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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第2章 落とし物はこれですか
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17.狭いブースの中で

更新が遅くなってしまって大変申し訳ありません!

再び再稼働です!

17.狭いブースの中で


 あれから楠葉に学校のことを尋ねようと思ったけれど、正直どう聞けばいいのか分からなかった。

 「学校、楽しい?」なんて回りくどく聞いたところで、顔に笑顔を貼り付けて「うん、楽しい」なんて返されたらそのあとどう返せばいいのか分からない。

 逆に直接的に「あんたいじめられてるの?」なんて聞けるわけでもない

 それに楠葉の友達の話の中で楠葉の名前が出てきたわけじゃないし、憶測で当の本人にそんなことを聞いたら気分を悪くするだろう。

 いや、でも間違いない気はするんだけど。

 はぁ、こんなときにどう切り出せばいいか分からないなんて、お姉ちゃん失格だわ。

 お兄ちゃんの気持ちが今なら分かる。



 そんな情けない状態で日が過ぎてゴールデンウィーク後半に突入。


 と言っても、残念ながらこれといった予定がない。


 去年までは夏海や由希とケーキバイキングに行ったり、オケのメンバーとプロオケの演奏聴きに行ったり、恭介や神崎たちと温泉ドライブに行ったりしていた。

 なのに今年は、夏海はハンスと一緒に旅行、由希は子供向けイベントのバイト。オケのメンバーはそれぞれ学部の友達と予定が入っているみたいだし、恭介は剣道部の合宿で神崎は珍しく帰省。見事にみんな予定が入ってしまっていて、それぞれ空いている日があるとすれば最終日。


 今年はおとぎメンバーもいることだし、いつものメンバーと遊ぶのは仕方ないから諦めることにした。けれど、どうせハンス以外みんないるだろうし後で考えようなんてゴールデンウィークの予定を決めずに無計画に悠長に構えていたら、3日の朝食の席に人が減っていて焦った。


 残っていたのは、魔神二人にフリードにクリス。

 どうやらカールは友達と京都に遊びに行ったみたいで、テオは休日なのにみっちりバイトが入っているみたい。テオはバイトを始めてからというもの、日に日に不機嫌オーラを纏っているけれど、よく続けていられるなと感心。ハインさんは主人ほっぽり出して『CAFE Frosch in Liebe』の経営に勤しんでるみたい。そしてそれを未だにフリードは知らないらしい。

 というわけでみんな朝一で出かけていったらしいけれど、残った魔神二人も教えてくれなかったけれど何か予定が詰まっているみたい。というかあの二人王子たちの監視役で来たのに、丸投げ状態だな。


 結局、本当に予定が無いのは私とフリードとクリスだけだった





「ねぇ、どこか遊びに行かない?」



 5月4日の昼過ぎ、3人だけになったダイニングで私は提案した。


 昨日は結局やることが無くて家でゴロゴロだらだらして一日を無駄に過ごしてしまったけれど、さすがに華の女子大生それではいかんと思って、二人を誘い出すことに決めた。



 しかし、私の期待とは裏腹に、クリスの形良い眉が見る見るうちに下がっていった。



「あれあれ? クリスさん? ビュシエールくん? 何故そんな悲しそうな顔をしているのでしょう?」


 今の私の言葉のどこにクリスのネガティブスイッチがあったのだろう。

 クリスはかなり悲しげな表情をしている。


「あんたと一緒に行きたくないんじゃないの?」


 と、横からいらんことを言ってくるのはフリード。

 こいつはいちいちそういう余計なこと言うよね、本当に。


 するとクリスは椅子の上で体育座りになり、右手の人差し指をテーブルの上で行き来させる。


「せ、折角誘ってくれたのに、不甲斐なくてごめんね。あぁもう、本当に僕はダメだ」

「え、ちょっとクリスさん? 何のこと言ってるのかまったく分からないんだけど」

「てか不甲斐ないのはどうしようもないよね」

「本当に、本当に僕はダメな人間だぁ」


 よく訳も分からず突然ネガティブオーラを放ち始めたクリスに私はため息を吐いた。フリードは隣で鬱陶しそうにしている。

 どうしたものかと考えあぐねていたら、クリスがその理由を話し始めた。


「先週ね、研究室のセミナーで研究計画発表したんだけれど、かなり酷評受けてしまってね、結構色んなところが抜けていたんだ。それだけでも不甲斐ないのに、休み明けにその発表のやり直しを言われてしまって、それの準備をしなければいけないんだ」


 といじいじ指を動かしながらぶつぶつ言う。

 これがマンガだったら上から何本もの縦線がクリスに刺さっていることだろう。

 要するにクリスは研究室のゼミでやり直しを言い渡されるほどのダメ出しを食らって、休日どころではないらしい。そして相当それで凹んでいるようだ。


「それでね、今日はその調べ物をしようと思って図書館に行こうと思ってたから、遊びには行けないんだ。ごめんね」


 そして座り直し、テーブルに両手をついて私に頭を下げた。


 しかし私は今のクリスの発言でいい案が浮かんだ。


「図書館、いいね。フリード図書館行こうよ」

「は? 何で今のからそうなるわけ?」


 私の突然の言葉に、フリードが胡乱げな目を向けてきた。

 クリスは涙目をきょとんとさせてこっちを見ている。


「だって家ん中にいるのも退屈。それなら図書館のAVコーナーで何か映画でも観ようよ。その間クリスは調べ物すればいいし」


 私がそう言うとクリスはばっとこっちに身を乗り出してきた。


「ほ、本当かい? あぁ、僕も一緒に観られないのは残念だけど、一人で図書館に行くのはやっぱり寂しいからとても嬉しいよ」


 お得意のキラキラ王子様スマイルで私の両手を握ってきた。

 こんなに感謝されるほどのことを言ったつもりではなかったけれど、相当落ち込んでいたせいか、一緒に図書館に行くだけでも嬉しいらしい。


「フリード行くでしょ?」

「はぁ? 何で僕も行かなきゃ……」


 フリードはめんどくさそうにため息を吐きながら「行かない」と言おうとしたが、それは最後まで紡がれることはなかった。

 何故ならクリスが謎のキラキラ光線をフリードに送っていたからだ。


「ちょっとそんな目でこっち見ないでよ」


 フリードが眉間にしわを寄せて迷惑そうな顔でクリスに言うと、クリスのキラキラ光線はだんだん曇り始め、うるうるの目に変わる。

 そして再びテーブルの上で右の人差し指を行き来させる。


「そうだよね。一緒に来てくれるって言う梅乃さんが優しすぎるだけで普通は僕なんかと一緒に来たくはないよね」


 と再び影を背負い始める。

 その様子にフリードは呆れた目をクリスに向ける。


「あのさ、それ遠回しに僕のこと悪く言ってるよね」


 はぁとため息を吐きながらフリードが言うと、クリスは顔を両手で覆い隠す。


「ほら、やっぱり僕となんか行きたくないんだよ」


 と、涙は流さないものの、しくしくとその場で悲しむ。

 フリードは再び盛大なため息。


「あぁ、もう、分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」


 フリードが諦めたように一言それを言うと、クリスはばっと顔を覆っていた両手を外し、キラキラうるうるした目をフリードに向けた。


「本当かい!? あぁ、持つべきものは友達だね! 僕とっても嬉しいよ!!」


 クリスは私にしてきたのと同じようにフリードの両手を握る。握られたフリードは露骨に不快そうな顔をしたが、喜びの頂点に達したクリスには関係ないみたいだった。

 てか、この一連の流れを見てたら実はクリスは計算してやっているんじゃないかという考えもよぎったけれど、どうやら無自覚の天然でやっているよう。ある意味侮れない人物だと思った。









「はぁ。あんたもクリスの奴も本当に調子が良すぎて恨みたくなるね」


 フリードが隣でため息混じりにそう言う。



 3人で市立図書館に来ると、その1、2階が一般書架コーナーでAVコーナーが4階にあるため、クリスとは1階のエントランスで別れ、フリードと一緒にAVコーナーにやってきた。

 ちょうど受付でどの映画を見るか考え中である。


 隣でフリードは文句たらたらである。


「いいじゃない、フリードこういうの初めてでしょ? 楽しまないと」

「いや、そういう問題じゃなくて……はぁ」


 と、フリードは極力私からキョリを話して座りながら、ぶつぶつこぼす。

 正直はっきりしない物言いに、私は何が言いたいのかさっぱりだ。


 そんなことよりもこっちは早く何観るか決めたいのに。


「ほら、フリード何か観たいのある?」

「別にどれでもいい」

「どれでもいいってやる気のない返事だな。やる気のないカエルだな」

「ほっといてくれる?」


 こんなやりとりをさっきから10分くらい続けている。いい加減受付の人にも迷惑だろう。とそんなことをしていたらトイレに行きたくなってきた。



「もう、決まらないなぁ。ちょっと私トイレ行きたくなってきたから、戻るまでの間に決めといてね」

「勝手なやつ」

「うるさいな、決めといてよ」

「はいはい」



 フリードはため息を吐きながら肩をそびやかす。

 まったく、感じの悪いカエルだ。



 私はその場にフリードを残してトイレに向かう。





 AVコーナーには全部で20個の鑑賞ブースがあって、そのうちの2人用ブースにただいまフリードと並んで座っている。トイレを済まして戻ると、フリードはちゃんと言いつけ通りに何を観るか選んでくれていた。


 けれど。



「ちょ……っちょっと何でこんなの選んだのよ」

「だってあんた、好きなの選んでいいって言ったじゃん。てか静かにしなよ」

「いや、だからってこんな……!」



 なんだかんだで出来るカエルだからとフリードに何を観るか任せていたら、一体何を考えたのか、フリードはホラー映画を選んできやがった。



 私がホラー苦手なの、いつぞやのブルーレイ鑑賞会のときで知っているはずなのに。



 観ているホラー映画は「ミラー」。


 あるところにいる二人の男女。一見仲がよく見える恋人同士だが、女の方は別の男と浮気をしていた。

 ある日、二人は少し寂れた遊園地に遊びに行く。そこには「鏡の国」というアトラクションがあり、二人はその中に入る。中に入ると、通路の壁がすべて鏡張りで、迷路になっていた。女が出口まで競争しようと男に持ちかけると、男は嬉々として中へ中へと道を進める。しかし女はその隙に入り口へと引き返す。途中で男の声が聞こえるが、女は無視して入り口から「鏡の国」を飛び出す。女は解放されたと一息吐き、男をそこに置き去りにしたまま、浮気相手の元へと向かう。

 その夜、女と浮気相手の男はホテルの中で抱き合い、ようやく結ばれたことを喜び合う。

 しかし事件が起き始めたのはそのあと。

 翌日の夜、自分の部屋で寝ていたらどこからか男の怒鳴り声が聞こえる。何事かと起き上がって部屋を見渡しても、

部屋の中には誰もいない。気のせいかと女はベッドに横たわるものの、またもやその声は聞こえてくる。もう一度起き上がり声のする方を見ると、部屋の壁に添えられた姿見に、影が浮かんでいた。女はびくっとしながらもそれを確かめる。見れば、鏡の中に自分の恋人だった男の姿が映る。男は女を恨めしそうに見ている。女は恐ろしくなり慌ててベッドに潜り、その夜をしのぐ。

 同じことは部屋以外でも起こる。

 ある夜、浮気相手の男と高級ホテルで一夜を過ごそうとするも、その部屋には多くの鏡があり、どの鏡にも中に男の姿が映り、女を見ていた。女は恐怖のあまり、その場に浮気相手の男を置いてホテルから飛び出す。

 その後も同じようなことは起こる。会社、お店、自宅、どこへ行っても鏡があり、そのどれもが男の姿を映している。

 女は決死の思いで「鏡の国」に行き、中に入る。するとどの鏡にも男の姿が浮かび上がる。男は怒りに満ちた形相で、手には金属バットを持っている。鏡の中にいるため、男が直接女にそれを振り下ろすことは出来ないのだが、女は恐ろしくなって「鏡の国」から飛び出る。

 その夜、恐ろしさを癒してもらおうと浮気相手の男の元へ行くと、その男は金属バットを持って出てくる。女は慌ててその場から逃げるも、浮気相手の男にその金属バットを振り下ろされ、女は頭から血を流しながら倒れる。

 女が最後に見たものは、遠くに立てられた鏡の中にいる、元恋人のほくそ笑んだ顔だった――――。




 小さい二人用ブースの端っこでフリードは涼しげな顔でそれを見ているけれども、私はその隣で両手で目を覆い隠しぷるぷる震えながらそれを見ていた。


 途中、恐怖のあまりに思わず隣に投げ出されていた手を掴んでしまった。


「! ちょっといきなりやめてくれる?」


 しかし女嫌いのフリードは私の手をばっと振り払う。

 だけど私はもう限界過ぎて、今にも泣きそうなくらいだった。


「うぅぅ、ごめん。でも私本当にこういうの無理だから何か掴んでたくて……」


 再び両手で目を覆い隠しながら言うと、フリードのため息が聞こえる。


「そんなに無理ならやめる?」


 と、いつものツンツンした感じではなく、どこかこちらを気遣うような声色だった。

 だけど私は首を横に振る。


「い……いや、見るなら最後まで見る……」

「はぁ、別にそんなに無理しなくてもいいのに」


 少し呆れの混ざった口調でフリードは言う。

 確かに嫌ならやめろよって感じではあるよね。本当に怖いもん。


 すると私が座っている横に、手が投げ出される。



「ほら、掴みたいなら掴めば?」



 その言葉に私はフリードを見遣る。

 ブースの壁に反対側の手で頬杖を付いて、ばつの悪そうな顔をしている。


 正直怖くて怖くてたまらない私にとっては、それはとてもありがたかったので遠慮なくフリードの手を掴ませてもらうことにした。

 映画が根幹に向かうにしたがって、私も恐怖の淵に追い込まれ、フリードを掴む手に力が加わる。

 その様子にフリードはびくっとするものの、最後まで何も言わずにいてくれていた。




フリードはどうしてホラーを選んだのでしょう?

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