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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
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5.指輪とランプの魔神

5.指輪とランプの魔神


「ほら、お茶入れてやったから、これ飲んで気を落ち着けろ」


 と、何の違和感もなく、キッチン棚の私のお気に入りのマグカップに冷蔵庫に入れていたウーロン茶を注いで持ってくる。

 いや、持ってくると言うか、“それ”は私の背中をさすっていただけで、キッチン棚の扉もマグカップも冷蔵庫の扉もウーロン茶のペットボトルも、ひとりでに動いている。


「誰のせいでこうなったと――げほっげほっ」

「あーほらほら」


 “それ”のせいでいた殺虫スプレーはさっきの煙と同じく部屋中に広がったが、“それ”のおかげで一気に清浄された。だからこれは空気が悪くてむせたのではなく、気が動転しすぎたためである。


 “それ”はまだ私の背中をさすっている。


 ちなみに私が“それ”と呼ぶのは、一見人間のアラブ男性にも見えるが、人間のアラブ男性は指輪から出てきたり、窓を自動で開けたり、手を使わずにマグカップにウーロン茶を注ぐなんてことしないし、できるはずがない。つまり人間かどうかというとこから怪しいのだ。

 “それ”以外の呼び方としては“このオス”? いや、それはそれで良くないでしょ。


 私の背中をさする手は大きく、こいつのせいで驚かされたというのになんだか安心感が広がる。驚きすぎてドキドキしていた心臓も、震えそうだった体も、だんだん落ち着いてくる。


 私は“それ”を見上げる。


 紺色のターバンの下からターバンよりももう少し濃い紺色の髪先が見えていた。さっきは突然のことすぎて「アラブ人男性」としか認識していなかったが、角張った輪郭とはっきりした鼻梁、濃い眉毛に大きくはないが逞しさを感じさせる瞳は、かなり整った顔立ちを作っていた。アラブ人のさわやかイケメン!って感じ。

 何より特徴的なのは、瞳の色だった。瞳の琥珀色は、どことなく私を吸い込みそうだ。


 その瞳と目が合うと、“それ”は口元を上げ、目を和らげる。安心させるような頼もしい笑顔だ。


「ようやく気が落ち着いたか?」


 “それ”は私の背中をぽんぽんと叩くと、私の体から手を離す。

 私はとりあえずマグカップに注がれていたウーロン茶を飲む。



「――で、あなたはいったい何なの?」



 聞きたいことはたくさんあるが、真っ先に確認しなくてはいけない疑問を投げかける。


 すると、“それ”は至って平然とした顔で答えてくる。



「俺はカリム。そこに転がっている指輪の魔神だ」



 ……………………。


「はい、指輪の魔神ね。続けて?」


 私が額に手を当てながら先を促すと、“それ”、指輪の魔神のカリムは少し眉間に眉を寄せる。

 でも私の反応に対して文句を言うでもなく、話を続ける。


「俺はおとぎの国からやってきた」


 …………。


 なんだか頭が理解することを拒み始めた。

 指輪の魔神? おとぎの国? まるで夢見ているみたい。

 あ、そうだよ、夢なんだよ。指輪から人が出てくるとか、荷物が重くなったり軽くなったり、きっとこれは夢の中なんだ。まだ新学期も始まってないし、夏海もまだドバイなんだよきっと。


 悪あがきかもしれないけど、なんだか信じられなさ過ぎるのでそう結論づけることにして、ふらふらとベッドの中に入る。


 …………はい、おやすみなさい。








「――――っておい! 聞けよ! 寝んな!」


 カリムは勢いよく布団をはぎ取る。


「お前、俺が出てくるところ見てたくせにまだ信じてないのかよ」

「いやだって、信じられるわけないじゃない! 夢だって思いこんだ方が納得できる」

「納得すんなっ」


 カリムは私をベッドから引きずり出すと、ローテーブルの上に置いていたランプを引き寄せ、それを無理矢理私の手の中にねじ込む。


「まだ信じられないならこれをこすれ。そうすれば信じざるを得なくなる」


 ランプをこする? それってそれって、ランプの魔法使いが出てくるとかなの!?


「やだよ! なんか魔法使いとか出てきたらもう後戻りできなくなるじゃんか!」

「もう遅いんだよ。早くこすれ。やらないなら無理にでもこすらせてやる」


 私がねじ込まれたランプをカリムの手に戻そうとし、カリムは私の手に無理矢理にでもねじ込もうとする。そんな攻防を少しした後ヤツは焦れたのか、私の左手を掴んでランプを支えさせ、次に右手を掴んでランプの右側部をこすらせる。



 あぁ……! こすってしまった!



 すると先ほどのサファイアの指輪と同じようにランプの口から煙が立ちこめる。と思うと、一気に花火のようなものが口から出てくる。私はまたびくっと体を揺らしたが、カリムがそれを支える。

 飛んだ花火は窓際の方に落ち、そこから人型の何かが現れる。


 何!? やっぱりまた魔法使いなの!?


 私はカリムの腕の中でびくびくしながら現れた“それその2”を見つめる。


 果たして煙中から出てきたのは……。










「はーい、こんばんは! ボクが出てきたってことはキミは世界一の幸せ者だね。ボクはランプの魔神のアサド、キミだけのしもべだよ」









 ……………………。


 なんかとても軽そうな人が出てきた!?



 アサドと名乗る「ランプの魔神」は、カリムと同じように、金糸が混ざった赤色のターバンを巻き、裸の上に赤いベストを羽織り、大工さんが穿くような白いアラブパンツを穿いた格好で現れた。


 指輪の件の後だから、今はおびえずにじっくり観察できる。


 顔立ちもカリムと同じように褐色肌のアラブ系だが、カリムよりは少し丸みを帯びた輪郭に垂れ目の顔立ちは、どことなく甘い感じもするが、同時に軟派男って印象を与える。

 こいつもこいつで、きらきらした金色の瞳をしている。一見軽そうなのに、その瞳の色は捕らえた獲物を逃がさないって感じだ。


 と、じっくり観察してたら、窓辺に立つアサドは私とカリムを見てにやりと目元を歪めた。


「あれあれー? カリムが女の子囲ってるー!」

「うるせー。お前出てくるときもう少しトーン下げろよ」


 アサドがカリムをからかうと、カリムはため息をつきながらアサドに返す。

 なんだか親しげだ。



 カリムはこっちを振り向くと、「な」と言ってくる。


「これで信じるだろ?」


 アサドも私の方を見てクスッと笑う。


「ボクたちはおとぎの国からやってきたんだ」



 それでも私は信じられない気持ちでいっぱいだったが、もう夢だと言えない空気に押されてゆっくり頭を縦に振る。



 おとぎの国って一体何――――――――!?


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