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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
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13.頂点からたたき落とされて

13.頂点からたたき落とされて


「なんともひどい話だ。エリサは一刻も早く兄を助けるべくその通りに動いていたというのに、俺は彼女を信じられなかった。挙げ句、自分の妻を火にかけようなど……」



 テオは眉間にしわを寄せて、どこか苦しげに答える。自己嫌悪に満ちあふれた表情だ。



「でもこの話だと、倒れたエリサ姫の胸に王様が花を乗せて、再び二人は結ばれるんじゃないの?」

「あぁ、エリサは俺を許してくれた。そんな心優しい彼女に、俺は二度とエリサを疑わないと誓ったんだ。だがすべての経緯を見ていた兄たちが俺に憤った。妹をひどいめに合わせた俺だ。そんな男に妹をやるわけにはいかないだろうな。彼らは、いかに俺が非道な男で、いかにエリサが素晴らしい王女だということ世論を使って国中に広め、俺を王位から引きずり下ろした」


 ……この物語の後に、おとぎの国ではそんな波乱が起きていたのか。

 確かに、率直な感想として、火焙りの刑を言い渡した妻と再び結ばれる、なんて色々と虫が良すぎるよね。なんて言うと彼には諸刃の剣だろう。今もそのことを深く悔いている様子だ。

 それにしてもお兄様たちはテオを王位から引きずり下ろしたって、なかなかすごいな。11人もいれば世論をひき付けるのは簡単なんだろうか。


「それで、その後国とエリサ姫はどうなったの?」

「その後、国はエリサの11人の兄たちが、それぞれの強みを生かして統治している。エリサはその後、兄が連れてきた男と恋に落ちて結婚したらしい。言葉がなくても分かち合える人なんだそうだ」


 エリサ姫……テオを捨ててしまったのか……。

 なんというか、同情すればいいのか慰めればいいのか当然と言うべきか。


 私がなんて言ったらいいか言葉を探していたら、テオが手のひらを私の顔の前に出してきた。


「言っておくが、励ましも同情も必要ない。これは自業自得だと思っているからな。自分の愛する者を信じられなかった罰だ。いくらでも罵ってくれ」

「そんなのしたらテオ再生不能になるんじゃないの?」

「う。だが、思うところがあるなら言ってくれ。俺はこの世界に自分を変えに来たんだから」


 目の前に座るテオデリック王は、王の気品というか威厳というか、やはりどこか上に立つ人の独特の偉そうな素振りはあるが、その灰色の瞳は真摯にこちらに向けられており、真剣に自分のダメなところと向き合おうとしている。寄せられた眉は自己嫌悪を現しているが、それでつぶれるわけではなく、ちゃんと自分を改めようとしている。


 この人はなんだかんだ言って、まっすぐで純粋なんだろうな。


「じゃあ、二つほど。まず、噂に流されるとか最悪」


 ただでさえ傷ついている人にこんな物言いはトドメのようだが、この人ならちゃんと聞いてくれそうな気がするので、私は少し辛辣な物言いをする。


「テオの周りにいるような家臣がどんな人かは知らないけど、少なくとも王の側近てことだよね。これは偏見かもしれないけど、側近の中には自分の利益を求める人が結構多かったりするじゃない。きっといきなり連れてきたエリサ姫と結婚するテオを見て、自分の娘とか親戚の娘とかと結婚させる計画が破れて、エリサ姫が邪魔になったのかもしれない」


 そういう話、よくあるよね。王様の結婚相手に自分の娘を引き合わせて地位を確実な者にするって話。逆に王様が恋した身分の低い娘をなんとかして蹴落としたりとか。


「……確かに、昔からやたらと娘を薦めてきた家臣が何人かいたな」

「王様だったらなくはない話でしょ? だから彼女を魔女と言うことで、彼女を蹴落とせるし、それを証明した自分は地位を固めることができる。じゃなくても、人が言うことを鵜呑みにするのは危険。一度鵜呑みにしてしまうと、それまで信じていたものが一瞬で見えなくなってしまう。いくら目で語り合おうとも、一度疑い始めた頭では相手を信じ抜くことなんて出来ない。自分には理解できない行いだとしても、その人が何のためにそれをしているのか、倦厭するんじゃなくて歩み寄らないと。それが愛したい人ならなおさら」


 いくら好きな人だって、自分には理解できない行動をしていたりする。そこにはその人独特のよくないところが現れていたりもするが、逆にその人独特の良さが隠れていたりもする。それを理解し合うのは、相手のことをよく考え、同時に自分とは違う価値観を柔軟に吸収するような心の余裕が必要だ。

 テオの場合、一言も言葉がなかったのだし、エリサ姫も疑いを言葉で晴らすことなど出来なかったのだろうし、不満は募る一方だったから、余計に心の不安をなくしていったのだろう。じゃなくても、それでお互いを理解し合うというのは、かなり心の余裕がある人か、観察眼がある人、価値観が広い人などじゃないと、かなり難度が高いものだろう。

 言葉がない状況で物事の真理に近づくのは、相当な我慢が必要だし、きっとこうして私が言っているほどままならないものなのだろう。でも、いくら言葉が足りなくったって、好きな人にはあらぬ誤解などされたくないし、信頼されていたい。


「俺にはまだ、言葉や言動以上の何かを感じ取るのは難しいが、あんなことをしてしまったからには何とか治したい」

「それはテオじゃなくても普通に難しいことだと思うけど……」


 そもそも20歳を過ぎた人間に、そうそうそのような気質を治せと言うのはかなり難度が高いが、テオの真剣な灰色の瞳はかなり切実だ。

 一度の失敗をすぐに治せるとは思えないが、きっと時間がかかってもこの人はそういう男を目指すのだろう。


 私は口元を和らげて言う。


「きっとそれができるようになったらテオはいい男になるのだろうね」


するとテオは一瞬目を見開いた後、頼もしげな表情を作る。


「あぁ、ダメなときはちゃんと叱ってくれ」


 女にいい男道を指南されるというのは些かどうなのとは思うが、この人はそんな何ににもならないようなプライドを潔く捨ててちゃんと自分に向き合う。

 それだけでも出来た男だと思うが、噂だけでは揺るがないようなより強い男になるって言うんなら、協力しようと思う。




「――で、言いたいことのもう一つは?」

「あぁ、そういえばそうだった。無理矢理女の子をベッドに引き込むな」


 言うと彼は先ほどまでの頼もしい顔はどこへやら、再び眉間にしわを寄せて目を見開き口を開けたまま固まってしまった。「そっそれは…!」と言いかけた顔だ。


「もう、女の子は色々大変なの、男と違って。当然好きな人とそういうことをしたくないってわけじゃないよ? ってか好きな人とはもっといちゃいちゃえろいことしたいけど」

「お前、こんな白昼堂々と恥じらいもなく言うな」

「でも男が求めるほど女の体は丈夫じゃないの。ちょっと生活環境が変わると生理の周期も変わっちゃうし」

「だからお前……」


 私が続けると、テオはしわを寄せた眉間に手をつきため息をつく。「もう少し間接的な言葉を……」とぶつくさ言っている。

 なんだよ、ストレートでわかりやすいじゃないか。


「……確かに、あれは俺がどうかしていた。色々溜まっていた」

「性欲が?」

「お前少しは黙れ」


 まぁ、男の人も処理するの大変だよね。好きな人に寸止め状態じゃ生殺しのようなもんだし。

 いやいや、かと言って無理矢理はいかんよ。しかもそれが初めての時なら恐怖心を与えかねない。そういうのはお互いの気持ちが高まり合ってから行うものであって、一方的に求められたら体も心もつらい。


 ……とは、多分この人は深く反省しているだろうから、私がとやかく言うことではないけれど。




「……まったく、婚前のうら若い乙女が白昼堂々と……色気の欠片もないな」


 説教されてへこたれていたと思ったら、いつの間にかテオはあきれ顔で頬杖をつき言ってくる。


「うるさい、と言いたいところだけど、テオが私に色気感じてくれてなくて好都合」

「……は? それどういう意味……ってまさか」

「まったく、もう既にセクハラの二人がいるからね。これ以上増えたら死んでしまう」


 それを聞くと、てっきり「あいつらは」とか言ってため息をつくのかと思っていたが、目を丸くして変な顔でこっちを見てくる。


「なんだ。やたらと遠慮なくずけずけものを言う割に、そんなところは繊細なのか」


 …………なんだよその印象。てかそれ自体がさっそく偏見だぞ、このやろう。


「そうなの。いくらこんな色気なにそれ状態でも、れっきとしたうら若き乙女なの。その辺の男じゃ動じないけど、あんたたちその辺のと比べもんになんないくらい顔だけはいいから私の免疫が追いつかないの」


 「だから変な気を起こさないでくれるとありがたい」と付け加えると、それまでどこか情けなさを残した表情が、王様独特の威厳に満ちた傲慢な笑みに変わる。




「安心しろ、心配しなくてもお前にその気が起きる気もしない」



 そしてふっと鼻で笑う。



 ……………面と向かってそう言われると、それはそれで腹が立つんだけど?



「まぁ、その方がありがたいから、出来れば私の貞操が危ないときとかも助けてくれるとありがたい」


 口から嫌味をこぼすのを辛うじてこらえて、私は今後の魔神対策にテオに協力してもらうことにする。こういう役は、私にその気が湧かない人の方が適任だ。


 テオは少し考え込んだ後、不敵な笑みを浮かべる。

 え、なんだその顔。いい予感しないぞ。


「分かった。俺がお前をあいつらから助けよう――――ただし、代わりに頼みがある」


 すると、頬杖をついていた腕を膝に置き、佇まいを正す。

 顔は何かを企んだ顔。


「何頼みって。いやらしいことはお断りだよ」

「何自惚れてやがる。そんなことではない」

「じゃあ何なんだよ」


 少しイラッとしながら私は先を促す。するとヤツは頭を下げる。









「1週間分でいいから金を貸してくれ」






 …………え?


「お、お金……? 何で……」

「なくなったからだ」


 いやいやいや、そんな堂々と言わなくても、無くなったから貸せというのは分かりますよ!?


「えっと、どういうこと?」

「俺たちはこっちに来る前に、こっちでしばらく暮らせる分のお金を役所からもらってきたんだが、俺、王じゃなくなっただろう? 他の奴らがもらえる分の10分の1くらいしかもらえなくって、夕べそこを尽きたんだ」


 えーと、それはなんて言うか……。


「いち早く副業をしなくてはと思っていたんだが、まだどこにも受け入れられていなくてな。だから……」


 テオは不適な笑顔を向けたまま、私に手を差し出してくる。



「俺がお前を守る代わりに、しばらく金を貸してくれ」




 この人、人からお金を借りるためのプライドも捨ててしまったのか。




 よりにもよって一国の王様がヒモ男になるだなんて残念すぎる…………!!



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