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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
15/112

14.ドイツ語で会話

ようやく王子が次々やってきます

14.ドイツ語で会話


「おー梅乃久しぶり……って新学期早々疲れてないか? 休みボケか?」


 実験室に入るなり、恭介が話しかけてくる。


「あぁ、うん……色々あってね」




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 自らヒモ男に成り下がったテオも私も2時限目がなかったため、昼休みに人が混む前に食堂でお昼を食べることにした。もちろん私のおごりで。


 だがこれが厄介だった。


 王位を引きずり下ろされた後のことはよく知らないが、元々王様だったテオは、当然学食の使い方を知らない。

 学食に入るなり「なんだここは。こんな大勢が来るような場所で食事をするのか」とかまだほとんどがら空き状態の食堂で通る声を発し、学食のシステムを説明すると「給仕がいない食堂は初めてだ」などと見本ボックスの前で大きい声で言う。


 頼むから黙ってくれ。まるで初めて東京に来た田舎者のおじさんみたいで、一緒にいて恥ずかしい。多分純粋に新鮮味を感じて言ったのだろうが、聞く人が聞けば嫌味にしか聞こえない。

 あぁ、せっかくそんじょそこらにいないような美男子なのに、残念すぎる。


 そんなやりとりをしていても、やっぱりそうそうお目にかかれないような美形なので、そんな恥ずかしい発言も「くすくす、あの人可愛いー」なんて女の子たちの声が聞こえてきた。やたらと流暢に喋る日本語も美形補正のせいか、少しも怪しまれていない。


 テオが並んだうどんコーナーのおばちゃんも、「あらあら、お兄さん日本語上手いわねぇ。顔もイケメンだしトッピングオマケしてあげる」なんて言って、テオのお盆に野菜かき揚げとその分のトッピングチケットを乗せてきた。おそらくそれが何かを理解していなかったテオは、とりあえずにっこり笑って「ありがとう」と言うが、うどんコーナーのおばちゃんたちは悩殺されてしまって、後が積んでしまった。

 ……いくら上から目線態度でも、れっきとした王族で誰もが振り返るような美形だ。そんなヤツに笑顔を向けられたら、ひとたまりもないのだろう。


 そんな頭がいいのか悪いのかちょっと抜けているので、果たしてお箸はちゃんと使えるのだろうかと心配していたが、普通にお箸を使いこなしてうどんを啜っていたので驚いた。どうやらおとぎの国のニッポン地方の一寸法師に教えられたそうだ。

 んでもってニッポン地方っていう名称がそのまんますぎて拍子抜け。


 途中で自分の分とテオの分のお茶を汲みに行っていたら、いつの間にかお昼休みの時間になっていて、食堂は一気に人でにぎわっていた。テオの元へお茶を持って行こうとしたら、顔のいいヒモ男は文系っぽい女の子たちに囲まれていた。

 「どこから来たんですかー?」とか「日本語上手ですねー」とか猫撫で声で言う彼女たちに対して、少し困りながらもテオは答えていたが、次第に彼女たちの押しが強くなり、「今度構内案内するのでケータイアドレス教えてください~」と言うようになる。当然携帯電話なんて知らないテオは、しどろもどろになってきていたので、意を決してその輪の中に入ってヤツを連れ出した。女の子たちの空気読めよ的な顔は言うまでもない。


 食堂を出て私は次の授業があるからじゃあね、と別れようとしたら、テオは自分の留学先の経済学部棟がどこにあるか分からないと言いやがる。

 そんな大事なもの、最初に読んでおけよ、とつっこみかけてかろうじて飲み込む。

 途中「おお、車だ」とか「おお飛行機だ」とか、次々目に入る機械に目を輝かせていたので、何度も置いていきそうになってしまったが、ようやくさっき送り届けてきたのである。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「はぁ、恭ちゃん、久々に一般人に会えた気分で落ち着くよ」

「は? 何言ってんだ?」


 思えば今日は朝からおとぎの国の者どもに振り回されている気がする。いや、もう夕べからだから、こうしてこっちの世界の人と喋るのが久々な気分だ。

 まったく、魔神どもはセクハラ野郎どもだし、2人目に現れた元王様は好奇心と天然が過ぎる。果たしてこれから現れる王子たちはどんな人なんだろうか…………。


「あ、言ってる意味分かったぞ。お前、春休みの間ずっと昴先輩に会ってたんだな。そりゃあ俺らは一般人になるわけだ」


 と、冷やかしと皮肉を込めて恭介は言ってくるが、正直それが軽く流せるような内容じゃないので一瞬言葉に詰まる。


 鬼塚恭介は、私や夏海と同じ学部・学科の友達で、夏海とは高校からの仲らしい。

 大学に入学したての頃に、夏海を介して仲良くなった。学部の中で一番仲のいい男友達と言っても過言ではない。

 恭介は人柄が良く、交友関係も広い。私の元彼も恭介に紹介してもらった。

 割と無理言ってお願いしたものだから、その彼とはもう別れたというのは、恭介には言いづらい。


 …………私もまだ、人に言いたくないし。


 なんとか今はそれを軽く受け流すことにしよう。


「なになに? 羨ましいの、恭介。先輩を取られて。それとも私?」


 私も負けじとにやけ顔を作って返すと、恭介は目を細めてデコピンしてくる。

 ちょっと! 女の子にデコピンはひどいよ! もっと丁重に扱え!


「そもそもお前、そんな指輪してたっけ? 先輩にもらったのか?」


 恭介は私の左手の中指にあるサファイアの指輪を見て言う。今日はやたらと先輩関係のネタでつっこむな。


 私は左手の甲を恭介の前に差し出して、自慢げに言う。


「愛しの夏海ちゃんにもらったの。ドバイのお土産」


 夏海には悪いが、実際はそんなに自慢できるものではない。いや、指輪だけなら、学生が付けるようなものではなく、ちゃんとしたサファイアが嵌っている高級感溢れるものとして自慢できるのだが、なんせこれは魔神付きだ。しかも「頼れるおにーさん」仮面をつけた厄介なヤツ。これのせいでいきなりファンタジーの世界に飛び込んだと言っても過言ではない。


 私はいたって冗談半分に指輪を見せつけていたのだが、何故か恭介はそれを真剣に見ていた。一体どうしたのだろうか。


 と、そんなやりとりをしていると、実験室にぞろぞろ生徒たちが集まってきた。

 3時限目は農学部の方で実験。今朝と同じく、今日は初回ガイダンスなので各実験の先生たちが大まかに実験の流れを説明するだけだ。実験は学科ごとに分かれて行うので、私も恭介も夏海も同じクラスだ。

 そんな人が集まってきた中に、夏海の姿が見えた。


「あ、夏海ーこっちおいでよ」


 実験室の後ろから入ってきた夏海を私と恭介が座っている机に呼ぶが、どこか夏海は上の空だった。


「こいつ、どうしたんだ?」

「さぁ? 夏海ーほら、おーい」


 ぼーっとする夏海を訝しむ恭介の横で、私は夏海の目の前で手を振る。すると夏海ははっとするわけでもなく、そのまま私に目を合わせてきた。と思うと、夏海の頬はみるみるうちに赤くなっていく。

 夏海は両ほっぺを両手で触る。

 なんだこれ、まるで恋しているような仕草だ。


「梅、あたし今日、王子様見たよ」

「……え!?」


 今、王子様って言った? 言った? 言ったよね?

 えええー、それってもしかしなくてもおとぎの国の王子のどれかだよね!?

 そんな王子って丸わかりの格好で大学構内を闊歩していたのか――!?


「あんなかっこいい人初めて見たぁ。髪もさらさら揺れてるの。声も落ち着いた王子様の声って感じで」

「何だよお前、柄にもなく気持ちわりーな」

「うるさい」


 えーとえーと? どういうこと? 王子様の様ってことは、きちんと普通の格好で歩いていたってことだよね? よしよし…………じゃなくて、もっと聞くべきことがあるでしょう。


「……夏海、その人とどこで会ったの?」

「えっと、最初に会ったのは昨日の帰りの電車の中」


 電車の中!? 5人の王子の中に、電車を乗りこなせる王子がいるとでもいうのか!? まともに会った王子がテオだったから、なんとなく他の王子たちも機械関係に弱いもんだと思っていたんだけど。


 夏海はほんのり頬を赤く染めながら、そのときのことを話してくれる。


「昨日の帰りは結構電車が混んでて、かつ、お酒とか香水のにおいが結構充満してたの。それで私の前に立ってた人がすごい酔っちゃったらしくて、身近な駅で降ろして少し介抱してあげたのね。そのときは、なんかやたらと顔のいい男だとしか思わなかったんだけど」


 それが仮に5人のうちのどれかとして、その顔を間近で見たのに特に何とも思わなかった夏海も、それはそれですごいな。アサドが言うには、そんじょそこらにいないような美形らしいのに。


「それで、さっきここに来るまで鼻歌歌いながら歩いていたら後ろから呼び止められて。振り向くとその人だったんだけど、昨日のお礼を言われて。そのお礼を言ったときの顔が、なんだかとても柔らかくて、そこから春の風を吹いているような感覚に陥ったの」


 ああぁー、友達が一人悩殺されちゃったよー。って待て。今の話だけじゃ、相手が王子かどうかも分からない。とりあえず夏海が誰かに恋したってことしか分からない。


「……その人、どんな人?」

「えーっとね……」

「――――Kann ich hier sitzen?」


 夏海がちょうど答えようとしていたとき、別の方から声をかけられる。


 見上げれば、そんなに背が高そうではない欧米人がいた。


 最初見たとき、この人も王子の中の一人かと思った。

 少しつり目がちなアーモンド型の瞳は、エメラルド色をしている。短く切りそろえられた金髪は、淡い緑色の光沢を放っている。顔はどちらかと言えば童顔だが、目鼻立ちははっきりしていて、綺麗な顔立ちをしていた。美男子だ。


 だが、その考えを改める。

 何故ならこの人は今、日本語以外の言語を喋ったからだ。


 ドイツ語だろうか?


「Es ist gut.」


 と夏海が返す。


 「なんて言ったの?」と恭介に目線で訴えれば、「隣座っていいかだってよ」、と答えてくれる。


 さすが夏海と恭介だ。

 夏海は旅好きなので、しょっちゅう海外に行っている。だから簡単なドイツ語は話せたのだろう。

 恭介も教養でドイツ語を習っていたらしく、かなりいい成績だったみたい。



 ……………………。



 となりに座った留学生は、緊張しているのか、言葉の壁に躊躇しているのか、一言も言葉を発さない。

 なんとなく気まずい。


 そんな空気をどうにかしようとしたのか、恭介がドイツ語でその人に話しかける。


「Woher kommen Sie?」


「……Ich bin aus Mär…………Deutschland.」


 えっと、これは分かるぞ。ドイツから来たってことだよね? 間に何か、余計な物がはさまった気がするけど。



「はーい、みんな座ってー」



 そんなやりとりをしていたら、ちょうど先生たちが入ってきてガイダンスになった。


 ……何でこの子はここに座ったのかな?







 ガイダンスが15分で終わり、みんなは解放モードだ。

 学科の友達がどっか遊びに行く?などと話していて私も誘われたが、今日はバイトだ。時間に余裕はあるけど遊びには行けない。


「じゃ、俺部活あるからお先ー」


 恭介は剣道部で体育会なので、練習が結構ある。今日も早めに授業が終わったというのに、遊びに行かずに部活とは、熱心なもんだ。


「梅、あたし今日はこれから練習しに行くけど、あんたどうする?」

「私、バイトだから今日は行かない」

「そう。じゃあまぁ、下まで一緒に行こう」


 そう言って、私たちは鞄を持って実験棟の下まで一緒に行った。

 このタイミングでさっき聞きそびれたことを聞こうと、再び夏海に質問する。


「ねえねえ、さっきの話だけど、その夏海の言う『王子様』って一体――」

「あ!」

「え?」


 突然夏海はがさごそと鞄の中を漁る。


「いっけない。あたし2時限目の講義室にスコア忘れて来ちゃった」

「え、あ、え、そう……」

「ごめん、取りに行ってくるね! あんたバイトあるだろうし、先帰ってて!じゃあねー!」


 と、夏海は勢いよく農学部の講義棟の方へ走っていった。


 ……また聞きそびれた。

 それに夏海に追加プログラム、持って行ってもらおうと思っていたのに……。


 しゃーない。まだ時間あるからオケの部屋にプログラムだけ置きに行くか。




「……あ、の」



 オケの練習室へ踵を返そうとしたとき、後ろから声をかけられる。

 振り向けば、さっきの留学生くんだった。



 ん? 日本語喋った?



 するとその留学生はがばっと勢いよく私に向かって頭を下げた。



「昨日はあっりがとう!」



 …………えーと、昨日?


 昨日、何かお礼をされるようなこと、したっけ……。




 ――――――――!!



 この人、もしかして昨日のカエルか!?



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