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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
22/112

21.平和な朝

梅乃と王子たちがわちゃわちゃしてるだけの回です

21.平和な朝


「梅乃ちゃん、ホントに目覚め悪いね。今日こそ目覚めのキスかな?」

「げこっげこっ」

「……ん?」


 朝、昨日と同じく目が覚めたら赤毛の金眼の軟派顔がどあっぷに写る。

 さすがに昨日の今日なので、勢いよく突き飛ばす。

 今日は耳を舐められるのを阻止できた気がする。


「いたた……ひどいなぁ、もう」


 突き飛ばされて壁にぶつかったアサドは置いておいて、起きてフリードはどうしたかと部屋を見渡したら、カエル姿のまま椅子にぐるぐる巻きにされていた。

 声も「げこっげこっ」と、人間の言葉を話せない様子。


 まさかと思ってアサドを見やれば、にっこりと笑って言う。


「悪いことしたからね、おしおき」


 もう一度フリードを見やれば、ばたばたと足を動かしている。

 「早く外してよっほらっ早くっ」なんて声が聞こえる。あくまでカエル語だけどね。


 可哀想だからフリードを解放してあげて、アサドに元に戻すよう命令した。


 まったく、昨日といい今日といい、もう少し平和な朝を過ごしたい。






「おはよう。ん? フリード、食事もカエルレベルになったのか?」


 一回の左奥から2番目にあるダイニングルーム。昨日は私とカリムとアサドの3人だけだったため、がら空きだった大きな円形のダイニングテーブルも、大人が5人にもなれば、どことなく狭く感じる。これにすっかり身支度を終えたテオデリックが加わって6人になる。クリスティアンはキッチンからテオの分の食事を運んでいる。


「このカエルくん、梅乃ちゃんを襲ってたんだよ」

「だから違うっ」

「なんだ、朝から盛ってるな」

「だから違うってば!」


 私の斜め右前に座ったアサドがニヤニヤ笑いながら言うと、私の二つ左横のフリードが勢いよく否定する。更に私の右隣に座ったテオが茶々入れると、再びつっこむ。

 朝から元気だなぁ、と当事者であるはずの私は、朝からあの中に入るのは面倒なので傍観。朝食を頂くのに集中することにする。


 昨日はアサドが朝食を作っていたが、昨日の夕ご飯から基本的に家事はクリスが行うことになっている。今日の朝食もクリスのお手製だ。


 今日のメニューも洋食。

 こんがり焼き色の付いたバターロールとクロワッサンは、これもまた絶妙な焼き加減だ。中はふんわりしていてもっちりしている。染みついたバターの味も絶妙。その横には大きなプレートがあり、その右側には綺麗なラグビー型のオムレツが横たえている。オムレツにフォークを入れると、中からとろりと卵がとろけていて、絶妙な半熟のオムレツだ。その横には二本のソーセージが並んでおり、オムレツとバランスよくマッチする。同じプレートの上にはポテトサラダが添えられているが、これにはまだ手を付けていない。


 アサドの料理も普段口にしないくらいのおいしさだったが、クリスも劣らない。みんなが言うにはクリスの方が上回っているらしいが、私レベルの舌じゃどっちも美味しくて優劣付けられない。

 

「どうかな? お口に合うかな?」


 キッチンからテオの分の朝食を持ってきたクリスが尋ねてくる。


「うん、とても美味しいよ」

「それはよかった」


 素直に感想を述べると、クリスはにっこり笑って喜ぶ。

 うーん。その顔はかなり完璧な王子様スマイルなのになぁ、と彼のネガティブな部分を残念に思う。


 テオの分を配り終えると、フリードの左側に回り、ポテトサラダだけだったプレートの上にオムレツとソーセージを乗せる。その横にパンも置くと、フリードがクリスを見上げて「お前は良いヤツだ」と感謝の眼差しを向けている。

 配膳が終わると、クリスは私とフリードの間の席に座る。


 すると、いち早く食事を終えたハインさんが、フリードの左横で口元をナプキンで拭いながら言う。顔はにっこり笑顔だ。


「今朝は奥の部屋から何やら賑やかな声が聞こえたと思っていたのですが、そうですかそうですか。早速お二人の仲が縮まったようでわたくしは嬉しいです」

「だから違うってば!!」


 ハインさんは相変わらず私とフリードをくっつけようとしているし、アサドはそれに対してニヤニヤとフリードをからかう。そんな二人に対してフリードが否定する。

 賑やかな食卓だ。

 私の横でクリスが「みんな元気だね」なんてのんきなことを言っている。


「一体フリードはお前に何をしたのだ?」


 右からテオが聞いてくる。


「うーん。私もよく分からないんだよね。起きたらフリードがカエル姿だったってことくらい」

「ボクが教えてあげるよ。梅乃ちゃんの手を――」

「だああっ黙れっ」

「あーもう、うるせえっ」


 アサドの冷やかしにフリードが突っ込むが、その間に挟まれたカリムが大概うっとうしそうに耐えられなかったようだ。


「フリード、朝からキンキン喋んなよ。アサドもわざわざ呷るのやめろ。ハインもだ」


 カリムが叱ると、フリードは何か不満そうにぶすっとし、アサドは「はーい」と別段気にした様子もなくパンを食べる。ハインは涼しい顔して無言でコーヒーを飲む。


 どうやらカリムは朝に弱いらしく、朝からうるさい食卓にいらいらしていたみたい。


 今日も平和ですね。




 朝の時間は平和に過ぎていく。

 私とフリードは2限目からなので、朝の時間はゆっくり過ごすことにする。

 クリスは大学院の方の教育学研究科に留学してきたらしく、今日は研究室の教授と話があるみたいで、残った人たちで朝食の片付けをするからと言ってクリスを先に学校に行かせる。

 テオも1限目から授業らしいが、出発前に私に振り返ってきらきらした目を向けてきた。


「何? どうしたの?」

「一つ頼みがある」

「はいはい何?」

「自転車、というものを貸してほしい」


 何だそんなことか、と思いかけたけど、この男に貸すとどんな事故が巻き起こるか分からない。

 私がダメだと言うと、叱られた犬みたいにしゅんとなる。それを鬱陶しく思ったフリードが「さっさと行け」と言うと、テオはクリスと一緒に出かけていった。


 アサドは何か部屋でやることがあるらしく、朝の片付けは私とカリム、フリードとハインさんですることになった。

 最初カリムが魔法ですべて済ませようとしてきたが、人の手があるわけだからみんなでやろうと私が押し切って今に至る。


「はぁー。これでまだ全員揃ってないんだよね? あと二人ってどんななの?」


 皿を一枚一枚スポンジでこすってカリムに渡す。


「安心しろ。一人は迷惑はかからないはずだ」

「迷惑はかからないって、それだけだと色々不安」


 カリムがそれを水でゆすぐと、今度はハインさんに渡す。


「確かに一人は変に器具音痴だったり無駄にネガティブだったりしませんし、迷惑がかからないでしょうね。もう一人はどうですかね?」


 とハインさん。ハインさんが皿をふきんで拭くと、それをフリードが受け取る


「もう一人はクリス級にうっとうしいけど、そいつじゃない方は僕はあまり好きじゃない」


 フリードが受け取った皿を棚に片付ける。流れ作業だ。

 そんなフリードの発言は何か意味深だ。


「好きじゃないって何で?」

「会えば分かる」

「あとの二人は何の人なの?」

「『白雪姫』と『人魚姫』だ」


 かなりメジャーどころが来たな。「シンデレラ」といい、世界的人気アニメ映画でもかなり人気な物語だ。この3作品は歌も印象的だし、お姫さまも少女たちの憧れだ。特に「人魚姫」が好きだという女の子は世界的に見ても多い。最近ではミュージカルになるほどだ。

 だけど、「シンデレラ」「白雪姫」がヒロインに捨てられる理由は分からなくもない。「シンデレラ」はクリスの言うようなことがあったみたいだけど、「白雪姫」の王子様こそ何もしてないもんね。あれ、世界的人気アニメ映画では王子様のキスで目覚めるけど、グリム童話の原作の方では運んでるときに口から毒リンゴがこぼれるんだよね? つまり王子様は何もしていない。はてさて、どんなフられたエピソードなのだろうか。


「あんた、テオにどうして捨てられたのか聞いたらしいけど、『人魚姫』のヤツには聞かない方が良いよ」

「なんで?」

「あぁ、聞いても無駄だな」


 「人魚姫」って、そもそも捨てられる話だっけ? 世界的人気アニメ映画では、人魚のヒロインと王子様が最後タコの魔女をやっつけて、ヒロインは永遠に人間になってめでたしめでたし、だったよね?

 あれ? でも確か、原作の方では人魚は海の泡になっていなかったっけ?


 カリムとフリードが声を揃えて言う。


「あいつは人魚姫のことなんか知らないからな」



さて、次は誰かな

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