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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第2章 落とし物はこれですか
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11.男子はバカなのに器用だ

梅乃視点。

バレーボール大会前半戦!

11.男子はバカなのに器用だ


 バレーボール大会とはいきなり何のことだ、と聞きたいだろう。

 私も聞きたい。


 私の通う大学では毎年4月の第3日曜日に何かしらのスポーツ大会が行われる。今年はバレーボール大会。その主旨は何かというと、入ったばかりの新入生が横のつながりを深めるための一つのイベントであり、同時に上級生も参加して縦のつながりを作るためのイベントである。つまり、下は1年生から上は大学院博士課程の人まで幅広く参加できる交流戦なわけである。

 4年生以上の先輩たちは学年関係なくチームを組むし、参加する人もそんなに多くないのでチーム数はそんなにないのだが、3年生以下は学科や基礎クラスごとに作るため、チーム数は果てしない。しかし、こういう遊びを本気でやる学部・学科は限られているため、1、2回戦で多くがふるい落とされる。


 ちなみに、現在10時半を過ぎていた。

 既に1回戦が終わり、2回戦も後半にさしかかっているけれど、それまでで負けたチームのほとんどが文学・教育・看護学部生と4年生以上チーム。そして勢いが強いのは農学部と工学部生。

 何故こんな偏りが生じるかというと男女混合でチームを作るため、女子の多い三学科は男子の強いアタックを受けきれずに負けてしまうのだ。一応ハンデはあるのだけれども。

 一方で4年生以上チームは研究の息抜きで来ている学生が多いため、ガチで練習していた3年生以下に負けてしまうのだ。


 と言うものの、我ら農学部資源生物学科3年チームも、今朝になって初めて練習をしたのだけれども。


 ちなみに私のチームはおなじみのメンバー。私、大沢、恭介、神崎、夏海、阿部くん、フリードと他3人の交代制で回している。他の女子は黄色い声援隊、男子は暑苦声援隊として、ギャラリー席から見守ってくれている。ちなみに神崎も阿部くんも高校までバレー部だったらしい。それでなくても夏海とか恭介とかも運動神経がいいので心強いのだ。




「よーし、もうすぐ3回戦が始まるが、メンバー決めるぞ」


 と言うのは大沢だ。

 私たちは1回戦がシードだったため2回戦から参戦。

 2回戦では大沢とフリードと恭介と鈴木がベンチだった。

 何故なら相手が女子チームだったからだ。


「次はどこチームなの?」


 と黄色い声援隊の子が聞く。

 大沢が体育館のステージに置かれたプラカードを確認しながら言う。


「工学部の情報学科の2年だな」

「あーじゃあ男子揃えて行くか?」

「そうだな、じゃあ、俺、鬼塚、神崎、阿部と……森下と鈴木な」


 大沢がメンバーを指名すると、呼ばれたヤツは「よしっ」と気合いを入れて立ち上がる。他のメンバーも立ち上がり、円陣を組む。



「俺らは最強! チーム21レジデンス、絶対勝つぞ!」

「「「「おー!!」」」」



 かけ声が終わると、試合に出るメンバーはそれぞれ体育館のコートに向かっていく。

 私たちはベンチなので声援隊と同じギャラリー席。


 ちなみに「21レジデンス」というのは我ら農学部資源生物学科3年生のチーム名。何だよそのネーミングは!と思うだろうが、これは大沢の住むアパート「21レジデンスハイツ」からとっているらしい。とても恥ずかしい。


 しかし、それよりも恥ずかしい思いをしているのは隣で仏頂面で座っているフリードだった。まだ一試合も出ていないのに、顔が赤い。



「どうしたの? 顔赤いよ?」


 と、フリードのほっぺをつついてみた。

 すると、フリードはその手を勢いよく払いのけ、無言で睨んできた。

 その様子に夏海も便乗する。


「あ、ホントだ。顔赤い。Red, red.」


 と言って自分のほっぺを指差す。

 フリードはぷいっと顔を背け、コートに目をやる。

 そしてジャージの襟に顔を埋める。


「あらら、怒っちゃったのかな?」


 と、夏海は気まずくなったのか、再びコートに目を落とした。

 全く、女嫌いはいいけど、私に対してならともかく、それを夏海や他の女子にするのはよくないぞ。

 と私が鼻で息を吐くと、私にしか聞こえないような声でぼそっとフリードが言った。



「……円陣とか、恥ずかしいんだよ……」



 フリードを見やると、襟の中からはみ出た耳が真っ赤になっていた。よく見ると、眉間にしわを寄せて、何とも言えない顔をしている。


「……何、照れちゃったの?」

「うるさい」


 さっきまで円陣組むときに普通にフリードも入っていたから何とも思わなかったけれど、確かに神崎が無理矢理引っ張っていたような気がする。

 でも横から見えるフリードの顔は、円陣の掛け声が恥ずかしくて嫌、というよりも、恥ずかしいけど悪くはないといった様子だ。そうでなければ私の茶化しに返す返事は「うるさい」ではないだろう。今までしたことがないから抵抗を感じているだけだ。


 何だよ、もう。素直じゃないなあ。


「照れちゃってかわいいヤツ」


 とはみ出た耳をつついてやると、「やめろー」と手を払いのけようとしてくる。それに気がついた夏海が「あ、照れてただけなんだ」と横で安心しているのを聞いた。

 それどころか。


「え、フリードくん照れてるんだ! かわいいね!」


 と黄色い組がフリードをからかい始める。

 それが伝染して暑苦組も便乗。


「おーおー、それならいっぱい円陣組もうぜ」

「うるさいうるさい!」


 もはやチーム21レジデンスのギャラリー隊はフリードをからかう隊になってしまっていた。




 と、そんなことをしているうちに、チーム21レジデンスの試合が始まる。

 今回の三回戦目は全員男子で揃えたが、相手チーム工学部情報学科の2年生も全員男子だった。ちなみに向こうのチーム名は「機動戦士ダムダム6(シックス)」。工学部情報学科となると電子工学が専門になるため、ロボット名や機械のメーカー名をやたらと付けたがる傾向がある。我らの同期の3年生は「マッキントッキンブラザーズ」だったっけ?


 「機動戦士ダムダム6」、略してダムダム6のサーブから始まる。

 さすが男子だらけのチームといったところか、やる気と同じくらいアホな集団だった。


「よし、ボール回ってきたぞ」

「いけ!」

「行くぜ! 必殺、マジンガーアタック!」


 と渾身の一撃を決めるダムダム6。

 しかし21レジデンスも負けていなかった。アホさの面においても。


「だが驚異の21世紀レシーブ!」

「からの21世紀トス!」

「からの21世紀アタック!」

「と見せかけた鬼の21世紀フェイント!」


 と点を取る。

 入れた21レジデンスはハイタッチをしながら「21世紀の鬼!」「21世紀の鬼!」と叫ぶ。当然点を入れたのは恭介。

 入れられたダムダム6は大げさに嘆く。

 この大げさに喜んで嘆くのが男子チームの典型例。

 見てて楽しいけど、アホばっかりだ。


「はぁーこれ出場したらいちいちボール上げるたびにあんなこと言わなくちゃなんないの?」


 と、ぼそっとフリードが聞いてくる。

 顔は若干呆れ顔だった。


「そうだよ、フリードも言えばいいじゃん。カエルジャンプとか」


 私が嘲笑を込めながらも言ってやると、フリードは横目で私を睨んできた。



 すると気がついたら23-25。21レジデンスがマッチポイントを取った。しかしかなりの接戦である。


 21レジデンスのサーブはバレーベテランの神崎が務める。


「いっくぜぇ! 俺の神サーブ!!」


 と勢いのあるジャンピングサーブを出す。


「くっ何とかアチュラレシーブ!」

「からのサイクローン!」


 とダムダム6がツーアタックを繰り出してくるが、鈴木がそれを取る。

 上げられたボールを大沢が阿部くんにトス。


「これがラブ革命21だー!」


 と強いバックアタック。

 「ラブ革命21」などと昔流行ったアイドルグループの歌詞を叫びながら出したボールは、ブロックをすり抜ける。それをダムダム6の一人が取るが、勢いが強すぎてレシーブの球が場外へ飛んでいく。



「「「「「おおおおおおおーーーーーー! 21レジデンス最強!!!!」」」」」



 これで4回戦出場決定となった。





 まだ3回戦が終わってないところも多く、また昼休憩が挟まるため、4回戦予定時刻までは3時間ほど間が空く。

 その間各自昼食タイムだ。


「いやーダムダム強かった!」

「あっちは現役バレー部と経験者が一人ずついたらしいぜ」

「この後はバレー部率高くなるだろうな」


 と、3回戦、別名「ダムダム戦」に出た6人が言ってくる。

 あんなアホなことを26-23になっても言い続けていたのに、かなり手応えはあったらしい。


「おいおい、そこで不安になるのは早いぜ? 何せこっちには隠し兵器があるんだからな!」


 と大沢が隣に座るフリードの肩をつかむ。

 言われたフリードはアーモンド型のエメラルドをきょとんとさせていた。


「え、隠し兵器なの? そもそも今朝までしたことなかったらしいのに?」


 と私が言ってやる。


 そうなのだ。

 どうやらおとぎの国にはバレーボールというスポーツ競技はないらしく、その上ずっとカエル生活であったため、今朝まで一度もやったことがなかったらしい。

 今朝の練習ではひたすらパス回しをしていたのだが、練習前にパスを受けるときの手の形を教えてやったら、最初はさすがに落としていたものの、しばらくして慣れていた。

 果たして実践に向くのかどうか。


「確かにフリードくんは筋は悪くなかったようだけど……」


 と、夏海も大沢の発言に不安を感じた様子。

 そんな女子二人の反応に、男子連中は猛否定を繰り出す。


「おいおい、さくらんもしおやんもフリードの何を見ているんだ! ナニを!」

「うっさい、カタカナ表記で言うなばか!」

「どうせ顔しか見てないんだろ? それか下半――うがっ」

「食事中」


 と私たち二人に怒ってきたのは鈴木と森下。この二人は小学生が喋るみたいに下ネタを言うのが好きで、同じように喋ろうとしたところをもう一人の中川に殴られる。

 言われた当のフリードは軽蔑の目で3人を見やる。


「いや、でもこいつ結構いいぞ」


 と言うのは恭介。


「うんうん、センスいいしな」

「正直鈴木より使えるよな」


 と言うのは阿部くんと神崎。神崎のその発言に恭介も同感した。

 二人の意見一致に鈴木が嘆く。


 そんな男子達にべた褒めされているフリードを見ると、再びジャージの襟に顔を埋めていた。すかさず神崎と大沢にいじられ、さっきと同じ状況が繰り返されていた。



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