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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
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6.偶然のめぐり合わせ

6.偶然のめぐり合わせ


「改めて、ボクはランプの魔神のアサドです」

「俺は指輪の魔神のカリム」

「……佐倉梅乃です」



 込み入った話をする前にまず自己紹介、ということでアサドから順に名乗る。


 ……いや、何普通にお茶片手にテーブル囲んで座ってるのとか、色々つっこみどころはあるけれど、突っ込みだしたらこの人らキリがなさそうなので黙っておく。



「――――さて、ボクたちは今いるこの世界とは違う、メルフェンとファンタジーの世界、おとぎの国からやってきたんだ。おとぎの国の中には大小たくさんの地方があって、よくみんなに知られているようなグリム童話とかアンデルセン童話とかも、グリム地方、アンデルセン地方として存在しているんだ。その中にも赤ずきん領とか白雪姫領とか色々領土があるんだけど、まぁそういった地方をまとめるおとぎの国の中央役場っていうのがあって、ボクとカリムはそこで働いているんだ」


 一息ついたところでアサドがおとぎの国について説明してくれる。その横でカリムがうんうんと頷いている。そしてこっちに「な、言ったとおりだろ?」という顔を向けてくる。


 もうこれ、信じるしかないじゃないか。


「それで? そのおとぎの国の役人さんがこの世界に何しに来たの?」


 私が一つ疑問を返すと、アサドはわざとらしく盛大なため息を付く。


「ちょっとその前に梅乃ちゃん、おとぎ話ってどれだけ知ってる?」

「え? そんな、いきなり言われてもぱっと出てこないけど、さっきアサドが言ってた赤ずきんとか白雪姫とか灰かぶりとか……あぁ、シンデレラって2パターンあるんだったよね、茨姫とかも。あと美女と野獣とか親指姫とかイソップ童話とか?」

「まぁ、沢山あるんだけど、じゃあ、女の子が読むおとぎ話の王道ってどんなのだっけ?」

「えっと、小鳥も寄ってくるような心美しい可憐な女の子が、悪い継母にいじめられたりとか殺されてしまったところを白馬に乗った王子様が助けて、一目見て恋に落ちてめでたしめでたしとか、そういうの多いよね」


 そういうの読んだのはもう10年以上も昔の話で、あとはあの世界的人気なアニメ映画をたまに見るくらいだけど。女の子向けの童話って、「いじめ」「継母」「白馬に乗った王子様」「目覚めのキス」などなど、恋と夢に満ちあふれた物語が多いよね。

 いわゆる「恋に恋した」お姫様と王子様が恋に落ちる話。

 おとぎの国にはそういう「恋に恋して」くっついたカップルばっかなんだろうか。なんだかこっちの世界の非じゃなさそうだな。


「まぁ、そういう話が多いよね。そういうのの王子様って、物語にもよるけれど、ヒロインが一番苦しんでいるときとかどうしてる?」

「えっと、出番ないよね? ヒロインがひたすら頑張ってるシーンだもん」

「じゃあどういうタイミングで出てくる?」

「えーと最後?」

「そう!」


 アサドはビシッと人差し指を私に向ける。


「最後になってようやく王子様が出てくるの結構あるよね? 最後に出てきてヒロインと結ばれてめでたしめでたし。そうやって結ばれたカップルがおとぎの国にはたくさん存在するんだ。でもそれが最近問題になってきてるんだ」

「どうして?」

「だって自分が苦しんでるときに出て来ずに、一番最後だけ出てきていいとこ取りだよ? そして颯爽とお城へ連れて帰るんだ。そういう王子様は、継母とかのいじめも城を追われる苦しみも理解できないまま、城で暮らすことでヒロインの心の傷を癒やそうとするんだ。でもそれはヒロインにしたら、王子たちは彼女たちを真綿に包み込んでその傷を覆い隠そうとしているように見えたらしい。それで自分たちの気持ちを理解していないってケンカになって、結局捨てられてしまった王子様がおとぎの国では増えているんだ」


 なるほど。すべて終わった後に颯爽と現れて連れて行くんじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちを理解した王子様じゃないと、ヒロインも不満が募るってわけね。

 それにおとぎ話の恋の話はほとんどが一目惚れだ。王子様からすると、女の子が苦難にも負けずに耐えている姿じゃなくて、今までに見たことがないほど可憐な姿に恋するのだが、ヒロインからすれば、苦しいときに手をさしのべてくれた王子様、この人なら助けてくれそうと思って恋してしまうため、その実態を知ればよほど幻滅するものなのだろう。

 おとぎの国のヒロインも、真綿に包まれているだけじゃ納得できないわけね。


「それでその捨てられた王子たちが、庶民で暮らす乙女心を理解するために、慰安も兼ねて、はるばるおとぎの国からこっちの世界に留学しに来たんだ」

「ふーん、わざわざこっちの国に来るほどおとぎの国にはいたくなかったのね。ヘタレた野郎どもだな」


 それにしても、果たしておとぎの国に住む王子様達がいきなりこっちの世界で無事に日常生活を送れるのだろうか。そもそも建物の設備とか服装とか、見たことがないようなものが多いのではないだろうか。

 まぁ、そういう王子たちがこっちに来ているだけであって、きっと私とは関係ないのだろう。なんか、いやな予感もするけど。


「それで、その王子たちはとりあえず分かったけど、役人のあんた達は何しに来たの?」


 ちょうどアサドがお茶を飲んでいるところに質問してしまったため、カリムが代わりに答える。


「俺達はその王子達がこっちの世界で下手なことをやらかさないための監視役で来たんだ」


 なるほど、監視役。確かにちゃんと監視と面倒見る人が必要だ。

 あれ? でも……。


「監視役なのに指輪とかランプとかに入ってたんですか?」

「そう、そこだよ!」


 お茶を飲んだアサドが再びビシィッと指を向けてくる。


「そこでキミが必要なんだ! ボクもカリムも普段はランプや指輪から出て仕事しているんだけど、向こうの世界からこっちに移動するにはその中に入らなくちゃいけなくてね。しかもこれが厄介で、誰かの手に渡ってこすってくれないと中から出られないんだ」

「それ、監視役としてどうなの……? あれ、でも待って。それがどうして私なの? 夏海の話だと、アサドが入ってたランプは普通にお土産屋さんの店頭に並んでたんでしょ? しかも指輪は値引き交渉で出てきた道具だって……」


 それを言うと、アサドはいきなり笑い出し、カリムは眉間にしわを寄せて舌打ちする。

 え? 私何か変なこと言った?


「あーははははは! ホントにカリムってそういう立ち位置だよね。店頭に並べてもらえずにオマケだってさ!」

「うるさい、俺だって不愉快だ。よりにも寄ってお前のオマケとか。あの選んでた子があんなに粘ってなきゃ、果たして俺はどうなってたか」

「ホントお前って不憫なヤツ。忘れられやすいし。今回は忘れられなくてよかったね」

「お前に言われるのが一番腹が立つ」


 げらげら笑いながらカリムを指さしてからかうアサド。お腹まで抱えちゃって、指輪がランプのオマケだったことがよっぽどおかしかったのだろう。そしてそれに対してカリムは顔をしかめる。

 これだけ見ると、上下関係が分かってしまうよね。


 それで? えーと、この二人の会話からすると、まずランプとサファイアの指輪が揃ったのは偶然てこと? そんでもって。


「私はたまたまランプと指輪を手に入れちゃったってこと?」


 慎重に確認するように聞くと、アサドは笑いすぎで目に涙をためたまま、カリムは不機嫌な仏頂面で頷く。



 ……もらったものにケチ付けるのはしたくないけど、夏海、あんたにもらった誕生日プレゼントは、実はかなりとんでもないものだったよ

 



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