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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
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7.二つのお願い

7.二つのお願い


「で? たまたま手に入れちゃった私はどうすればいいの?」


 私が脱力気味に質問すると、アサドが再びビシィッと手を伸ばしてくる。今度は指を向けてきた訳じゃなく、人差し指と中指を立てている。


「ボクたちがキミにお願いしたいのは二つ。まず、ボクたちと一緒にその王子たちの監視役と、王子たちの世話役をやってほしい」


やっぱりその王子たちに関わらなくちゃいけないのか。


「監視って言っても、別に四六時中見ていろってわけじゃないんだ。ただ梅乃ちゃんが見ているときにおかしな言動とかしそうになるのを注意してほしいだけ。だからそんなに気を張らなくて大丈夫」

「監視役も世話役も、王子たちがこっちの世界でヘマしないようにすればいいってことだよね? 設備の使い方とか教えたりってことでしょ? そもそもその王子たちの情報が、ヒロインにふられたヘタレ野郎でこっちに留学してきてるってことしかないんだけど?」

「あぁ、そうだったよね。今回ボクらと一緒に来た王子は全部で5人。それぞれの詳しい情報は今言わなくても多分、一目見たら分かると思うよ。あ、そうそう、彼らはこの春から梅乃ちゃんの大学に留学生として通うから」

「なるほど。それで肝心の彼らはどこで寝てるの? てかあんたたちもこれからどうするの、寝床」


 するとそれまで横でお茶を啜ってたカリムが胡座から正座に座り直す。


「そこでもう一つのお願いだ。どうか俺達をここに住まわせてほしい」

「……なんとなくそう言われる気がしてたけど、住まわせるのはあんた達二人だけ?」

「いや、俺達二人と王子5人、あとそのうちの一人に従者が付いてるから、全部で8人だ」

「…………あのさ、それ、うちの部屋の大きさ見て言ってるの?」


 私の部屋は至って普通の一人暮らし用の8畳ワンルーム。少し収納が広くて服や鞄などがそこにしまえるため、居間は割と広々とくつろげるのがちょっぴり自慢であったりする。

 だが、あくまで一人暮らし用だ。

 そんな8畳間の部屋に、8人も人が入るわけがないでしょう。一人1畳分使えってことか? そもそも家具で8畳分のスペースもないが。それともカリムとアサドはそれぞれ指輪とランプに帰るから、実際に寝泊まりするのは6人てこと?

 いやそれ以前に、こんな仕切りもない部屋で男8人と暮らすというの? どうにかなりそう。


 だがカリムは至極当然のように答える。


「いや、それは心配ない。俺らはこの空間さえ貸してもらえれば問題ない」

「は? どういうこと?」

「――要するにね、こういうこと」

「!?」

「あ、おい!」


 アサドがぱんっと両手を叩くと、今までいたワンルームの8畳部屋が、洋風の建物の廊下に変わる。目の前には螺旋状の階段がある。

 これはワープ? テレポート?


「アサド……まったくお前は。勝手に部屋を変えるなんて」

「だってつらつら口で説明するより早いでしょ?」


 カリムは呆れ気味に言うが、アサドは何も悪気がなさそうにケロッと返す。

 そして私に向き直っていたずらっぽく笑った。


「つまりね梅乃ちゃん。ボクたちはドアのある空間さえあれば、その中を別の空間につなげることができるんだ。今梅乃ちゃんちは、ボクたちがこっちの世界で暮らすように用意されてた屋敷につながっていて、その玄関ホールに今ボクたちはいるんだ。梅乃ちゃんちのドアを開ければここにつながるってわけさ。ちなみに梅乃ちゃんの部屋はそのまま2階の右奥に移してあるよ」


 突然のこと過ぎて、そしてアサドが至極普通に答えてくるので、私の頭の中はまたもやショート気味。とりあえず2階の右奥とやらを見に行く。


 階段もふわふわしているのかと思っていたら、ちゃんとしっかりしていて、ここが本当に実際にある洋館のように感じる。

 そして右奥の扉を開けると、さっきまでいたはずの私の部屋がそこにあった。


 ……なるほど、こういうことなら確かに9人でも暮らせるし、仕切りの問題もクリアできる。


 カリムが後ろから右肩をぽんと叩く。


「こいつ強引に押し進めててすまないが、そういうことだ。いいか?」


 すると左からアサドがいたずら気な笑顔で私の顔を覗き込む。


「ね、いいでしょ? ちなみに梅乃ちゃんちはこことつながってるから、光熱費はこっちもちでかかんないよ」


 私は一つため息をつく。

 「お願い」があるも何も、私に拒否権はないじゃないか。ランプと指輪を手にしたってだけで、もうこうなるのは決まっていたのね。光熱費で私を言いくる以前の問題だ。


 でもすんなり了承するのはなんだか癪なので、少し渋ってみる。するとアサドが私の左耳に口を近づけた。


「協力してくれたら、何でもいくつでも願い事叶えてあげるよ」

「!?」


 耳を近づけるから内緒話でもするのかと思えば、先ほどまでのおちゃらけた声じゃなくてかなり色気のある声で囁くものだから、思わず肩をすくめてしまう。いくら軟派っぽいと言っても、流石にこんな甘いイケメンにいきなり耳元で囁かれたら、平常だった心臓が一気に音を立てる。

 心臓に悪い……!


「~~~~~~っ!?」


 仕上げとばかりに耳に息を吹きかけるものだから、身を縮めてしまう。一気に顔と耳に熱が集まるのが分かる。

 こういうの慣れてないんだからやめてよー。


 ってか、いくら個室に分かれてるったって、こんなヤツがいたら危険なんじゃ!?

 私いろいろ危ない……!




 ――――ゴツッ




「お前、梅乃が困ってるだろ」


 カリムがアサドの頭を殴ると、腕を首回して締める。「うぐっ」とアサドが唸る。


 カリムは申し訳なさそうな顔をすると、アサドの首を絞めてない方の手で私の頭をぽんぽん叩く。


「悪いな、こんなヤツもいるから不安だろうけど、コイツはいっさい部屋に入れないようにするから安心しろ。それに俺もこいつも魔神だから何かあったら何でも聞くし」


 私はふぅと息をつき、アサドに赤くさせられた頬をパンパンと叩く。


「うーん、未だに信じられないことだらけだけど、後戻りはもうできないしね。ただそいつはちゃんと繋いどいてよ」


 あきらめたように私が言うと、カリムはまだ申し訳なさそうな顔をしながら「ごめんな」と言うが、すぐににかっと笑う。


「ありがとう、助かった。これからよろしくな」


 あまりにも屈託なく笑うので、少し見とれてしまった。本当にアラブのさわやかイケメンって感じだ。


 アサドもカリムの腕の中から顔を上げてくすっと笑う。


「くすくす。梅乃ちゃんてばカワイー。ちょっと耳元で囁いただけなのに耳まで赤くしちゃって。なんならさっきみたいに毎朝起こしてあげるよ」


 アサドがそう言うと、再びカリムのげんこつが落とされる。

 ……是非ともご遠慮致します。あんな声で起こされたらひとたまりもない。






「それにしても、その王子たちは今どこで何してるの?」


 見た感じ、この屋敷内は私たち3人だけで、人がいるような気配がない。まだ日本に来ていないのだろうか。

 それとも寝床がなくて困ってるのだろうか? 王子が野宿とか想像できないし。


「あぁ、あいつらは今日はどこかのホテルに泊まってる」

「え、何で?」

「どこかの空間をここの屋敷につなげるには、ボクたち魔神の力が必要なんだ。だけどボクたちこっち来てから今日までランプとか指輪の中にいたから、彼らはまだ寝床がないんだよね」

「当然そういうことは起こりうることだったから、こっち来る前にあいつらにはしばらくの滞在費を渡しといたんだ」


 なるほど。それでその彼らは今はどこかのホテル住まいと言うこと。

 他にもおとぎの国からここまでどうやって来るのかとか、いつ来たのかとか、聞きたいことは山ほどあるけれど、それはまた今度聞こう。


「ねぇ、その王子たちって留学生に紛れてくるんだよね? 他の留学生との見分け方って何なの?」

「あぁそれは簡単だよ。やたらときらきら輝いていて、そんじょそこらにはいなさそうな美形で、流暢に日本語話すような留学生がいたらそれがそうだよ」


やたらときらきら輝いていて、そんじょそこらにはいなさそうな美形……? なんか今日どこかで見た気がするぞ……?


 ……ん? 流暢に日本語話す留学生? 確か今日いたよね?

 いや、あの人は留学生じゃないって言ってたっけ?あれ?違う?


「……ねぇ、そのうちの一人はもしかして留学生じゃなかったりする?」


 するとアサドとカリムは少し目を丸くしてお互いを見合う。


「いや? 王子は全員留学生だぞ」


 …………あれれ?


「んじゃあ、そのうちの一人ってカエルは飼ってない?」


 私がもう一つ疑問を投げかけると、カリムがぼそっと「あいつか」と言い、アサドは手をぽんと叩く。


「あぁ、梅乃ちゃんが何を言ってるのか分かった。そのカエル、どんなカエルだった?」

「えっと、金色に近い黄緑色のリンゴ大のカエルだったよ。やたらと流暢に日本語喋る欧米系の人がそのカエルを連れて行った」

「それ、ハインリヒだ、人間の方。梅乃が見たのは王子じゃなくて一人付き添いで来てる従者の方」


 あぁ、なるほど。どうりで「このお方」なわけだ。



 …………ん? 「このお方」!?


「そしてそのハインリヒが連れてったっていうカエルが王子様の一人。『カエルの王子様』の王子様だよ」



 「このお方」…………!!



 カエルは早速一人目の王子だったのか……!!


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