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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
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9.油断は禁物

9.油断は禁物


 とりあえず気を落ち着けるために紅茶をもう一度すする。


 それをくすくす笑いながら、アサドはテーブルの上のカップにコーヒーを注ぐ。


「ホントに梅乃ちゃん可愛いよね、こんなに可愛いご主人様でボクたち幸せ者だ」




 目の前の軟派アラブが可愛い可愛いをやたらと連呼するけど一応言っておこう。


 私は別に、美少女とか美女とか、そういう類の顔ではない。別にぶさいくって訳でもないと思うが。


 顔立ち自体は整ってはいると思うが、すっぴんだとどこか垢抜けない感じなので、まぶたに少しシャドウで色を付けてラインを引きまつげを上げれば、普通にそこら辺にいそうな可愛い顔になる。ついでに肩に付くか付かないかくらいの長さのウェーブの掛かったボブは、春らしく可愛らしくて気に入っている。


 でもそれは普通の女の子のおしゃれだ。あくまで「そこら辺にいそうな」顔になるだけで、人が振り向くほど美女になるわけじゃない。いたって平凡顔である。


 確かに恋バナとかになって赤くなったりすると「かわいー」とか言われたりすることもあるが、逆にオケや学部の飲み会で中心で何かやらされてすべった後に私よりも女の子らしい子が「てへ☆」とか言うと「きゃーかわいー」って言うのに、私がやると「かわいくねーぞ!」「調子乗んな」と罵倒されてしまう。


 つまり、何でもないときに「可愛い」なんて言われるほどの顔ではないのだ。割と中身がそこまで女の子女の子しているわけでもないし。



 

 私は紅茶を飲み込むと、盛大にため息をつく。


「はぁ、もうそうやってからかうのやめてよ。少しはカリムを見習ってほしいね」


 するとアサドが目を丸くしてこっちを見る。

 そしてすぐに目を細めてにやっと笑う。


「ふーん、じゃあそのカリムを起こしてきてよ。ご飯用意できたから」


 なんだかアサドの笑顔が意味ありげだ。何のつもりなんだ。



 ヤツの手にはまってる気がするけど、カリムを起こしに行く。








 2階に上がって一番右手前の部屋、それがカリムの部屋。

 ちなみにアサドはその向かいだ。


 とりあえずその扉をノックする。


 コンコン。


 ……………………。


 返事がないな。

 もう一度ノックしよう。


 コンコン。


 ……………………。


 案外カリムは朝に弱いのかな?


 私はおそるおそる扉を開けて中を覗く。

 普通に開けて着替え中だったりしたら嫌だもんね。


 だが、視界に入ってきたのは着替え中なんて生ぬるいもんじゃなかった。




 私の8畳部屋の2倍はあるんじゃないかというくらい広い部屋の奥にあるベッドの上に、そいつはいた。


 起き抜けでまどろんでいる様子のカリムは、しなやかに鍛えられた上半身を惜しみなく晒し、腰の際どいところでパンツを穿いた足を片方ベッドの上で折り曲げて座っている。その立てられた膝の上で支えられている腕は、ターバンの巻かれていない濃紺の短い髪をかき上げている。




 なんだかかなり色っぽい……!




 遮光カーテンで若干薄暗いこの部屋で、寝起きのまどろみ状態で、その体勢はかなりエロい!



 思わずまじまじ見てしまう。



 あ、ちなみに、別に私は男が着替えてたり胸板見せてる状態に「きゃー」って顔をそらしたりはしない。多くの場合は動じないのだが、さっきのアサドの場合はあれはアサドの色気が私の免疫では追いつかなかったってこと。目の前のカリムの場合は、きっと私に害はないから、見るだけ楽しませてもらうのだ。



 と言っても、もうご飯食べないと私も学校に間に合わなくなるのでカリムに声をかける。


「カリム、朝ご飯だよー」


 というか、本当に起きてないのだろうか。

 部屋に別の人物がいるというのに、「んあ……?」と声を漏らすだけで覚醒する気配はない。



 相変わらずおにいさん、えろいよ…。



 それにしても本当に目覚めが悪いんだな。

 私はカリムを揺らす。


「カリム、ほらほら、朝だよ。起きて起きて」


 すると、頭を支えていた腕をどけて顔を上げてくる。

 気だるげに見上げた琥珀色の瞳は、焦点が定まっているのかどうかすら怪しい感じだ。


 おおう…………こいつもこいつでアラブ系さわやかイケメンだからな。そいつがこんな顔してるとか、かなりエロい。







「――!?」






 まじまじ観察していたら、いきなり私の腕を掴んで引っ張ってきた。

 その勢いのまま、私はカリムの上に覆い被さる姿勢になる。





 え? え? どういうこと!?





 咄嗟のことで反応できずにいたら、私を抱き込んだ腕は腰の辺りまで下がり、際どいところを撫でる。



「――え!? ちょっ――――っ!?」



 さすがにやばいと思って抵抗しようともがくが、私を抱き込む腕の力が強いのと、この密着した姿勢では力が入らない……!








 ぺろっ


「――――っ!?」






 首! 舐められた!

 やばいやばい! こいつもやばい!








 ばっっちいいいいいんっっ






 私は身の危機を感じてそのイケメンフェイスにビンタをかまして、腕の拘束が緩んだ隙にこの部屋から避難した。



 もうやだ魔神ども!


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