやれと言う獅雪さんに頷いて、深皿を持ってお鍋の煮えた具を取ろうと身を乗り出した。

すると、獅雪さんが右手を出して私の深皿を奪い、それにどっさりカニやらお肉やらを入れていく。

ダシの効いた汁も注ぎ終わると、「ほら」と深皿を差し出して私に返してくれた。

こういう時は優しいというか、世話好きというか……。

本当、獅雪さんてよくわからないや。

こんもりと盛られた深皿にお箸を向けて、お肉を一切れ熱を冷まして口にいれる。




「んっ、美味しい!」



「ははっ、そう言ってもらえて嬉しいな~。じゃんじゃん食べてくれよ。

 どうせ柾臣のおごりなんだ、ドンドン追加しちゃって!」



「へいへい。俺達で食べきれるならな。

 ほのか、口の端ついてるぞ」



「へ?」




あまりの美味しさに、もぐもぐと鍋物を食べていた私に、獅雪さんがふいに身を乗り出した。

手にはハンカチを持って、それを私の唇の端にぐいっと押し付けると、すぐにその手をひっこめた。




「全く、お前はどっか子供っぽいよな……」




美味しすぎて、どうやら急いで食べすぎたらしい。

私の口の端についていたものを拭ってくれた獅雪さんが、微笑ましそうに笑っている。

こうやって、ふいに優しい部分を見せるのが、獅雪さんのずるいところだと思う。

横柄な物言いで人を振り回すかと思ったら、こんな風に不意打ちを放ってくるのだから性質たちが悪い。

だけど、そうやって獅雪さんに優しい目で見られるのは嫌いじゃないから、さらに、困る……。




「おーい、人の目の前でいちゃつくなー。居場所に困るだろー」



「い、いちゃつっ、違います!! 私と獅雪さんはそんな関係じゃ!!」



「うーん……、なぁ、柾臣……、お前、結構苦労するタイプだったんだなぁ……」



「同情ありがとよ……」



「天然で癒し系っぽい可愛いお嬢ちゃんだけど、はは、そういう子が一番難攻不落かもなぁ」



「俺もそう思う……」




急に小声になって、恵太さんと獅雪さんが二人でコソコソ話出してしまった。

たまにこっちをチラッと見ながら、互いに肩を組み合わせて、はぁ……とため息まで吐いている。

なに? なんなの、この失礼な人達は……!

私に聞こえないように話すものだから、なんだか仲間外れになった気がしてしまう。

仕方なく、二人が内緒話を止めるまで、私は獅雪さんに盛られた鍋物の入った深皿と格闘することにした。

美味しい食べ物は、イライラを鎮めてくれる。お肉もお野菜も、カニも、まだまだいっぱいあるし、

もう今日は、鍋物パラダイスに熱中しよう、そうしよう。

そう決めると、私はお箸を手に食べることに意識を定めた。



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