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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第3章 アヒルもきれいな白色
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10.大学祭1日目その1

第三者視点です。

サブタイトル変えるかもです。

10.大学祭1日目その1



 4月以降よく来るようになった駅の改札を出れば、出てくる人を待つ人混みの中に一際目立つ長身の銀髪が見える。その人は周りにいる人みんなから注目を浴びているが、そんなことにはつゆも気にする様子もなく、こちらに向かって手を振っている。


「こんにちは、楠葉ちゃん」

「こんにちは、クリスさん。やっぱり今日はすごい人ですね。みんな大学の方に流れてってる」


 楠葉は改札周りの人だかりを見ながら言う。その中には楠葉と同じ高校生らしい人が多くいたが、他にも小中学生や大学生、そして社会人など、様々な人が集まっている。彼らのほとんどは待ち合わせしていた人と会うと、駅の西口方面へと流れていく――梅乃の大学がある方角だ。


「そうだね、一大行事だからね」


 クリスも同じ方角に目を向けて言うと、楠葉の方に顔を戻して優しく微笑んだ。


「じゃあ僕たちも行こうか」




 6月1日土曜日。今日明日は梅乃の大学の大学祭だ。

 校門から構内に入ると、キャンパスの大通りに沿って沢山の露店が並んでいる。その前には、それぞれの露店で買い物をする客の列やぶらぶらと回る人、売り子をしている学生など、多くの人で賑わっている。


「なんだかお腹すくね。楠葉ちゃん、何か食べたいものでもある?」

「えっうーん、沢山お店があって迷いますね……」


 並んでいる露店のほとんどは食べ物系で、たこ焼き、焼きそば、お好み焼きなどの定番メニューから、ホットドックや焼き鳥など、昼時には食欲をそそられるようなソースと肉の香ばしい匂いがあちこちから立ち上っている。他にもクレープやワッフルなどのお菓子系もあるが、時計を見れば12時30分前、ここはやはりご飯系だろう。


「というかクリスさんはここに並んでる食べ物は食べたことあるんですか?」


 そういえばクリスは留学生だ。最近では日本食ブームであるし、日本に留学に来る外国人は割とたこ焼きやお好み焼きなどのメジャーな食べ物は食べたことあるらしいが、クリスはどうだろうか。楠葉は尋ねてみる。


「実はどれも初めてなんだ。だからどれから食べていいか迷っちゃうね」


 と、クリスは困ったように笑いながらお腹に手を当てる。おとぎの国にもホットドックやフランクフルトなどの食べ物はあることにはあるが、それは庶民の食べ物だ。クリスたち王子が食べることはほとんどない。


「じゃあまずは定番からですね! たこ焼きか焼きそばか……沢山お店あるけどどこがおいしいんだろう……あっ」


 きょろきょろと楠葉が視線を巡らせていると、突然クリスが楠葉の手を取った。

 突然のこと過ぎて、楠葉は心臓が止まりそうになるが。


「あぁ、ごめん。人が多いからはぐれちゃいけないと思ったんだけど、突然手握られたら困るよね? そうだよね、困るよね……」


 クリスは楠葉の手を握りながら、尻すぼみ気味に言う。特に悪いこともないのに、むしろ楠葉としては嬉しいことこの上ない限りなのだが、クリスは相変わらずのネガティブ思考である。

 楠葉はどきどきと早鐘打つ胸を押さえつつ、クリスを見上げて言う。


「い、いえ、その……混み合ってきましたし……ね?」


 と、楠葉は握られた手を少し強めに握り返す。

 すると捨てられた犬みたいだったクリスの表情が少しだけ明るくなり、口角が上がる。


「うん、はぐれないようにしようね」


 クリスはにっこりと王子さまスマイルを浮かべる。その笑顔にまたもや胸が高鳴るのを紛らわそうと、楠葉はお店の方に目を向けて歩幅を大きくする。それに合わせてクリスも歩く。


 どこか初々しいカップルのような二人は、にぎわってきた人混みに紛れて何を食べようかさまよい歩く。







 そんな二人とすれ違うようにして、夏海と由希はキャンパスの大通りを歩いていた。

 人も多くなってはきているが、在学生の二人は慣れた足取りで露店を回っていた。


「いやあ、今年も多いね。あっという間に人混みだ」


 夏海がしみじみと大通りを見渡しながら言う。手にはついさっき買ったばかりのチュロスが握られている。シナモンがほどよくかけられている。


「なんか1年生曰く、今年は超イケメンな子がいるんだって」


 と、由希も先ほど買ったばかりのフランクフルトを頬張りながら、先日オケの後輩から聞いた話を話す。


「そうなの? それは見てみたいね……ん? なんかあそこだけ異常に行列できてない?」


 由希に相鎚を打っていると、夏海はふととある露店に気がつく。他のお店もまぁまぁ人が集まっているはいるが、そこのお店だけ不自然なくらいに列が形成されていた。


 露店の看板を見れば「工学部39組たこせん」。一年生の基礎クラスのお店らしいが。


「案外ここが例のイケメン君のクラスだったりして。ちょっとどんな子いるか見ていこうよ」

「あ、それすごく気になる! ちらっと見よ見よ!」


 あまりに長い行列であるため、わざわざそこに並んでまで買うつもりはないが、本当にそこが噂の男の子のお店だったらと思うとついつい好奇心が刺激される。

 二人はそれとなくその前を通りかかってお店の中を覗こうとするが。


「あ……!」


 すると突然由希が声を上げる。

 そしてぐいっと夏海の腕を引っ張ってそこから離れようとした。


「え? ちょっと由希?」

「やだなぁ夏海。イケメン君なんていないじゃない。ほら、そろそろ音出ししないと美麗に怒られちゃうよ」

「え? え、だってあれかなりかっこよくない? 留学生だけど――」

「ほらほら!」


 夏海がもうちょっと見たそうにしているのに構わず、由希はぐいぐいと夏海を引っ張ってサークル会館の方へ向かおうとする。いきなりどうしたと夏海は疑問符を頭に浮かべる。

 しかしキャンパスの大通りは人が溢れてきているし、由希は夏海よりも小さくて力も弱いため、むやみやたらと動こうとすると危険だ。それに由希の様子も先ほどまでと違って急に刺々しいものを感じるので、夏海は仕方なく由希に従うことにした。


 由希にぐいぐい引っ張られながら夏海は頭だけ振り返って先ほどのお店を見やる。



 そこにはふわふわなショコラ色の巻き毛の白人留学生が、愛嬌のあるキラキラした笑顔でお客に出来たたこせんを受け渡していた。



 それを見て夏海はぴんと一つの考えが頭に浮かぶ。


「あ、もしかしてあの子、噂のカール君?」


 夏海は自分をぐいぐい引っ張る由希に尋ねてみる。

 すると由希はびくんと肩を揺らした。ビンゴだ。


「へーあの子が。いいじゃん、イケメンだしなかなか愛想良さそうで」


 夏海は言葉尻を弾ませて言う。

 実はカールが柳や由希と会うようになってから、オケの飲み会や夕飯の時にたびたびカールの話題が上がっていたのだ。話題に上るたび、柳からは「あいつかっこいいし礼儀正しいし良いヤツだぞ」などとカールをべた褒めする言葉を、由希からは「あいつは本当に最低なんです。もう聞きたくない」などとカールを嫌うような言葉を聞くため、どんな子なのか一度会ってみたいと夏海は思っていたのだ。


「ふん、夏海は知らないからそんなことが言えるんだよ。ほら、早く音出ししようよ」


 由希は振り返って夏海を睨み付ける。その目が「この話はもう終わり」と告げていたので、夏海は一つ鼻で息を吐く。

 それに由希の言うとおり、そろそろ音出しを始めないといけない。というのも、今はまだ12時前でオケの演奏会は14時からなのだが、その前に簡単なリハーサルと楽器運びがあるため、今のうちしか音出しは出来ないのだ。

 夏海は持っていたチュロスを食べきると、由希に従ってサークル会館へと向かった。







「あ、そろそろ俺、シフト交代だよな。抜けていいか?」


 工学部39組のテントの下で、カールはたこ焼きを焼いているクラスの友人に尋ねる。

 朝の仕込みからずっと働き続けて気がつけば13時半。そろそろカールも疲れてきた頃合いである。


「おいぃぃ、お前この列を見てそんなこと言うのかぁ?」


 しかし現シフトのチーフである友達は、かなり困った顔をした。

 というのも、店の前にはまだまだ人の列が出来ている。そしてその列に並んでいるのはほとんど女性客で、彼女たちの目当てはカールだった。

 カールは例の如く、顔だけはかなり整った美少年であるし人好きのする笑顔で接するため、一言でも話せたらと駆けつける客が沢山いたのだ。

 そしてそれは現在進行中である。


「えーでもシフト交代のやつも来たし、俺別のところ行かないとならねーんだよ」

「うー……」


 カールはこの後も国際交流の方に参加しないといけないし、自分だって色々と回りたいのだ。あんまりクラスのことにばっかり構っていられない。

 チーフの友達は困った顔で行列とカールと新しくシフトに入る子を交互に見やると、渋い顔をする。


「仕方ねーな。他のやつも交代してるしな。今からシフトBな」


 チーフがテントの中でそう声をかけると、受け継ぎし切れていなかった子たちが手早く現状を伝え合って入れ替わる。カールも次のシフトの子に交代してテントを出た。



「カール、お疲れだな。どっか食い物買いに行こうぜ」


 カールと同じく休憩に入った友達が後ろから声をかけてきた。カールもクリスたち同様、こういった学祭自体初めてであるため、友人に案内してもらって色んな食べ物を食べようと考えていたところだ。

 だが時間的にどうだろうか。


「うーん……俺ちょっと中央講堂行きたいんだけど……」

「中央講堂? 何か軽音でもやってんのか?」

「いや、オーケストラなんだけど」


 そう言うと友人は眉を変に曲げてカールを見てきた。


「オケぇ? お前ああいうの聞くのか? ああでもドイツだったら普通なのか?」

「え? あぁ確かにニッポンじゃあーゆーの馴染まないんだとか? でも知り合いが出てるんだよ。俺ちょっと聞いてくる」

「じゃあ俺適当にその辺ぶらついてるから、終わったら連絡してくれ」


 あからさまにクラシックが好きそうでない友人は、その場で手を振って別の友人の元へ向かっていく。

 それを尻目に、カールは中央講堂の方へ向かった。



 中央講堂にはそこそこ人が集まりかけていた。




まだまだ学祭続きます!

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