俺様獅子と米俵!
これまた衝動的に現代モノに着手してみました。
―ガッ!!
「ひぃいいいいいい!!」
救いの空間に飛び込み、死に物狂いで扉を閉めようとした。
けれど、あと少し!というところで、私よりも大きな足が隙間に滑り込んで来てそれを阻んだ。
思わず、恐怖のあまり情けない悲鳴が上がってしまう。
足をきっかけに、今度は『彼』の手が扉にかかり、容易く手前へと引っ張られていく。
私よりも格段に強い力、男性の腕力に勝とうなんて到底無理な話で……。
扉が前に引かれる反動で、私の身体はグラッと力を失い前方に倒れ込もうとしてしまった。
「……っ!!」
このまま危うく玄関外のコンクリートに勢いのままご対面か!とパニックになる私を、
逞しい腕が、その進路を妨害し簡単に私の身体を自身の方へと引き寄せてしまう。
ふわっと浮き上がる感覚と、離すまいとするかのような強い力が私を抱え上げる。
一気に上昇していく視界。普段の私じゃこんな高い目線の風景は見る事ができないだろう。
気が付けば、……猛獣の檻の中に直行していた。
「いやぁぁぁぁぁ!離してください~!!」
「あぁ、うるせぇ……。静かにしろ。尻揉むぞ」
「嫌です!やめてください!!っていうか、セクハラですよ!!」
「お前馬鹿だろ?どこの世界に自分の女のケツ揉んでとっ捕まる男がいんだよ。
というか、『婚約者』なんだから、お前は俺のモンだろ」
「それはちゃんとお断りしましたー!!私には貴方のお相手は無理なんです!!」
『彼』……、獅雪柾臣に肩の上に担がれた私は全力でそれを否定した。
確かに、獅雪さんとはお見合いはしました。だけどそれは、親がどうしてもと言ってくるからで……。
一回会うだけでいいと言われた方としては、もうその義務は果たしたし、関わる必要はないんです!
ちゃんとお断りの返事も向こうの方々にしましたし!!
なのに、なのに……、獅雪さんの強い要望により、仮・婚約されてしまいましたっ。
「俺は許してない。だから、こうやって家まで来てんだろうが」
「何回来てもらっても、私の気持ちは変わりません!!
お見合いでも、貴方に気に入られることなんてした覚えもないですしっ」
「ビクビク怯えた兎みたいだったよな、あの時のお前」
仕方ないじゃないですか!
目の前に野性のライオンみたいな気配を漂わせた人がいて、
しかもそれに無言でずっと見下ろされてたなんて……。
普通の女性の感覚からして、捕食されそうな気分になったのはもう不可抗力!
それもあって、お見合いを最後まで耐えられたのも不思議なくらいなのに、
何故、断っても来るの、この人は!!
もう、最速としか言えなかった……。
お母さんに獅雪家への御断りの連絡をいれてもらった一時間後、
一軒家の自宅の前に、すごい爆音が轟いたかと思ったらチャイムが鳴って……。
『電話一本で済ませようなんて、良い度胸だな、この子兎が……』
開口一番、玄関をうっかり開けてしまった私を……肉食獣の王者が睨みを利かせて文句を言いにきたのです。
二十時を越えた闇の中、相当急いで来たのだろう王者、獅雪さんは肩で息をしながら見合いは続行だとのたまった。
別にいいじゃないですか、お見合いの一つくらい破談になったって!
獅雪さんは男性として遠目に見るぶんには、すごく整った綺麗な顔立ちをしているし、
一瞬ハーフか何かかなと思わせるような細かいパーツの均整のとれ具合をしていて、しかも身長は普通の男性より結構高い。
そんな完璧超人なルックスをしている。
なら、女性なんてよりどりみどり!いくらでもお相手は尽きないはず!!
というか、なんでこんな有望株な人がお見合いをしたのかが、私にはまるでわからなかった。
一応、お見合いの義務を果たすべく、二人きりにされても根性を出して会話は繋げたけれど……。
あのたった二時間で、獅雪さんが私を気に入る理由が出来るとも思えない。
いや、もしかしたら、断られた腹いせに通って来ているんだろうか。
だとしたら、納得がいくかもしれない。
こんなに完璧なんだもんね、あ、性格はかなり難がありそうだけど。
私みたいな平平凡凡な女に先に断られたらプライドを刺激してしまうかも……。
……そっか、それか。
「獅雪さん、礼儀を欠いてお断りしたのは謝ります。
そうですよね、イケメンの方から断ってくるべきですよね。
私が悪かったです。そのへんをもうちょっと考えられれば……」
―ベチン!!
「痛ぁあああああああああああ!」
私がこんなに低姿勢で謝ってるのに、なんでお尻をいきなり叩くんですか!!
仮にも女性のお尻ですよ!腫れたらどうするんですか!!
そう涙が出そうな心境で抗議しても、相手はどこ吹く風。
今度はお尻の肉をぎゅっとその指で摘んで引っ張り出した。
「や~め~て~!!痛いですって!!獅雪さんの馬鹿!!」
「馬鹿はお前だろうがっ、察しが悪いにもほどがある……。
ったく……、はぁ、もういい。行くぞ」
うんざりしたような顔つきで、嘆息する獅雪さん。
若干、疲れが滲み出ているかのような声音に、覚えなくてもいい罪悪感がちょっとだけ出てくる。
「どこへ!?私、行くなんて承諾してませんけど!!」
「お前の両親に許可は貰ってるから関係ないな」
「私の意思はどこに!?」
「お前に拒否権はない。俺がルールだからな」
至極当然の絶対事項のように獅雪さんが言い切っているところに、
私の兄である蒼が、休日ルックで階段から下りて来た。
まだ少し寝ぼけているようだけど、誰もいないよりはマシだ。
私は獅雪さんに誘拐される前に、蒼お兄ちゃんに向かって叫んだ。
「お兄ちゃん、助けて~!!」
「ほのか?…・…お出掛けかい?
ふあぁ……、行ってらっしゃい」
「全然聞いてない!?」
蒼お兄ちゃんは、目を擦りながらひらひらと私達を見送る体で手を振っている。
仮にも大事な家族である妹が、肉食獣な男に攫われかけているというのに!
どこまでもマイペースに状況を理解していなかった。
お母さんとお父さんは朝早くから出掛けているし……、
どうしよう、頼れる味方が一人もいない。
そうこうしている内に、獅雪さんが蒼お兄ちゃんに向き直って、
「蒼、もう十時だぞ。いつまで寝ぼけてんだよ、お前は……。
さっさと着替えて有意義な時間でも過せよ」
「ん~……、そう言われてもねぇ……。
仕事仕事で、やっとの休日だから、本当は夕方まで寝てたい気分なんだけど」
「ダレるだろう、それ……」
「うん、だから、頑張って起きてきた。
あ、そうだ、柾臣、ほのかはホットケーキが好きだよ。
予定に入れておいてあげて」
「情報サンキュ、じゃあな。ほら、行くぞ」
「嫌ですってぇえええええ!!」
信じたくないけれど、私がこの獅雪さんから逃げられない理由のひとつに蒼お兄ちゃんの件がある。
実は二人は大学時代からの親友らしく、獅雪さんがどう吹きこんでいるのかは知らないけれど、
お見合い後、なぜか蒼お兄ちゃんの協力もあり、私が逃げようと裏口を使ったり嘘を吐いても、
獅雪さんが私を逃がしたことは一度もない。
全部、鉄壁の包囲網を敷かれて私には打つ手がない。
……蒼お兄ちゃんは、妹よりも親友を大事にするんだ……っ。
裏切られた感満載で、私は米俵よろしく獅雪さんに担がれたまま門へと向かう。
怖くて一人メソメソしていたら、私の身体を担ぐ獅雪さんの手にぐっと力が込もった。
そのまま、私の自宅の前に止めてあった黒のスポーツカーの前まで来ると、
片手で助手席のドアを開け、その中に私を無造作に放り込んだ。
ゴン!……うっ、車の内部で頭打った……。
ドアをバタンと閉めると、獅雪さんが運転席に自身も乗り込みロックをかける。
無情にも、その音が肉食獣の檻の鍵を閉めるかのような音に思えて、さらに心細くなってしまった。
あぁ……、せっかくの休日が……。
こんなことなら、獅雪さんの手が及ばない勤務先の幼稚園に出勤したい……。
日曜だから無理だけど……。とほほ。
米俵にされるヒロインはどこに連れて行かれるのかっ。