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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第2章 落とし物はこれですか
51/112

7.雨の日の昼下がり

梅乃視点です

ほのぼのな休日です

7.雨の日の昼下がり


 おとぎメンバーと暮らし始めて2週間が過ぎて、いつの間にか週末。

 もはや3日目にして馴染んでしまっていた私だけど、2週間目ともなればさすがにおとぎメンバーもこっちの世界の仕様に慣れてくる。


 まぁ、魔神二人とハインさんは平日の昼間一体何やってるのか謎だけれども、もともとヘマをやらかすなどの心配もないから問題ない。


 フリードもハンスもカールも、彼らはなんだかんだ器用だから上手く馴染んでいる。相変わらずのハンスの見下し調と嫌味は頂けないけれども。フリードは少しずつ日本語を話せるように喋り方を変化させている。本当にこの人は真面目でまともだよ。悪態さえ吐かなければいいのに。


 クリスも最初はおどけたサンチョでミスをしたりしてその度に凹んだりと大変だったけれども、回を重ねるごとに慣れてくるもので、今ではもはや完璧なウェイターだ。店長や戸田ちゃんも最初は引き気味だったのに、「うんうん、やっぱり頼りになる」などと褒めていた。クリスを見るためだけに来る客も増えてしまった。


 一番驚きなのがテオ。

 先週はバイトが捕まらないなどと嘆いていたので、理由を聞いてみたら電話番号を書けないからと言っていた。そんなことかよ、と思ってしまったので、火曜の授業の後に近くの電気屋さんに連れて行ってケータイを買ってやった(もちろんお金は後で返してもらう)。私がスマホを持っているので、テオもそれがいいとわがままの子供みたいな感じで言ってきたが、テオは機械音痴な上に説明書を読まない、そもそもヒモ男なくせにスマホの機種代と基本料金を払えるわけがないと言ってやった。きっとヤツは初めて携帯電話を持つときによくありがちな「ウェブを使い過ぎちゃって料金がひどいことに!」なんてことをしでかすので、そんなことも出来ないようなかんたん携帯を選んでやった。あまり大の男が持つような機種じゃないけど、テオは喜んでた。

 それで早速求人雑誌開いて応募してたけど、それが昨日になって採用通知が来たみたい。何のバイトを応募したのか知らなかったので聞いてみればコールセンターだって。しかもクレーム対応の。絶対仕事内容をちゃんと把握してないよあの男! 絶対続かない! ひと月でも続いたらご褒美を買ってやろうと思ってしまったほどだ。





 と、まぁ講義に実験に、大学オケにバイトにと、変わり映えのない1週間でした。

 ってか先週が異常続きだっただけなんだけどね。

 そんなに異常が起こるほど日常は忙しくない。平凡な日々が一番。

 ある意味スローライフだな。


 そんなわけで今日土曜日は特に予定もないし、生憎朝からずっとどしゃ降りの雨が続いているため、家で過ごすことにする。


 ちなみにここまで一切日付の情報がなかったけれども、今日は4月20日。

 4月も半分が過ぎたので、ゴールデンウィークまであと少し! 昭和の日4月29日が月曜日なので、来週が過ぎれば3連休。だがしかし、今年のゴールデンウィークは5月の3連休が土日にかぶるというよろしくないパターン。まぁ特にどこに行くとかいう予定もないから良いんだけれど。


 そんなことを考えながらダイニングへ降りると、アサドとハインさんしかいなかった。


「あれ? 二人だけ?」

「フリードは部屋に戻りました」

「カリムもまだ朝弱いからね。他はみんな出かけちゃったよ」

「ふーん」


 こんな雨の日だっていうのに、みんな何かしら予定があるんだなぁ。

 まぁこっち来たばかりで色々遊びに誘われたり、生活環境整えるのにも買い物に行ったりしてるのかな?


 アサドがにやにやしながら説明を追加。


「テオはさっそくバイトなんだって」


 ………………。

 電話口でのクレームにちゃんと低い姿勢で答えられるのだろうか。

 いや、そもそも低い姿勢なんかがなければ、一領地の王になどならないわけなんだけど。

 

 アサドが立ち上がってキッチンへ向かおうとしていたので、それを止めた。

 今の時刻は朝10時。今食べると昼ご飯を食べられなくなるので、それまで我慢する。


 代わりにモーニングティーを淹れてくれたのでそれを飲んで落ち着く。



「それにしても、普段私たちが学校に行ってる間、アサドもカリムもハインさんも何してるの?」



 それはとても素朴な疑問だった。

 私と他5人は学校の授業なり研究なりバイトなりサークルなり、とにかくキャンパスライフ(こういうと聞こえがいい)を送っているのだが、この引率の方々は一体何して過ごしてるんだろう。


 すると、アサドはにこにこしながら答える。


「王子たちの監視だよ」

「うそつけ。大学で3人を見たことないよ」

わたくしはカフェを営みました」

「……は!?」


 カフェを営んだ!?


「ハインさん、主人ほったらかして何してんですか!?」


 すると、ハインさんはいつもと同じ涼しげな顔でにっこりと笑ってきた。

 あぁ、この笑顔ろくなことを言わないやつだよ。


「それは梅乃お嬢様が代わってくださいましたから、私は自分の趣味をと」

「いやいやいやいやいや、側近でしょあんた? 側近の仕事しろよ!」


 私が全力で突っ込むと、ハインさんはテーブルに置いてあったナプキンを噛み、涼しげだった顔をわざとらしく悲しい表情に変えた。


「だってだってだってぇ~フリードが学校行っている間暇なんですも~~~~~ん。可愛い子は旅をさせよとばかりに、フリードに何もかも一人でさせていたら、本当に何もかも一人で出来てしまって私の出番がないんですも~~~~~~ん!」

「え……ちょ、あんた誰ですか? キャラ崩壊してるぞ……!?」

「しかもフリードはキャンパスライフを謳歌しているじゃありませんか~~~~カエルのくせに。かなり楽しんでいるじゃないですかぁ~~~カエルのくせに」


 いや、本当に、この人誰!?

 いつも涼しげに黙って会話に入ってこないハインさん(だが存在感だけはある)が、ナプキン噛みながら「くっくやしい~~」とどこかの昼ドラで女の人がやるようなことをしているなんて……。

 てか本当に失礼な側近だな。


 そんないきなりの変わり様に私がどん引いていると、すっとナプキンから口を離し、何事もなかったかのように涼しげな表情に戻った。


「と、いうわけでして、カフェを」

「……はい、わかりました」

「場所は河童公園の西口前です」


 すっといつの間に作っていたのか、お店のカードとチラシを出してきた。

 そこにはお店までのアクセスとお問い合わせ先、簡単なメニューがキレイな写真付きで載っていた。メニューを見ると、コーヒーや紅茶系の飲み物だけでなく、ケーキも5種類ほど、それからランチのためのパスタメニューやサンドなども載っていた。写真に映ったホットドックは中からチーズとレタスなどがこぼれてとても美味しそうだ。


 ……てかお店開くのって土地のこととか店内の内装とか広告宣伝とか材料の仕入れとか、こっち来て1週間とか2週間とかで出来るもんじゃないんじゃないの?

 しかも河童公園の西口って言ったら結構な一等地なのに……。ダメだダメだ。この人たちはそういうところがチート過ぎて常識を考えたらいけない。


 そして何よりもつっこみどころなのがお店の名前。




 『CAFE Frosch in Liebe』




 さすがにこれの意味は分かるぞ。



 ”恋に落ちたカエル”



 恥ずかしい、恥ずかしいよ名前が!!

 しかもイタリック体で書いてあるあたりが余計に恥ずかしさを際だたせている……!!


 アサドは既に知っているのか、お腹を抱えて笑っている。


「これ……フリードは知ってるの?」


 てかこれをフリードが知っていたら今頃ハインさんはフリードにふるぼっこだろうな。

 んでもって今までに刷られたチラシをすべて破ってるだろう。まぁ、そんなことをしてもこの側近、構いなしに新しく刷り続けるだろうが。


 ハインさんは実に悪戯げに人差し指を口の前に当てた。



「フリードにはまだ言わないでくださいね。今観賞用のカエル水槽や金魚水槽などを整えているところですから、すべて整え終わったら招待するつもりです。もちろん夜に」

「あーははっははっはははは。ちょー笑えるー! それは是非見たいねー!」



 この二人、腹黒いよ! 鬼畜だ悪魔だ!

 夜にフリードを招待してって、そのままカエル水槽に放り込むつもりでいるよー!

 完全にフリード遊ばれてるな……。



 だがこの二人が言い出したことは絶対やりきるということは、ここ2週間でよく分かっているから、今頃上でくつろいでいるフリードに向かって合掌した。






 そんなこんなでまったりしていたら、いつの間にか12時近くなっていて、ずっと寝ていたカリムも部屋に引っ込んでたフリードも降りてきて昼食の時間となった。

 今日はクリスがお出かけ中なので久々にアサドの手料理。

 人が増えてもいつもより少ない食卓なので、賑やかさも半減。

 相変わらずアサドは愉快そうにしていたけど、ヤツの爆弾に乗る生意気小僧(←カール)がいないため、平和な食卓だった。


 お昼を食べ終え、片付けも済ませてダイニングでくつろいでいると、いつでも愉快男は何か企んでるときのような楽しそうな顔を私に向けてきた。



「梅乃ちゃん、ボク、昨日ブルーレイを借りたんだ」

「はぁ……」



 いきなり何を言い出すかと思えば、ブルーレイ? さすがに2週間も過ごせばそういう物の存在も知るようになったのか。


 アサドはにこにこしながら続けた。


「それでね、どうせすることもないんだし、これからみんなで観ない?」

「……いや、みんなで観るって、テレビもプレイヤーも私の部屋にしかないじゃん。しかも私ブルーレイ用のでもないし」

「いや、リビングで観れる」


 と、カリムがあくびをしながら割り込む。

 お昼を食べた後だというのに、カリムはまだ眠そうだ。


「リビング行ってみろよ」


 眠たげな顔をしながらカリムがそう言うので、私はリビングへ行った。

 とにかくこの屋敷、無駄に広いから、夜帰ってきてくつろぐぐらいでしかリビングに入らず、ほとんど部屋でまったりしてしまうのだ。

 そのため昨日の夜入ったきりなのだが……。





「!!??」





 びっくりたまげた。

 これまでリビングの真ん中にソファとローテーブルの応接セットが置かれていたのだが、それが少し窓際に寄せられて、入り口の横の大きな壁にスクリーンが出来ていた。

 テレビで言うと何型になるんだ? 何型かはサイズがよく分からないのだが、物で表すとよく見る大きさのホワイトボードくらいある。

 その両サイドにはスピーカーがちゃんと備え付けられ、リビングの廊下側の角の方にビデオとDVDとブルーレイの再生機が置かれてあった。その横にはテレビゲーム機まで置かれてある。


「うわ、何これ。昨日までこんなのなかったじゃないか」


 と、後から来たフリードが中を覗いて言う。

 その後ろから頭をかきながらカリムが続く。


「昨日の昼間にホームシアターとか再生機とか買いに行って、夕べ作ったんだ」

「これを?」


 聞き返すと、カリムが頷く。

 こんなものを買ったとなると、普通は業者の人が家まで機械を運ぶのだが、カリムはどんな重い物でも瞬間移動で飛ばせるし、アサドも重量を変化することが出来るので、可能なことは可能なんだろう。


「だからカリム寝不足なの?」


 と聞くと、カリムは少しばつの悪そうな顔をして頬を掻く。

 横でアサドがニヤニヤ笑っている。


「違うよ。だって備え付けるのは全部魔法でやったんだからね。カリムが寝不足なのはいかがわ――――」

「あーはいはい。で、ブルーレイ見るんだろ? 早くみよーぜ」


 と、アサドが何か言いだしたが、それをカリムが遮りアサドの手からブルーレイをひったくる。


 何借りたのか知らないけど、もはや映画鑑賞会の空気になってしまったので、私は大人しくソファに座り込む。アサドがその隣に座り、肩に手を回してきた。


「……どういうつもりでしょうか?」

「ん? 照れなくて良いよ?」


 回ってきた腕をどかそうとしたけど、しれっとにこにこしながら私を自分の方へ寄せる。

 内心でため息をついたが、もういいや。今日は諦めようと、抵抗するのをやめた。


 フリードはレポートあるからと退散しようとしたが、ハインさんに止められて渋々残っている。

 そうこうしているうちにカリムがブルーデイをセットし、アサドとは反対側の私の隣にやってきた。

 

 いや、だから映画の見方を間違えてるって!





 しかし、アサドが借りてきたブルーレイは、わざとなのか何なのか、私の嫌いなホラー映画「呪呪呪」だった。



 映画を観るために部屋を暗くしているのだが、それも相まって幽霊が出てくるシーンがリアルすぎて怖い。

 それからスクリーンが大きすぎて、目をそらそうにも視界に入ってくるし、音質もやたらといいから耳を塞いでも音を拾ってしまう。


「ほら梅乃ちゃん、抱きついても良いんだよー?」

「梅乃大丈夫か?」


 と、アサドはほとんど自分から抱きつきながら言ってきて、カリムは背中をさすってくれる。

 しかしそれを気にしていられるほど、余裕があるわけじゃない。


 既に登場人物が何人か行方不明になっている。


 今追いかけられている人は郵便配達人。

 いつものように郵便鞄から手紙を出そうとしたら、それがすべて真っ赤な血色の封筒に変わっていた。

 それを訝しんでいると、後ろから誰かが……誰かが………! っと思ったら同僚の配達人で、その人が持っていた鞄と自分のを交換して去っていく。

 その配達人は受け取った鞄の中の宛先に向かったが、行き着いたところは古びた屋敷。その家のポストが門の中にあるので入ってしまう。

 広い庭を通っているとき、変な音がするが、振り返れば誰もいない。だけど彼が通り過ぎれば毛むくじゃらの何かがそこに現れる。

 それが何度か続いてようやくポストに手紙を投函することが出来る。

 しかしポストの穴に上手く入らず、配達人はポストの入り口をそっと手で開けてしまう。



「ひぃっ……っ」



 配達人は見てしまった! ポストの中からこっちをぎょろりと見てくる大きな眼球を!

 配達人は恐怖で後ずさり、その場を去ろうしたが、何故か足が動かない。

 下を見やれば毛むくじゃらの何かが足を掴んでいる…………!?



「うあああっ」



 慌ててその手から足を動かす。

 何とかその手から逃れられて慌てて去ろうとしたが……。



「きゃあああっ」



 横を向けばポストから手が……!!



「ひいいいっ」



 振り返って逃げようとしたら、逆さ吊りの――――――!!













「―――――――梅乃さん!」



「きゃあああああああああっっっ」






 濡れた黒髪の毛むくじゃらの何かが現れたー!?






「やだーやだーもう! 早く切ってよ! もうやだやだやだっっ」

「おい梅乃、ほらほら、大丈夫だから」

「梅乃ちゃん梅乃ちゃん大丈夫だよ」


 恐怖のボルテージがてっぺんに達して、もはやキャパオーバーな私はその場で暴れ出した。それをカリムとアサドが横から抑えるが。


「やぁっもういやだっっみたくないみたくないこわいこわいっっっ」

「ほら、電気ついたから。てかあれクリスだから」

「うあああっっもう無理無理無理! もうやーめーてー!!」


 カリムの声もそこそこに私は興奮状態だったため部屋が明るくなってもまだしばらく暴れていた。

 すると――――。











「――――――お姉ちゃん!」







「「「お姉ちゃん!?」」」

「うわあああああっ…………って、え?」


 今、”お姉ちゃん”って誰か言った? 言ったよね?

 てかかなり聞き覚えのある声だったよね?



 呼ばれた方向を見ると、スクリーン横の扉に二人の人物。


 一人は出かけていたクリス。


 もう一人は、肩先まで伸ばしたまっすぐな黒髪の、あどけない顔の女の子。





「く……楠葉くずは!」

「お姉ちゃん!」




 頭のてっぺんから足先までずぶ濡れ状態で現れたその子は、私の4つ年下の妹だった。



大した内容書いてないのに長くなってしまった……(汗

誤字脱字文章おかしいなどあればご指摘お願いします

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