0.プロローグ
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私はどうすればいいのか対応出来ずにいた。
普通はびっくりして腰抜かしたり、その場を逃げようとしたりするだろう。
でも私は対応できずにただ“それ”を眺めていた。
「あー肩凝った。何でわざわざあんなところに閉じこめられなきゃならないんだ」
“それ”は何やらぶつぶつと文句を言いながら、首を左右に曲げたり肩を回したりしている。まるで同じ空間に人がいるとは思っていなさそうだ。
……いても関係なさそうだが。
私はどうすればいいか、内心パニックになっていたが、目の前にいる“それ”は明らかに不審人物。いや、不審物体? 分からないけど、どうにか自分で何とかしなくては。
私は視界の端に入った殺虫スプレーに手を伸ばす。何故部屋に殺虫スプレーがあるかは気にすることなかれ。
「で、俺を呼んだのはお前か――っておい!?」
相手が油断している今こそ撃退のチャンス! と思って慎重にスプレーの先を相手に向けていたのだが、いきなりこっちを向いたので、私はさらに焦ってしまい、勢いよくスプレーを吹く。
「おいっ何しやがる!? 人に向けるものじゃないだろう!!」
「きゃあっ動かないでよ変態!!」
確実にしとめたと思いきや、“それ”は命の危機を感じてか、咄嗟に横に避けたので、スプレーを持つ手をそちらへ向ける。
「誰が変態だ、おいやめろ!」
「もう動かないでよ――っげほっげほっ」
あまりにも機敏に動く“それ”を追いかけてスプレーを吹いていたら、一人暮らしの8畳の部屋が一気に殺虫スプレーで充満し、その空気の悪さに咳き込んでしまう。それが想像以上に息苦しく、スプレーを持つ手を下ろし思わずしゃがみ込んでしまう。
窓を開けなくては……。
「お……おい、いきなりどうした。大丈夫か?」
“それ”はいきなり咳き込んだ私を心配してか、こちらに寄って背中をさすってくる。
いや、大丈夫も何も、おまえが原因じゃないか、と自分で殺虫スプレーを撒いたのを棚に上げて、“それ”を睨みつける。
が、それよりも苦しかったので、徐に指を窓の方に向ける。
「窓、窓を開ければいいんだな?」
“それ”は私の言いたいことをすぐさま理解すると、私が頷くよりも先に手をひらりと窓の方に向ける。
すると、窓がいきなり開く。
「待ってろ、すぐに空気入れ換えるから」
更に“それ”は私を安心させようと優しく背中をポンポンと叩くと、再び窓の方に腕を伸ばす。何をするのかと目を向ければ、“それ”は手のひらを上に向けて、手首を動かした。たったそれだけのことなのに、いきなり風が窓から吹き込んでくる。
「!?」
それが余りにもすごい勢いだったので、私は思わず目をつぶり、身を固くする。
「大丈夫だ。もう終わった」
耳元で囁かれたと思うと、“それ”の言うとおり、突風は一瞬で収まり、殺虫スプレーで充満していた部屋の空気が一気に清浄された。
いったい何が起きたのか、現実では有り得なさすぎることがいっぱいで、私は驚きで見開いた眼を“それ”に向けた。
だが“それ”を見たとたん、こいつなら今起きたことが普通に有り得そうだと納得してしまった。
何故なら“それ”は、有り得ない登場をしたのだから。
まるでアラビアンナイトに出てきそうな格好をした“それ”は、それだけでも十分変態で不審者なのだが、なんと“それ”は今床に転がっているサファイアの指輪から登場したのだった。
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