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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第2章 落とし物はこれですか
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29.ふたり並んで

梅乃視点

29.ふたり並んで



 その週の木曜日。

 …………どの週だって話ですよね。


 5月の3週目の木曜日。

 何故か大学構内で会ったアサドとテオにせがまれて、おどけたサンチョに行くことになった。

 先週のあれでしばらくバイト休みになったから、正直なところあんまり行きたくなかったんだけれど。



 おどけたサンチョに行けば、戸田ちゃんが出迎えてくれた。

 イケメンアラブと欧米人を引き連れてやってきた私に戸田ちゃんは目を丸くする。


「い、いらっしゃいませ……って佐倉さん、お一人でいいんですよね?」

「いやいや、何で私と後ろ二人を切り離すの。3人、3人だよっ」

「えー」


 すると戸田ちゃんはちらちらと後ろのアサドとテオを見ると、少し顔を赤らめながら私たちを席まで案内してくれた。

 席まで行く途中で他のバイトの子がちらちらと私たちを見てくる。みんな見慣れない外人二人組にそわそわしている様子。

 そりゃあ突然イケメンの外人だもんな。おまけにアサドは身長がばか高いからなおさらだ。



「ほう、これが家族レストランというものか」


 席に座ってメニューを見ていると、徐にテオがそう呟いた。

 隣に座っているテオを見上げると、テオはキラキラした瞳で一人店内をきょろきょろしている。

 明からに怪しい人物だ。

 しかも、はたまた何を言い始めたんだこの人。


「テオ、あの、一つ確認なんだけど。『家族レストラン』ってファミリーレストランだから?」


 私はすかさず問い返す。

 するとテオは至ってまじめに返してきた。


「ああ、そうだが? どこか間違っていたか?」

「ぷーぷぷ、あはははははっ。相変わらずのテオくんだね。ところどころホントに抜けてるよねー」


 テオが真顔で返してくると、向かいで笑いをこらえていたアサドが盛大に笑う。

 いや、本当にテオってモト王様なんだよね? って時々思うくらい抜けてるところがある。


「ねぇ梅乃ちゃん、オススメって何があるの?」


 一通り笑い終えると、アサドがメニューを見ながら尋ねてきた。

 アサドはやっぱり身体が大きいというか足が長いから、テーブルの外に足を投げ出している。なのに窮屈そうに見えないのは不思議だ。


「オススメって言っても何食べるかにもよるけれど……普通にご飯だったら各ページの一番上に乗ってるのがオススメなんだけど、私が好きなのはこれかなぁ」


 私はピザのページの真ん中にある“とろけるマッシュルームピザ”を指差した。

 するとアサドはすぐにテーブルに添えてある呼び出しボタンを押した。テオはそれを見てまた目を丸くする。


 程なくして店員がやってくる。

 と思ったらシフトに入ったばかりのクリスだった。


「みんな来てくれたんだね。それで、ご注文は何にいたしますか?」


 と、オーダーを入力する機械を持って尋ねてくる。

 アサドがさっき私が言ったオススメメニューと適当に他頼むと、クリスは慣れた手つきでオーダーを入力する。そしていつもの王子様スマイルだけ残すと、それを置きにキッチンの方へ戻る。そうしてまたすぐに別の客の対応に向かう。


 ひと月前の始めたばかりの頃だったら、おろおろしすぎてきっとアサドの笑いの餌食になっていただろうけれど、さすがにひと月も経てばだいぶ様になっている。

 それを見ているテオの方がいつまで経ってもおろおろしているような気がする。



 そこまで考えて、ふとテオのバイトのことが気になった。


「そういえばテオってバイト最近どうなの? まだ続けてんでしょ?」


 するとテオは盛大にため息を吐いた。

 そして頬杖をついて言ってくる。


「なんていうかな、電話とるたび文句ばかり言われるんだ。あぁいうのがあるっていうのがいまだに信じられないな」

「いやだってあんた、クレーム対応のコールセンターに応募したんだからそりゃあ……」

「テオくん、日に日に眉間にしわ寄っていってるよね。そのうち髪も……」

「うるさい黙れ」


 なんだかんだでテオも今のバイトを始めてからひと月くらい経っているはずだ。その間で今やっているバイトがどんなものかくらい理解しているだろうに。

 いや、理解はしてるんだろうけど、そんなものがあるってこと自体に意外を感じているのだろうか。

 まぁ、これまで王様だったわけだから、こういう下っ端の仕事がどんなものかって言うのは実際にやらないと分からないよね。


「それにしてもよくそれでひと月も持ったね。どうして?」


 私は純粋にそれが疑問だったので尋ねた。

 まさか始めた当初はひと月も持つなんて思ってもなかったからなぁ。

 

 すると突然テオが顔を横に向けて私の方を見てきた。

 私を見る灰色の瞳が、何故か真剣味を帯びていた。


「え、ど、どうしたの?」


 こんなにどこか抜けていたとしても、モト王様の欧米系のイケメン。

 そんなやつにこんな真剣な目を送られたら、少なからずドキドキしてしまうではないか。


「梅乃、サークル会館の3階でバレエ踊っている女性知らないか?」

「は?」


 どんな言葉が飛んでくるのかと身構えていたら、テオが聞いてきたことは私が考えていたこととは違っていたみたい。

 いや、私は一体何を考えていたんだ? 

 まったく顔だけと目線だけで心臓悪くさせるのやめて欲しい。


「バレエ踊ってる女性? サークル会館の3階自体バレエ部だったかバレエサークルだったかの練習場だからいっぱいいると思うけど……」

「む……そうか……」


 バレエ踊ってる女性? どうして今の話の流れでいきなりそんなことを聞いてきたんだ?

 私の返答にテオはどことなく肩を落とす。


 すると、アサドが頬杖をついてしたり顔をした。


「はっはーん、テオくん。その子に渡したいものがあるからバイト続けてるとか? 好きになっちゃったんだね、その子のこと」


 例の如くクスクス含み笑いを浮かべながらアサドが言うと、テオがばっとアサドの方を向く。若干顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。

 しかしすぐにテオはまた肩を落とした。


「いや、渡したいものがあるわけでも好きになったわけでもない。名前も知らないし顔も知らないからな」


 とどこかしんみりした様子で言った。

 しかし名前も顔も知らないんじゃ、さっきの質問からでは特定できないのでは?


「他に情報ないの?」

「他に……背中まで伸びたまっすぐな黒髪、くらいか? なんせ後ろ姿しか見てないんだ」


 背中まで伸びたまっすぐな黒髪?

 そんなのバレエ部に何人かいたような気がするけれど……。


「なにテオくんてば。後ろ姿だけ見て気になっちゃったの?」

「う。いいじゃないか、別に」


 私が記憶の中でバレエ部の子を何人か思い出そうとしていると、再びアサドがテオにちゃちゃを入れる。

 アサドにいじられているテオは、やっぱりどこかしら顔が赤い。なんとなくこれは恋に発展するんじゃないかと端で見てて思う。

 相手がどこの誰か分からないけれど、また会えるなら会えたらいいねと心の中で思う。



「ふふ、みんな楽しそうだね」


 ちょうどそのときクリスが料理を持ってやってくる。

 テーブルの上に生地がもっちり焼かれたピザやパスタが並べられる。それらはおどけたサンチョのオススメだ。

 まぁいくらオススメと言ってもあくまでファミレスだし、普段から食べてるクリスの手料理に比べればだいぶ劣るんだけれどね。




 するとちょうどそのとき。




 ―――――カランカラン。




 新しい客が入ってきたのが見えた。

 入ってきた子を見て私は目を見開いた。


 バイトじゃなくただの客として来ているときは、あんまり新しい客が来たとかは特に意識しないのだけれど、入ってきたのがよく知っている顔だったから目がいってしまった。



 入ってきたのは楠葉と雲雀透子。

 とても意外な組み合わせだった。



 え、どうして? 一緒にいて大丈夫なの?

 私はどうしてあの二人が一緒にいるのかが不思議すぎてついそちらを凝視してしまった。


 戸田ちゃんが二人を出迎えに行く。

 二人ともどこかぎこちない様子でいたけれど、案内の戸田ちゃんがにこやかに話しかけると、自然に笑顔が広がったように見えた。


 しかし途中で私たちに気がつくと、楠葉は若干気まずそうな顔をし、雲雀透子は少し顔を引きつらせた。

 やっぱり何かあるのだろうか。



「梅乃さん、心配しなくてももう大丈夫だよ」



 すると、クリスが私に言った。

 見上げると、いつものように穏やかな表情を浮かべて笑っていた。


 視線を戻せば、ほどなくして楠葉と雲雀透子がこちらにむかって歩いてくるのに気がつく。楠葉は少し申し訳なさそうに笑い、雲雀透子は本当に気まずそうな表情を浮かべている。


 二人は私たちの前で立ち止まる。そして一歩、雲雀透子が前に出ると、私に向かって頭を下げた。


「本当にすみませんでした」


 突然の謝罪に私は固まる。

 え、どういうこと?

 私は雲雀透子を見上げる。

 今まで私が見てきた彼女は高慢でプライドの高い女って感じで、今だって少しだけそれが見え隠れしている。

 だけど前面に出ていたのは紛れもなく、申し訳なさだった。


「楠葉に今までひどいこと、沢山してきました。許されないのは分かっていますけれど、謝らせてください」


 彼女はそう言うと、再び私に向かって頭を下げた。

 私は意味が分からなくて楠葉を見る。

 すると楠葉は鼻で息をついて力なく笑った。


「一昨日学校に行ったってお兄ちゃんから聞いてるでしょ? そのときにクラスの子とも透子とも和解したの。まだ微妙なところも沢山あるけど、もう大丈夫。心配いらないの」


 楠葉は喋るうちにだんだんとちゃんとした笑顔になっていく。

 今まで見せてきた寂しい笑顔でも悲しいそうな笑顔でもなく、どことなく安心感がある笑顔だ。


 状況が理解できなさすぎて正直何とも言えないし、今までのことを考えたらそんなに上手くことが転がるのかと不思議ではあったけれど、なんとなく楠葉のこの笑顔を見ていたら本当に心配いらないんじゃないかとも思えてきた。


「それは楠葉が決めたことなんだよね? 仲直りしたっていうのが本当なら、私がとやかく言えることでもないし……」


 あまりに状況が変わっていることに驚きすぎて、楠葉に返す言葉が歯切れの悪いものになってしまう。

 すると、楠葉が少しむっとした表情を浮かべる。そして雲雀透子の腕に自分のを絡ませた。


「お姉ちゃん疑ってるでしょ? 今度こそ本当の本当。じゃあ透子あっち行こう」

「う、うん……」


 楠葉は無理矢理私を納得させると、雲雀透子の腕を引っ張って戸田ちゃんが案内しようとしていた席に向かう。

 雲雀透子は楠葉と一緒に歩き出したが、少ししてまたこちらに振り返ると、頭だけ下げていった。




「彼女、透子ちゃんね。羨ましかったんだって、楠葉ちゃんが」


 いまだに頭が追いついていかずにぐるぐると考えていたら、席に座る二人を見ながら徐にクリスが話し始めた。


「楠葉ちゃん、梅乃さんもそうだけど、家族で仲がとてもいいでしょ? でも彼女の家はそうじゃなかったみたい。だからいつも家族の話で楽しそうにしている楠葉ちゃんがとても羨ましかったんだって」

「でも、それがいじめる理由にはならないよね?」


 クリスは私の方に顔を向けると、力なく笑った。


「彼女、接し方が分からなかったんだって。学園が学園なだけに、彼女の周りには家柄に惹かれて寄ってくる子たちばかりだったみたいで、気がついたら家柄を盾に好き放題してしまっていたみたい。それは決して許されることではない。だけど――」


 そこまで言うと、クリスは再び顔を二人の方に戻す。


「だけど、結果的に楠葉ちゃんがいじめられることになってしまったのはとても残念なことだけれど、でもそこで間違いに気がついて前に進められたのは、ある意味よかったと思う」


 「まだまだ時間がかかりそうだけどね」と最後にくくってクリスは力なく笑った。

 だけどやっぱりクリスの笑顔もどこか穏やかな色を浮かべていた。


 私は改めて楠葉と雲雀透子を見る。

 やっぱりどこかぎこちない感じではあるけれど、以前のようなぴりぴりした感じはなかった。

 そしてやっぱり楠葉の表情は、先週までとは異なって明るい色をしていた。



「ふーん、クリスが何かしたとかあるのかな?」

「えっ」


 すると、突然またアサドがよく分からないことを言い出した。見ればアサドはいつものようにニヤニヤと笑っている。

 聞かれたクリスはアサドの顔見ると、どこか気恥ずかしそうな仕草になるが。


「あ、僕仕事に戻るね。じゃあまた後で」


 と、逃げていった。


 まったくもって今のアサドとクリスのやりとりは意味が分からないのだけれど、絶対何かがあると見た。

 そう思ってアサドを見やるけれど、アサドは相変わらずニヤニヤしながら片眉を上げただけだった。



「それにしても本当にお前たちは兄妹仲がいいよな」



 すると隣からテオのそんなしみじみとした声が聞こえてきた。


「まぁね」

「あぁ、いいことだ」


 突然褒められてしまい、私は若干気恥ずかしくなって楠葉たちの方に視線を戻した。



 二人はおどけたサンチョに入ってきたときに比べると、だいぶうち解けたように見えた。



 妹を大事に思う姉心でついつい気にしてしまうのだけれど、でも楠葉の言うとおりもう心配はないのかもしれないと思った。





半分くらいがテオの話になってしまいました汗汗

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