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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第3章 アヒルもきれいな白色
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17.尾行

ちょっと短いかも!

17.尾行



 その日の15時半。

 午後にいつもある農学部の実験が珍しく早く終わると、今日はバイトもないので夏海と一緒にサークル会館に練習しに行こうと思った。


 しかし、農学部の実験棟を出るとすぐに予定を変更し、私はサークル会館とは反対方向に歩き出した。



 というのも、実験棟を出たときに空がキャンパスの大通りを急いで歩いているのが見えたからだ。



 ついでに言うと片手にスマホを持っていた。

 これからどこかに向かうのかもしれない。


 例の援交の噂のこともあるし、私はこっそり空を尾行することにした。





 空はそのまま正門を出ると、駅の方に向かって歩き出す。

 私も一定距離を保ちつつ、空の後を歩く。

 いつものスマホが鳴った後の急ぎようから比べれば、今の空の足取りは割と普通だ。



「お前、一体何してるんだ?」

「――――!!」



 こそこそと動いていたので、突然かかった声に私は大きく肩を揺らす。

 そして後ろを振り向いてみれば、そこにはテオがいた。

 テオは変なものを見るような目で私を見てきた。


「お前、さっきからこそこそ移動して、何をしてるんだ? 端から見るとまるで変人だぞ」


 テオは私に目配せしながら言った。

 確かに言われてみれば、端から見れば私は変人だろう。


 しかし、空のことが気になっているテオだ。それに、そもそもテオは空が援交しているって噂を知らない。

 だからこれから確かめに行く、なんて状況をあんまりテオに察されるのはよろしくない。


 そう思ってなんとか誤魔化そうと口を開けたとき、それより早くテオが私から視線を外してしまった。



「ん……? あれは、ソラじゃないか。どうしてあそこに……」



 テオは前方を歩くソラに気がつくと、少し眉をひそめて私に視線を戻す。


「お前、ソラを尾行つけてるのか? 何でだ」


 そしていつになく察しのいい質問を飛ばしてきた。

 私の方はまだ誤魔化し用の質問を考えてないというのに、どうしよう。


 テオはテオで、眉間にしわを寄せながら難しい顔をし、この状況が何なのかを結構真剣に考えているようだ。



「……もしかして、エンコウ……ってやつか?」



 そして、更に察しのいい質問をしてきた。

 これには私も思わず肩を揺らしてしまった。


「な……なんでそうだと思うの?」


 とりあえず誤魔化し用の質問を考える時間を作るためにも、当たり障りない質問を返すが。

 するとテオは顎に手を当て、考えるようにして答えてくる。


「いや、分からんが……今日一日エンコウについて考えていたんだ。今朝の梅乃の反応見る限りじゃ誰かに聞くのもよくないようだから、インターネットで少し調べてみたんだが……」


 それじゃあテオは今朝からずっと「援交」についてもやもやしていたってことなのか?

 それは聞き慣れない単語だから、空に関わるからなのか。



「ん……? ということは、今朝の梅乃の後輩の話からすると、ソラはエンコウをしているということに……」



 テオはぽつりと呟いて、かなり核心な疑問に辿りつく。

 あぁ、もうこれ以上は誤魔化しきれない気がしてきた。



「なるほどな。じゃあ俺も一緒に尾行する」

「はああ?」



 これには驚愕するしかなかった。

 テオの思いつきがいきなりすぎてびっくりだ。


「い……いや、テオ、今日バイトじゃないの?」


 私は内心焦りながら尋ねるが。


「いや、幸いにして今日はアルバイトがないんだ。ほら、急がないとソラがどんどん先に行くぞ。俺たちも急ごう」



 と、テオは私をその場に置いて、一人さっさと先へ急いだ。

 確かにテオが空のことを気にかけていて、空に不穏な噂があるのをどうにかしたいと思うのは分かるのだが。

 なんとなく、この場にテオがいていいものかと、私はテオを追いながら思った。





 そのまま駅構内に入るとすぐに電車がやってきたので、空が乗った車両の後ろに駆け込んだ。

 正直美形を連れて尾行なんて、逆に尾行の難度が上がっているのではないかと思わないでもないが、どうやら空は気づいていない様子。


 そしてそこから3駅目で電車を降りると、空は別のホームに行き乗り換えをする。当然私たちも人混みに紛れながら同じ電車に乗る。



 そこから更に5駅進むと、この辺では駅ビルなどが盛んな結構大きな駅に着いた。


 はっきり言って、この駅と空は何のゆかりもないはずだ。

 だけど、その駅の東口には大型アウトレットもあり買い物客のほとんどはそっちに行くため、空がそのまま東口の方へ行けばまだこの状況は説明できた。

 しかし、空はそんな大勢の人の波に逆らって、ビジネスホテルが多い西口の方へ向かう。



 ますます援交疑惑が深まるばかりだ。



 空は西口の噴水広場に行くと、そこで立ち止まった。

 私たちもあんまり不自然にならないような、駅舎の階段から空を盗み見る。


「……こんなところまで来て、ソラは一体何をしようとしているんだ」


 隣でテオが怪訝そうな声を上げる。

 テオがこう言うのは、これでもう4回目だ。

 最初に電車に乗るときも、乗り換えするときも、ここに降りたときも同じことを言っている。

 でも、端から見れば空の行動が不自然きわまりないのは確か。


「あ、なんか人が来たみたい」


 ちらっと視線を巡らせれば、明らかに一人、よどみない足取りで空のところに向かっている男がいた。

 黒いスーツの、髪の毛が薄そうな、中年のおじさんだった。


「……あれが、エンコウってヤツなのか?」


 テオが私の後ろから呟く。

 私もこの状況が援交以外に考えられなくて、正直に頷けなかった。



 空は営業スマイルと分かるような笑みをうっすら浮かべると、差し支えなさそうな感じでそのおじさんと話している。

 そして少しそのおじさんと話をした後、とても自然な流れでおじさんの腕に自分の腕を回した。おじさんもとても自然な流れで空の腰に手を回す。


 そして二人してどこかに移動し始める。



「よし、私たちも追いかけよう」

「あ……あぁ。あれが……エンコウなのか」



 テオは未だこの状況が信じられないらしく、困惑した状態でそうぽつりとこぼす。

 正直私もこの状況を他に説明できない。


 とにかく私たちはばれないように追うのみだ。





 そうして尾行すること10分。

 私たちは大きな車通りに面した歩道で立ちつくしてしまった。



「梅乃……ここって、ホテルだよな?」

「……うん、ビジネスホテルだよ」

「だよな……」



 西口の一番駅寄りには少し高めのビジネスホテルが並ぶ。

 しかし二人はそこには入らず、駅前にある細い道をずっと行くと、大きな車通りに面したチェーンのビジネスホテルに入っていってしまったのだ。



 もうこれ以上は私たちは入れない。



「どうしようか。私は空の噂を確かめたかったから尾行してきたんだけれど、ここまで来るとどうしようもない気がしてくる」


 昨日オケの強化練で空の援交を聞いたときは半信半疑だったけれど、ここまで来ればあの噂もその通りなんじゃないかと思えてくる。

 だって、いくらビジネスホテルったって、わざわざ乗り換えてまで来て会ったおじさんと同じ一室にいれば、することは大体限られてくるだろう。

 高校から一緒の空がそんなことをしているとは思ってもみなかったので、正直結構ショックだ。



 もうこれ以上、友達のこういうことは聞きたくないなと思って、私が駅の方に足を向けたときだった。



「――梅乃、俺はソラ本人に確かめるぞ。ここで出てくるのを待つ」



 と、テオが突然言い出した。

 見れば真剣な面持ちでホテルを見上げている。


「え? でも、ここまで来れば明白じゃない?」

「いや、中の様子まで見たわけじゃないだろう。だから俺は確かめる」



 テオはそのまま視線を私に向けて言ってきた。



「もし本当にエンコウしていたのなら、やめさせるまでだ」





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