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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
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39.予想外のお客

39.予想外のお客


 ホームセンターでバーベキューコンロ、炭、ブルーシート、軍手などなど、バーベキューをする上で不可欠なアイテムをホームセンターで買っていく。

 いつもバーベキューするときは学校の生協でレンタルしたりとか、サークルに一個持っていたりとかしているので、細々したものを揃えるだけで良いのだが、今回は何から何まで揃えなくてはいけないため、結構な荷物になった。

 まぁ、それも予想していたため、男で二人を呼んだのだが。

 そしてすべて揃い終えいざ場所取り隊のもとへ運ぼうとしたら、カリムがすべて瞬間移動で飛ばす、なんて言い出して焦った。

 土曜日の昼間のホームセンターで魔法なんか使ったら不特定多数の人に目撃されるというのに、当の本人はまったく気にしていない。

 せめて人気のないところに移動してからにしてほしいとお願いしたら、言うとおりにはしてくれた。


 そして昼11時半。

 カリムによって運ばれてきた私とカールとバーベキュー用の道具は、テオたちが場所取りに来ている河童公園の人気の少ないところで降ろされた。

 そこから3人で分担して道具を持ち、テオたちを探す。


 河童公園は家から徒歩圏内にある一番大きな公園で、公園の真ん中にある大きな池に昔河童が住んでいたという逸話があることから、河童公園というそうだ。その話はあくまで逸話だと思っていたけれど、おとぎの国というのが実際にあると知った今なら河童がいるというのも信憑性が湧く。

 その池の周りをアスファルトの小道が囲み、更にそれを広い芝生と連なる並木が囲んでいる。春は満開の桜、夏はいっぱいの若葉、秋は銀杏や紅葉が鮮やかに色づく。冬も冬で雪が降れば駆けめぐりたくなる広さがある。

 公園の端の方にはアスレチックもあり、子供も大人も楽しめる人気のある公園だ。


 そんな公園の一角にある桜の木の下に人だかりが見えた。そのほとんどが若い女の子だった。

 ……確認しなくても、きっとあれがあの3人の居場所だろうと分かる。

 あれに囲まれながらお花見するのか……。まったく落ち着けないし、私絶対邪魔者じゃん、と始まる前から一気に脱力気味。


 いや、それでなくてもカールとカリムと買い出しに行っている時でさえ人目に晒されていた。この人たちは中身はともかく、顔だけは滅多にお目にかかれないほど美しいから目立つことこの上ない。

 今だって注目浴びている気がする。主に私以外の2人が。

 その中で私に向けられる目のほとんどは「やっぱり美青年と一緒にいる女って大したことないのね」というような蔑みの目。まぁ予想していたし、そんなこと気にしてたら楽しめないからスルースルー。


 人だかりに近寄ると、嬉々として近づこうとする女の子に顔しか美しくないハンスがいつも人前でやるような爽やかな笑みを浮かべて対応している。相変わらず目が笑っていないけど、そんなことハンスの爽やか美形顔を前にしたら気づかないらしい。

 その横ではテオデリックがナンパしにきた女の子たちに少し困り気味に対応している。「それは嬉しいんだが――」とか「いや、そういうわけにも――」なんて、とりあえず女の子たちの誘いをやんわりと断ろうとしているが、彼女たちは聞く耳を持たない。ほら、王様、もっと強く出ればいいのに。

 さらにその横、桜の木にもたれかかりながらフリードが女の子たちの誘いを必死に無視している。断り方がきついのか、断られた女の子たちは気分を悪くして去っていったり、その場で泣き出したりしている。うわぁ、一番かわいそうだ。



「カエル兄、悲惨だ」


 同じ光景を見て同じことを感じたカールがそれを口に出す。その横でカリムが引きつった笑いをしている。


「はぁ、予想はしていたけどこれじゃあ落ち着いてお花見できないね」

「そうだな。これだと俺らも落ち着かないし、お前も気分良くないだろう」

「まぁ別に私は構わないんだけど」

 

 でも確かに、予想はしていたけど、こんなに人がいるんじゃおとぎメンバーも落ち着いてお花見できないよね。人が集まる原因こそが彼らなのだが、そもそも彼らはただお花見が何でバーベキューというものがどんなものかを一緒に堪能したかっただけだ。だけど現状じゃお花見とかバーベキューを堪能するどころか、ナンパされに来たようなものだ。風情も何もあったものじゃないな。





「――――仕方ない。我が輩の出番すな」




 私たちがテオたちを眺めながら改善策を考えていたら、どこからか声が聞こえてきた。

 その声がした方向へ向くと、私たちが見た先は池だった。

 

 池の上に何かが立っていた。

 その何かは、緑色の装束に緑色の肌、緑色のおかっぱ髪に唯一黒の瞳。そしてその頭の上には緑色の皿がのっていた。




 河童――――!?




「お、よう。しばらくぶりだな」

「ご無沙汰でござんす。あんた方がこの界隈に来てるって噂は聞いてやしたぜ」

「そうなんだよ。俺もお前がここにいるとは知らなかった」

「そうでござんすか。まま、用がないとあんたは立ち寄らんですからな」

「まぁな」


 突然池から出てきた河童と普通にカリムが会話していたので、私もカールもその場に固まってしまっていた。

 そしてお互いに顔を見合わす。きっと思ったことは一緒だろう。

 

 どうしてカリムはそんなにナチュラルに話してるのー!?

 ハイタッチしてるし。

 ダメだダメだ。この人らに付き合ってると、色んなことが非日常的すぎて突っ込むのも疲れる。


 そんな驚愕状態のカールと脱力状態の私に気がついたカリムは、ごくごく普通に説明してきた。


「あ、こいつな、おとぎの国からこっちに移住してきた河童の沼男。俺とアサドの古い友達なんだ」

「よろしく頼むでやんす」

「あ、はい。よろしく」


 沼男って、なんだかそのままじゃありませんか?

 池とか沼に住む河童だからですよね?

 ダメだ、突っ込んだら負けな気がする。


「あ、沼男。こいつ俺らの世話係で佐倉梅乃って言うんだ。こいつ見かけたらいいようにしてやってくれ」


 とカリムが私の肩に手を回して言ってきた

 いいようにしてやってくれって何だ?聞きようによっては語弊を生むぞ。


「サクラウメ……なんて撫子な名前でやんすね」

「こいつにナデシコの部分なんてないと思うぞー」

「うるさい」


 確かに音だけ聞いたら私の名前はサクラとウメが入っているから、そう思われることも少なくない。物心ついたときに自分の名前を嘆いたことはまた次の機会にでも話そう。


「して、あんた方ここで花見でやんすか。あの美丈夫方もご一緒で?」

「そうなんだよ。だがあの状態じゃあ落ち着けなさそうで困ってるんだ」

「なるほど。それなら我が輩にお任せでやんす」



 そう言うと河童の沼男さんは手のひらを上向きに両腕を広げた。

 すると、沼男さんの両腕の長さの4倍を直径にした透明な球が出来、私たち3人をその中に入れた。



「これは……?」

「これはあんた方の姿を他の人たちから隠すための水泡でござんす。この中にいれば他の人たちからあんた方の姿は見えないんす」


 そう言うので、私は水泡の外を見る。

 人々の喧噪は聞こえるが、カリムやカールを注目していた女の子たちの目線はどこか違うところへさまよっている。それどころじゃなく、道行く人も私たち3人を見えていないはずなのに、当然のようにその水泡を避けて歩いている。しかもそれを涼しい顔で通っていくのだから、別に交通の弊害になっているわけでもない。


 驚きで口を動かせないでいたら、沼男さんは再び池に身体を隠し始めた。


「その水泡は今日いっぱいは持つんでご安心下せえ。それではその水泡に入りながらあの美丈夫方のところへ行くでやんす」

「え、え、ちょっと待って。沼男さんはお花見しないの?」


 さすがにここまでしてもらって何も返さないのは色々と良くない。

 沼男さんが全身を隠す前に私は慌てて問いかける。

 沼男さんは顔を半分隠した状態で私を見上げる。


「……我が輩、バーベキューすると皿が乾くんす」

「あ……」


 確かに、皿を潤していたい河童の沼男さんからしたら、あのバーベキューの熱気は身体に毒だろう。

 でも、せっかく人の注目や群れから遠ざけてくれたというのに、一方的に恩を受けるだけではいけない。


 私は池の柵に乗り出して言う。



「じゃあ、私たちはここでお花見するから、沼男さんも柵の中から一緒にお花見しよう? 食べ物もお団子とか買ってくるし!」


 私がそう言うと、池から半分顔を出した沼男さんは、緑色のほっぺを少し赤くした。目もどこかばつが悪そうだ。



 この反応は、恥ずかしがっているのかな?



「…………いいんすか?」


 私は力強く頷いた。


「もちろん!」



次で第1章終わりです

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