ニックネーム
「じゃあお前はこれから祝だ」
つい先日のニックネーム騒動で、晴れてペラム=ハンフリーは愛称を部長より頂いた。
「思ったより良い愛称ですね。ありがとうございます」
話によると「ンフー」と「ペラペラ」が候補に上がっていたらしく、本当に良かったと肩を撫で下ろした。そんなニックネームが付いたら最後、サークルに顔を出せなくなる事態に発展しかねない。
部長は褒められたことに気を良くしたのか、椅子の上に立って誇らしげに胸を張る。
「私は思ったのだ。ニックネームとは他人からの第一印象を直接的に表すものだと! なら、安直であってはいかん! 葉加瀬がドクなのだ。日本語が英語になったのだ。なら英語は日本語にしなければならず――」
いかにも今さっき考えたであろうニックネーム誕生秘話を滔々と語りだした。
ドクというのは安直ではないのか、などと疑問が尽きなかったが、良い愛称をもらえたことで今日限りは野暮に突っ込むことはやめた。
長い説明とも演説ともつかないスピーチを終えた部長は、満足気に椅子から降りると、先ほどまでと同じく机に開いたノートパソコンに向かってネットサーフィンを再開させる。
そんな部長の姿を見ながら、そういえば、と祝は疑問を浮かべた。
「部長、部長」
「んー……なんだ」
いかにも面倒といった声色で応答が返ってくる。
「部長の愛称って何なんですか?」
「私の?」
「ええ」
そういえば部長が愛称で呼ばれているところを見たことがない。続撫子という名前から、どうニックネームが付けられるのか、無性に気になった。
「最近はニックネームで呼ばれてないな。前によく呼ばれていたのは『なで』とかだな」
「へー、かわいいですね」
「かっ――!?」
気怠かった部長の声が、明らかに温度を上げた。
「どうしました?」
変化に気付いて部長の方を見るけれど、ノートパソコンに顔が隠れて表情が読み取れない。
なんだか、微かに震えているような……。
「どうしたんですか?」
もう一度同じことを言ってみると、今度は返事がきた。
「もんだいにゃひ」
どう解釈しても問題があるとしか思えない。
「あの」
「も、問題無いっつってんだろ! 晒すぞ!」
「? はあ」
結局、その日は活動時間が終わるまで部長の顔を見ることはなかった。
続撫子 趣味:ネットサーフィン
祝(ペラム=ハンフリー) 趣味:読書