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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
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38.バーベキュー

38.バーベキュー



「はいはーい。二人が仲直りしたところで、お花見行くよ?」



 自ら奴隷宣言をして固まっているところ、アサドがいつもの調子で手を叩き話を切り出してきた。

 いや、仲直りしたところ、というかなんていうか……。

 私は不適な笑顔を浮かべているハンスから、アサドへと視線を移した。

 

 とっても愉快そうな笑顔をしていた。


 あぁ、うん。もうこの人はこの状況を楽しんでいるよね。


「そうだよ。今日お花見なんだろー? 早く行こーぜ」


 と、カールがアサドの言葉に便乗。

 カールは行きたくて行きたくてうずうずしている感じだ。

 見渡せば、テオもなんだか顔を輝かせているし、カリムも「お、いいな」といった顔をしている。


 そういえばカリムはこっちの世界に来て初めて桜を見たって言ったっけ?

 他のメンバーもそうなのかもしれない。


「……でも、お花見といっても、一体何をすればいいのかな?」


 と、尋ねたのはクリスだ。

 確かに、習いたての言葉を言うようにアサドもカールもお花見お花見言っているような気がする。とりあえず桜を眺めて何かをする、ということは分かっているだろうが、その「何か」を分かってはいないだろう。


「僕らは明日もするけど、バーベキューというものをするらしい」




「「「バーベキュー?」」」




 …………えーと、みなさん、バーベキューを知らない?

 私以外の全員、つまりおとぎ組のみんなの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。

 いや、テオとかフリードとかカールがバーベキューを知らないのは何となく予想通りだったが、他の5人が知らないのは意外だ。

 何でも知っていそうな魔神二人やハインさんが知らないのも意外だったし、少なくともアサドもクリスも朝食メニューに日本食を出している時点で、知っていると思っていたのに。

 

 ていうか、アサドもカールも、あんなにお花見お花見言っていたのに、バーベキューを知らなかったのか。



「バーベキューって何だ?」

とカリム。


「バーをベキューするのか?」

「いや、それ意味分かんないんだけど」

 と、テオデリックとフリードリヒ。

 ……テオ、その発言アホすぎるよ。


「っていうか、キューって何だよ。クイーンのQか?」

「キュウリ(キューカンバー)のQとかかな?」

 と、カールとアサド。

 …………何の議論だよ。バーベキューの話からキューの話になってるじゃないか。


「あ、そういえば僕、昨日バイト先で聞いたよ。大抵はBBQって言うらしいね」

「それで? 結局何をするの?」

「あ……聞いてこなかった。ごめん、肝心なところ聞かないとか、僕はもうダメだぁ……」

 と、クリスとハンス。

 クリス……確かにそこは突っ込みたいけど、それでネガティブモード発動させるのやめてくれ。


 そんな議論がそれぞれで始まろうとしたとき、それまで黙って紅茶をすすっていただけのハインさんが、一つ息をついて手を挙げた。


「みなさん、バーベキューというものについて考察するのはご自由にしていただければよろしいですが、ここはバーベキューをよく知っていらっしゃるであろう梅乃お嬢様にお聞きするのが最善かと思います」


 そう言って挙げた手を私に向けた。


 …………ていうか、珍しくまともなことを言うな、この人。

 いつもは傍観もしくはボケ要因なのに。


 ハインさんの言葉に、みんなが興味津々といった目で私を見てきた。

 アサドとテオとカールに至っては、目がらんらんと輝いている。


 私は一つ咳払いしてから答える。


「バーベキュー、通称BBQとはですね、野外で炭火で炙られた肉とか野菜とかをみんなで囲みながら食べる料理……というか調理法? というか、食事法のことです」


 最後の方の説明があやふやになって尻すぼみになってしまい、それに対してテオとカールが首を伸ばす。

 実際説明していて、あれは料理なのか何なのかよく分からないけれど、とにかく説明的には合っているはず。


 するとハインさんが手をぽんと叩く。


「つまり、外での立食パーティということですね」

「……いや、立食パーティ……というほどオシャレなものでもないと思うけど……」


 ハインさんの頷きに首を傾げていると、アサドが頬杖をついてらんらんと聞いてきた。


「ね、じゃあ何を用意すればいいの?」

「炭火で炙るっていうことは……何か串を持っていけばいいの?」


 おまけにクリスも尋ねてきた。


「いや、網を用意しなくちゃいけないんだけど、そもそも私バーベキューセットなんて持ってないし、この洋館にもそんなもの無いでしょ?」

「えーっバーベキューするのにセットが必要なのかよー」


 とあからさまにがっかりするカール。そのカールのがっかりが、アサドやテオにも伝染する。カリムやクリスに至っては、それなら仕方ないかと、息をつく。フリードは明日するから別に今日できなくても構わないのだろう。


「梅ちゃん、みんなバーベキューしたいみたいだよ。何とかならないの?」


 と、横から謎の威圧をかけてくるハンス。“みんな”とか言って、ハンスも初めて聞くバーベキューをしてみたいのだろう。威圧の仕方がいやらしいな。


 私はもう一度みんなを見渡すと、いつの間にかカールのがっかりがしょんぼりに変わっていた。



「バーベキューできないなら、お花見も出来ないのか……。したかったな、お花見」


 とぼそっと呟く。


 いや、バーベキュー出来なくてもお花見は出来るから。

 どうしてお花見=バーベキューになった?


 だがしかし、カールのそんな様子を見てると、なんだかその望みを叶えてあげたくなる。

 はっ。これが母性本能というやつか? さすが甘えんぼキャラだな。


 仕方ない。

 この人たちはせっかくはるばる別の世界のおとぎの国から来たのだ。

 こっちの世界での思い出を色々と残したいだろう。

 それによくよく考えてみれば、おとぎの国のニッポン地方ではお花見にバーベキューなんてしないだろう。「花より団子よ、ほほほ」とか言いながら団子なり重箱のお弁当なりを食べているだろう。




「…………分かった。私がお花見とは? バーベキューとは?について、教えてあげましょう」


 

 私が一言それを言うと、暗くなりかけていた空気は一変。

 しょんぼり肩を落としていたカールはばっと顔を上げ、アサドとテオは再び目を輝かせる。カリムもどこか嬉しそうだし、クリスもよかったと安心している。ハンスは当然だという顔をしている。



「その代わり、バーベキューセット代はみんなで割り勘ね」

「割り勘?」

「そう。代金を人数分で割るってこと」


 再び一同はきょとんとした顔を向けてきたが、言葉の意味を教えると、一人だけ「げ」という顔をした。テオデリックだ。


「お……俺、払えない」

「金ないもんなー」

「面目ない」


 相変わらず金欠らしい。今週一週間、学校で過ごすためのお金は私が出していたのだが、いつまでテオデリックのお金の面倒を見なくちゃいけないんだ……。


 だけどその心配はいらなかった。


「そんなことしなくても、それくらい俺が払うから心配しなくていい」


 と言ったのはカリム。

 どこでお金を稼いでいるのか知らないけれど、とりあえずセット代のお金については問題が無くなったらしい。



「さて、じゃあ用意しましょう。梅乃お嬢様、指示をお願いします」

「おっけい。じゃあまず、テオデリックとハンスとフリード、場所取りをお願い」

「「「場所取り?」」」

「そう、場所取り。今日土曜日だし、きっと今から行ってもいい場所はないかもしれないけれど、桜が綺麗に見れる場所をキープする係」


 おとぎ組の人らはきっと誰が行ってもそうだろうけど、場所取りなんかしていたら女の子たちが寄ってくるだろうな。それはそれで落ち着かない気もするが。

 それを察してか、フリードがかなり嫌そうな顔をするが、とりあえず今は無視させていただこう。


「それからアサドとクリスとハインさん、食材確保と簡単に野菜の用意」

「食材って何を用意すればいいの?」

「えーと、野菜はキャベツとエリンギとピーマンとタマネギとジャガイモ。お肉は……あれ、アサドとカリムってイスラム教徒だったりするの? 食べられないものとかあるのかな」

「ボク達はあくまでおとぎの国の人間だからね。なんちゃってイスラムだから別に何でも食べられるよ」

「ラマダーンはあるけどな」


 なんだそれ。ラマダーンはあって肉は何でも食べられるのか。

 そういえば二人ともご飯食べるときに両手使っている。

 確かイスラム教徒って左手ダメだったよね?

 なるほど、確かになんちゃってだな。


「じゃあお肉は何でもいいよ。あ、あとシメに焼きそばいるから焼きそばも。焼きそばは分かるよね?」

「分かるよん。おっけいー任せて!」

「よし、じゃあ残りのカールとカリムと私でバーベキューセットを買いに行こう。あと炭もね」



 私は一旦そこでお茶を飲む。

 そして喉を潤したところで、みんなを見る。




「場所取り組以外はまず買い出しからだね。それじゃ用意できたら行くよ」



こうしてバーベキューの準備が始まった。


バーベキューとはスペイン語のbarbacoaから来ているそうですね。

で、現在のBBQはアメリカ南部が発祥らしいです。

この話を書くときに調べました(笑)

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