繋がれた絆
父親SIDE
結局、私は、結果を見ずに会社へ出てしまった。自分の行動がきっかけで、絶たれてしまった彼女との絆。今となってはたった一人の家族である彼女ー愛娘の玲那との絆をつくるためにしたこと。悩んで悩み抜いたすえに実行したのは、彼女のために、弁当を作ることだった。
あの子は、これでもかというくらいに朝に弱い。今まで、遅刻寸前の時間に起きていたというから、弁当を作っている暇など無いだろうと思ったし、それ以前に、彼女は料理の腕が壊滅的なのだ。残念ながら、そんな自覚は無いらしいが。
しかし、私も簡単な料理ならできるが、弁当など作ったことがない。とりあえず作って弁当箱に詰めてみたが、何ともいえない感じになってしまった。そんな弁当を、自分の分は鞄に入れ、玲那の分はテーブルに置いて、彼女が起きるのを待っていた。
…、遅い。もう8時15分になっているのに、起きてくる気配がない。弁当をどうしたものか、と思案していると、唐突に携帯が鳴った。
「美浜、どうした?今日は8時15分出勤の日だぞ?」
「ああっ、すみません。すっかり忘れていました。すぐ、家を出ます。」
「まあ、いつも真面目だから今日は特にこうする、というのはしないさ。できるだけ、早く来てくれ。」
「はい、失礼します。」
通話を切ると、どっとため息がもれた。本当に忘れていた。それが、まさか今日だったなんて!
ふと、そのとき、階段を上っていく足音が聞こえた気がした。
「起きたのか、玲那…?」
確かめたいけれど、すぐ出社しなければ。
そんな言葉を言い訳にして、私は家を出た。
玲那の弁当を、テーブルに置いたまま。
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カッ、ガチャ
「うーん、あれ?寝てたの?」
外は、もうすっかり暗くなっていた。父さんも帰ってきたみたい。
「お帰り。」
やっぱり、不機嫌な声になってしまった。ほんとは、ふつうの声で、さりげなく言おうと思っていたのに。
今日こそは、謝りたいから。
「玲那…?」
「あ、あ、あの…」
「うう、あ、これまで、意地張って、口利かなくて、ごめんなさい。あの…弁当、ありがとう。帰ってから、気づいたけど。」
「玲那…、ごめんな。本当に、父さんも、つまらない意地を張っていた。もう、私の家族は玲那しかいない。また、前みたいに楽しく暮らそう。きっと、それが母さんへの一番の供養になるから。」
「うん。よろしく、ね。」
私たちは、しっかりと握手をした。今から、新しい美浜家は始まる。結ばれた、父子の絆と共に。
「ひぐ、ひっ‥わぁぁん…っ!」
よかった、よかったよぉっ…!