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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第3章 アヒルもきれいな白色
91/112

15.学祭翌日

明けましておめでとうございます。

お待たせしました。

15.学祭翌日


 一日目はハンスに、二日目は魔神どもに連れ回された大学祭。まぁどっちも奢ってもらってたからそんな嫌そうな言い方はよくないけれども、ひたすらおとぎメンバーサービスの休日だった。



 そんなこんなであっという間に学祭は過ぎ去り、週明けの月曜日。

 とは言っても土日が学祭であったため、今日はその代休。

 さすがに今朝はのんびりしたいなぁと、うとうとしながらベッドから半身を起こせば、あら珍しい。



 フリードがまだベッドの下で横になっていた。

 もちろん日が昇っているので人間の姿だ。



 平日6時半に起きるときでも既に私の部屋から姿を消しているというのに、今日はまだ眠っていらっしゃる。それもベッドの方に身体を向けながら、とても気持ちよさそうに。

 実はこの生活が始まってから、フリードがこうして私が起きるときまで寝ているというのは一度もなくこれが初めて。だからフリードがこうして油断丸出しで寝ている姿を見るのも初めてなのだ。



 とそんな寝顔を見ていると、ちょっとしたいたずら心がうずく。

 普段つんけんしているやつの寝顔なんてそうそう拝めるもんじゃないから、この機にフリードに何かいたずらしたくてたまらなくなってきた。


 まずはそろりとベッドから抜け出る。いつも通りでもそんなに物音が立つわけでもないが、相手は王子でありカエル。普段から研ぎ澄まされた察知能力があるため、ここは慎重に事を運ばないといけない。

 そして床に降りて忍び足で壁際に置かれているカラーボックスのところに行く。その2段目に置いてあるヘアアクセサリー一式を持って、フリードの枕元に座る。


 まずは地肌を触らないように手櫛で髪をすく。

 うわー夜中はカエルでいるくせに、ありえないくらいしっとりさらさらだよー。

 とてもじゃないくらい手に馴染んで、すいている方だというのに妙に手が気持ちいい。下手すると私よりさらさらなんじゃないかと思うと、やっぱりこいつはただのカエルじゃない……というか王子様だしね。


 あまりに気持ちよくてついついそのまま髪をすいていると、途中で少し強く引っ張りすぎてしまったか、フリードが少し眉間にしわを寄せる。おっといけないと思ってその場で手を止めるが、フリードが起きる気配はなく、むしろどこか気持ちよさそうに息を吐くだけだった。


 それにしても、やっぱり王子様なんだなぁ。

欧米人特有の彫りの深い目元、髪色より少し濃い長いまつげ、くっきり尖った鼻梁。

 その一つ一つがとても繊細で、それらすべてが合わさって美しいフォルムを作っている。まさに天使の寝顔だ。



 どことなく、吸い込まれそうな感じで、ついつい魅入ってしまう。



 ……………………。





「おや、朝からお熱いですな。しかしもっとぐいぐい行くところですよ」





 するとどこからか突然そんな声がかかって私は思考が止まる。

 そしてすぐに扉の方へ目を向ければ、いつの間に開かれていたのか、半開きになった扉の隙間からハインさんがこちらを見ていた――それはそれはとても嬉しそうな顔で。



「――っちょ! え、ちょっと! なななななななん…………っ」

「おや、恥ずかしがっていてはいけません。そんなことではフリード殿下は落とせません」

「い……っいやいやいやいや!? そもそも何であんたノックもせずに――っ」

「失礼ですね、淑女の部屋に入るのですからノックくらいは致しましたよ。そんなことはいいですから」

「いいって、いいってそういうことじゃなくて×※○△□※っ」


 いや、何で私焦ってんのさ!?

 別に見られて困るようなことしてないよね? 見られて困るようなことしてないよね――!?



「…………あんた、人の上で一体何やってんの?」


 すると、それまで寝ていたはずのフリードが、非常に呆れた調子で声を掛けてきた。

 下を見れば、声と同じくとても呆れたように眉間にしわを寄せている。



 というか、それどころか。



「うがああああああっ何で私フリードにまたがってんのーーーー!?」

「ふふふ、わたくしが見ていないところでお二人はこんなにもお熱い朝を……」

「いやっちがっ違うってば――――っ」

「あぁもう、知らないけど早くどいてようるさい重い」


 と、いつの間にか動揺しすぎてフリードの上にまたがっていた私は、ハインさんにくすくすからかわれながらフリードに無理矢理どかされたのだった。







「朝からやけににぎやかだったな。何かいいことでもあったのか?」


 ダイニングに入るなり、いつもの定位置で既に朝食を食べていたテオがのんきに声を掛けてくる。その隣でカールが眠たそうにあくびをしていた。


「ええ、とっても。梅乃お嬢様がフリード殿下に……」

「あーわーわーわー! 何もないから! 何もしてないからとにかくハインさん黙れっ」

「ふーん、梅乃ちゃんがフリードを襲おうとしていたと……梅乃ちゃん、そいつ、カエルだよ?」

「いや、そうだけどそうじゃなくて……っ」


 せっかくハインさんの発言を遮ったというのに、どこから知ったのか単なる予想なのか、アサドがその後を続ける。もう何を否定すればいいのか分からない。


「あーもううるせぇ。朝っぱらからぎゃーぎゃーわめくなよ。別に抱き合ってたわけでもないんだろうし」

「……お前は朝っぱらからもう少し節操ある発言をした方がいいと思うけどね」


 すると朝に弱いカリムが鬱陶しそうにその場を窘めるが、その発言にフリードが突っ込む。この話題の当人でもあるのにフリードはもはや他人事だ。


「……まぁ今日もみんな元気でいいってことなのかな」

「クリス兄、それざっくりまとめすぎ」



 そんなこんなでクリスが朝食を並べてこの話はここで終わる。

 まったく、別に見られて困るようなことしてないのに、側近や魔神(赤)に無駄に話を飛躍させられて無駄に焦ってしまった。

 まったく、人をからかうのもいい加減にしてほしいところだ。



「そういえば今日はあいついないのね」


 落ち着いて朝食を食べ始めて約5分。

 朝食の時には嫌でも顔を見合わせなくてはいけないハンスの姿が、今日は珍しくなかった。


「あぁ、今日から海洋実習だとか調査だとかで早朝に出かけて行ったぞ」


 と、隣のテオがその質問に答えてくれる。

 そういえば一昨日そんなこと言っていたっけ。ハンスのことに関してはいけ好かなすぎてその辺の情報をすべてカットしていたからすっかり忘れていた。



 まぁそんなことは私にとってはそんなに問題ではないからどうでもいいのだが。

 それにしてもだ。



「…………テオ、今日なんか生き生きしてるね?」


 ダイニングに入ってきたときから感じていたけれど、今日のテオはやけに肌がつややかでどことなく楽しそうだ。テオは別に朝が苦手というわけでもないようだけれど、こんなに生き生きしているのは、火曜日の朝くらいだと思っていたのに。


「何、何かいいことでもあったの?」

「え――っいや、特に何もないぞ、特にな!」


 そう言いながらテオは誤魔化すように手元のサラダを無理矢理口に含む。

 ものすごく不自然。どっからどう見ても図星にしか見えないのだが。


 しかし「いいこと」か。

 昨日、学祭で何か「いいこと」でもあったということか。


「ふーん……あのあと途中で空に会って一緒に回ったとかそういうところ?」

「ぶふぉっ」

「ちょっと汚い、下品」


 ふと頭に浮かんだ考えをそのまま口に出しみれば、案の定分かりやすくテオはむせた。

 昨日、あの後テオは一人中央講堂に向かっていった。中央講堂の二日目の演目の中にバレエがあったから、多分あれを観に行ったんだと思うけれど、そこで空に会っても不思議じゃない。


「ふーん、なるほど。それはつややかになるわね」


 私はトーストにバターを塗りながらからかいを含ませて言ってやる。

 テオは隣なのでいちいち動向を見ているわけでもないけれど、動揺する様子がありありと分かった。


「いやっそういうわけではなく――っ」

「まるでテオ君、乙女みたいに真っ赤だよー?」

「…………っく」


 極めつけにはアサドが向かいからニヤニヤしながらテオをからかう。正直アサドの言うとおり、気になる子と一緒に回ったからって朝から嬉しそうにしたり、それを言い当てられて顔を真っ赤にするとか、どこの女子だと言いたいくらいだ。


 だけどテオはそれ以上は喋らず、赤い顔のまま黙々と朝ご飯を頬張るだけだった。

 まぁ、気になるけれど恥ずかしいのならこっちも根掘り葉掘り聞いたりはしない……たまにはね。







 学校が休みとはいえ、オケの練習は休みじゃない。

 それどころか、定期演奏会まであと一ヶ月弱しかないからと、今日から強化練習が始まる。うっかり忘れそうなところだった。

 いつものオケの練習は学校の授業後の18時から始まるのだが、強化練習は土日や祝日を使うため、昼の13時から始まる。今日みたいな代休も同じだ。

 そのためあんまりゆっくりしないで、音出しのために12時前にはサークル会館に着けるように家を出た。



 予定通り12時15分前にサークル会館に着いてオケの練習場である2階に直行しようとしたところで、1階の自販機コーナーでオケの男共が4、5人群がっているのが視界に入る。そいつらの一人が私に気がつくと、「あ、ほら佐倉さん来たしこの話やめよう」という声が漏れ聞こえてきた。

 私はすかさずそいつらに近づく。


「おはよー。何、何話してたの?」

「おはよー……おはよう? もうおはようの時間じゃないんじゃ……」

「おはようございます、佐倉さん! そういえばそろそろ音出ししないと……」

「うむ、良い心がけである。だけど何話してたのか教えてくれないかなぁ?」

「「「うぐ……っ」」」


 無駄にはぐらかそうとしてきたけれど、その手には乗らない。そもそも私の名前が出た時点で良くも悪くも気になるし。

 私はその中の同期の男にぐいぐいと詰め寄る。ちなみにこいつはホルン吹きだ。


「ねぇねぇ、私に言えない話って何?」

「い……いや、別に佐倉さんのことじゃないから佐倉さんが気にすることでもないよ」

「じゃあなおさら私に話せることだよね? ほら、言っちゃいなよ。てか言え」


 私が威圧的に言うと、そいつは少し縮こまりながら目線だけで他のメンツに何かを語りかける。しかし、途中で観念したように両手を挙げた。


「はぁ、佐倉さんて言い出したら聞かないところあるもんね。分かったよ、言うよ」


 それだけ言って一つため息を吐くと、先ほど話していたらしい内容を語り出す。私と他の野郎共はそれを見つめる。


「ほら、バレエ部の辞めた人いるじゃん? 羽山さん――だっだっけ?」


 出てきた名前に私は少し目を丸くする。それを見てホルン吹き野郎は少し気まずげな様子になる。

 まさかいきなりここで空の話題が出るとは思っていなかった。


「空のこと? 空がどうしたの?」

「あぁ、いや全く大したことじゃないんだけど、一昨日隣駅のラブホ街でおっさんと一緒に歩いてるの見てさぁ……」

「は?」


 ラブホ街でおっさん?

 そもそも何で一昨日こいつもラブホ街なんかにいたんだとつっこみたいところだが。


「でも俺たちも別の日に見たんすよ! そのときはビジネスホテルに少し小太りのおっさんと一緒に入ってくところを」

「俺が見たときは結構いい料亭に若めの男の人とちょっと渋い感じの男の人と一緒に入っていくところだったな」

「僕、大学から高級車に乗るところも結構出くわしてるんだよなぁ」


 と、口々にその場にいた野郎共が言い出す。

 いや、別に学校の界隈や近くの駅にラブホ街とかホテル街があるわけでもないのだが、何でみんなそんな現場に出くわしているのか、そこから疑問なのだが。


「……それで、空がそんなところにいたからって何が言いたいの?」

「ほら佐倉さん、考えてみてよ。とりあえずホテルとかそういうところにおっさんとふたりだよ? もしかして羽山さんて援助交際してるんじゃないかって……」

「はあ? あんた何言ってん――」

「でもそうとしか考えられなくない?」

「それは……っ」


 いや、でも確かに言われてみれば可能性は大いにある。

 今の話でもそうだし、この前、学祭前に二つ隣の駅で見た光景もそうだ。

 あの日も若い男の人とおじさんっぽい人と一緒に高級車に乗り込んでいた。



 ……でも、援交?

 あの真面目そうな空が?



今年も王子たちをよろしくお願いします。

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