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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第2章 落とし物はこれですか
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16.一緒に来た友達

梅乃視点です。

16.一緒に来た友達



 ゴールデンウィーク前半の3連休は特に予定もないまま、家でゴロゴロしたり学校のサークル会館でチェロの練習したりして過ごした。

 真ん中の日曜日はあまり人のいない練習室でひたすらシューマンのチェロ協奏曲を練習していたのだが、終わってスマホを見ればハンスからのメールがやたらと来ていた。

 どういう経緯でそうなったか知らないけど、夏海とあの世界的人気アニメ映画が大元の東京ディズニーシーに行ったらしく、園内のあちこちを背景にした二人の写真を添付して、「寂しいでしょ?可哀想だね」とか「こんなに天気の良い日に梅ちゃんはお家で引きこもってるのかな」とか、嫌味ったらしいメールを沢山送りつけてきた。

 最近入手したというハンスのスマホは、ただの私への嫌がらせツールにしか思えなかった。

 あまりにもタチが悪いのと立て続けに送られる写真付きメールで受信ボックスのメモリがいっぱいになりそうだったので途中から受信拒否と着信拒否にしていたら、翌朝廊下で詰め寄られて笑顔でねちねち言葉遊びをされて、結局設定を元に戻すことになった。そして買ったばかりだというデジカメを見せびらかしてきて、ひたすら自慢してきた。

 まったく、夏海もあんな男のどこがいいのやら。一日一緒にいればどれだけ腹黒かということくらい分かるだろうに、恋は盲目ってわけですか。



 とそんな休日を過ごして、休み明けの火曜日。

 この週は火・水・木と学校があるが、ゴールデンウィークを堪能したい大学教員も多く、休講になる講義も多い。

 今日も午後の実験だけですぐに終了。

 夏海に一昨日のことを聞いたら、とても楽しかったなどと浮かれた様子で、5月の連休も一緒に遊びに行くんだってさ。

 もう私があれこれ口出すのはいい加減やめようと思った。





 火曜日は例の如く、夕方からおどけたサンチョのシフトだ。

 先週の土曜日以降、楠葉がおどけたサンチョに通い詰めている。

 お兄ちゃんがあまり夜にいないから寂しかったんだって。お兄ちゃんとしても私やクリスがいるところの方が安心みたいだし、私としてもそれで楠葉の寂しさが紛れるならいくらでも来ればいいと思う。

 まぁ、楠葉がおどけたサンチョに来る目的がクリスというのも大いにあるだろうが。


 今日も夕方になって楠葉はやってきた。

 しかし、いつもは一人でやってくるのだが、今日は3人くらい友達を連れてきた。


「いらっしゃいませ、妹がいつもお世話になってます」


 と、別の店員に案内されて席に着いた4人に挨拶した。

 すると楠葉も含めて4人とも一瞬だけビクッと肩を揺らした。

 その様子に私の頭に一瞬はてなが飛んだが、3人の中で一番大人っぽい子がにっこりと可愛い笑顔で返してきた。


「お姉さんもここで働いてたんですね。こちらこそ楠葉にはいつも助けられてます」


 小首を傾けて言ってきた。

 他の2人は緊張しているのか、貼り付けたような笑いで頭を下げてきた。

 楠葉は友達といるのを見られているのが恥ずかしいのか、ばつの悪そうな顔で見てきた。


 すると、私に挨拶を返してきた大人っぽい子が尋ねてきた。


「あの、今日はかっこいい店員さんいないんですか?」


 私を見上げるその顔は、さっきの可愛らしい笑顔ではなく、少し不満が混じっている。

 なるほど、クリス目当てで来たんだな。


「彼は今日はあと1時間くらいしたら来るよ」


 私がそう言うと、その子は目に見えて嬉しそうな顔をした。

 それに対して楠葉はどこか浮かない顔をしていた。





 キッチンの方にオーダーを置きに行くと、予定よりも早くシフトに入ったクリスがいた。


「あれ? 今日早いんだね」

「あぁ、うん。用事が案外早く終わってね。今日楠葉ちゃんは?」

「今日はあっちに座ってる。友達連れてきた」


 と、キッチンからやや死角に入りがちなところにある4人席を指差した。

 私が指した方をクリスも見たけど、いつもならここで「それならおもてなししないとね」と、にっこり王子様スマイルで言ってくるのに、何故か視線をそちらに向けたまま固まっていた。

 いつもの柔らかい笑顔も消えている。


「クリス? どうしたの?」


 不審に思って私が尋ねると、クリスは視線を固定したまま、あまり大きくはない声で言った。


「ねぇ、楠葉ちゃんってあんな……」


 しかし、その言葉は最後まで紡がれることなく途切れる。


「”あんな”何?」


 私が先を促すと、クリスははっと目を瞠った。

 そして再び柔らかく笑い、首を振った。


「ううん、何でもない。気にしないで」


 と言い残して他の客の対応に回っていった。


 何か考え込んでいたけれど、クリスは一体私に何を言おうとしたのだろう。

 楠葉が”あんな”何だと言いたかったのだろう。

 

 今日のことから考えると、「あんな友達」?


 私は楠葉が座る4人席の方を見た。

 一緒に来た3人の女の子は瀬佐美女子だからか、楠葉に比べればかなり大人っぽい。

 さっき私に挨拶してきた子は、首中ほどで切り揃えられたボブを優雅に揺らしている。瀬佐美女子の黄土色のブレザーの前のボタンをきちんと閉じ、紺色のネクタイを首元まできちんと締めている姿は、さながら優等生のよう。更に長い睫と艶やかな肌と、テーブルの下で組まれた長い脚、テーブルの上に肘を突いて自分の爪を眺めている様は、洗練されたお嬢様といった感じだ。さっき見たときは化粧していなかったのに、とても整った顔立ちをしていた。

 他の二人はその子に比べれば少し制服を着崩していて少しあどけなさが残るが、良いところのお嬢様といった感じがする。


 確かに言われてみれば、楠葉がつるむ友達のイメージではなかった。

 瀬佐美女子高校は中高一貫校で、楠葉は高等部から編入した。だから学力の方は相当良い方らしいのだが、やはり他の子に比べるとうちは一般家庭なわけで、どちらかというと楠葉は幼く見える方だ。

 あまり楠葉の交友関係を知っているわけでもないけど、中学のときのイメージからすると、かなり大人っぽい子たちと友達であるのが不思議な感じだった。


 とは言え、妹が仲良くしているなら、大人っぽい子でもあどけない子でもどちらでも私は構わないのだけれど。



 クリスが彼女たちのテーブルに近づくと、楠葉の友達3人はきゃっきゃと喜んでいた。

 いつもなら楠葉もほんのりと赤くしているけれど、今日の楠葉はなんだか表情が硬い気がした。


 と、そんなことを観察していたら後ろから店長にメニューで頭を叩かれたので、仕事に戻る。





 数分後、彼女たちが頼んだスイーツセットが出来たので、私が持って行く。

 そのときになって、さっきクリスが言わんとしたことがなんとなく分かった気がする。

 外見の大人っぽさとは反面、彼女たちは非常に高校生らしく楽しそうにお喋りしていたけれど、それに対して楠葉はただ相づちをするだけだった。


 というか、よそよそしくない?


 テーブルにケーキ皿を並べながら感じた違和感について考えていたら、全然それとは関係ないことに気がついた。

 

 楠葉のカバンにいつも付けてるキーホルダーが、今日はなかった。


 カボチャ頭の少し焦げ痕が目立ったものと、新しくクリスが作ったらしいもの。

 楠葉はクリスに見せるように気に入って嬉しそうに二つ下げてたのに、それがないのは不思議だった。


 だから思わず尋ねてしまった。



「楠葉、今日はあのキーホルダー外したの? 気に入ってたのに」



 その質問に楠葉がはじけたように顔を向けてきた。

 一緒にいる友達も肩が一瞬上がった気がした。一番大人っぽい子を除いて。


 楠葉はばつの悪そうに笑って答えてきた。


「う、うん。少し汚しちゃって」


 だがその返事は、どこか不自然だった。そもそも顔に浮かべた笑顔が慌てて作られたような気がした。


「そ、それより今秘密の会議してるから、あっち行って」


 と、少し慌てたように言ってしっしと私に手を振ってきた。

 それを見かねた一番大人っぽい子が、私ににっこり笑って謝ってきた。


「すみません。どうしても聞かれたくないことなので」


 と小首をかしげて申し訳なさそうに言ってきた。

 さすがに私も妹たちの”秘密の会議”に聞き耳を立てるつもりもないので、その場から去る。



 だけど違和感は私にはびこったまま。




 何かがおかしくない?




 だってさっきの子、にっこり笑ってたけれど、あの笑顔はどこかで見たことあった。

 いや、どこかというか、毎日見ている。

 ハンスの笑い方と同じで、目がまったく笑っていなかった。


 私は他の仕事をしつつ、彼女たちのテーブルを見遣る。

 やっぱり楠葉はどこか浮いているように見えて、感じた違和感は少しずつ形を作り始めるのを自分でも感じた。





 その1時間後、ちょうどお店の外にゴミ出ししていたら、若い女の子の声が聞こえてきた。


 見れば楠葉と一緒に来た女の子3人だった。


 何もなければ気にせずすぐに戻るのだが、さっきの違和感もあるので私は聞き耳を立ててしまった。



「ねぇ透子、もうやめようよこんなこと」


 と言うのはあどけなさが残る二つ結びの女の子。


「そうだよ。少しやりすぎだよ」


 と言うのはもう一人のハーフアップの女の子。

 透子と呼ばれた一番大人っぽい子は、自分の爪を見ながら涼しい顔で尋ねる。


「そうかしら? 普通じゃない?」


 その言葉に、二人はお互いの顔を見合わす。

 そして二つ結びの方が少し前に出て言う。


「ふっ普通じゃないよっぬいぐるみのことだって――」


 ぬいぐるみ?


 透子って子は、そのまま二人に顔を向け、口端を形よく持ち上げる。

 ただし、目は鋭くさせて。


「ふぅん? そんなこと言うの。そもそもあれをやったのは私じゃあないんだけれど」

「でも命令したのは――」

「頼んだだけよ。実際にやったのはあなたたちじゃない。というか、分かってるの? 自分たちで自分の首を絞めているの。あなたたちがいくら言おうとも私には証拠がないけれど、あなたたちはどうなることか、もう一度考え直した方が良いわよ」


 それだけ言うと、透子って子は悠然と駅に向かって歩き出した。

 それを見かねた二人は、もう一度お互いに顔を見合わせてから、とぼとぼと彼女の後ろについていった。


 それをのぞき見しつつ、今の会話をもう一度頭の中で再生した。



 こんなこと。やりすぎ。普通じゃない。ぬいぐるみ。命令――――。



 そこまで考えて今日楠葉のカバンにぬいぐるみが下がってなかったことを思い出す。

 それに今日の楠葉はどこか不自然だった。




 一つの考えに答えが行き着く。




 あんまり妹のこういう話は信じたくないけれど、その可能性が高い気がする。

 そしてそのことを今まで気がつかなかった自分に自己嫌悪が差す。





 楠葉はもしかして、学校でいじめられている――――?



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