平安京を守る者
できるだけわかりやすく、陰陽師をテーマに書いてみました。誤字脱字あるかもしれませんが暖かい目でみてもらえると幸いです。
平安京では陰陽師安倍晴明が藤原氏と接近し力をつけていたころ、長徳の変、いわゆる花山院事件が発生した。藤原氏の道長は事件の首謀者として政敵伊周兄弟を排除しようとしていた。
道長は妻の屋敷で晴明と会っていた。
道長「兄が亡くなり伊周達の処遇をどうしようか悩んでいたときに、誰か知らぬがよくやってくれたわ」
晴明「我が陰陽術により星の周りが好転しました」
道長「晴明よ、そなたを頼りにして正解であった。褒美は後ほどそなたの屋敷に送ろう」
晴明「ありがとうございます。星の動きが再び鈍くなっております。道長様も身辺に注意してください」
道長「さすがは晴明。ではまた」
この会話をたまたま聞いていた者がいた。法要の相談を受けていた法師の一人道満である。
道満「まさか迷った場所でこんな話を聞くとは・・・」
道長が去ったあと晴明が言った。
晴明「そこにいるのはどなたかな?顔をだす必要はないが、このことを口にすればどうなるか・・・わかっていような?」
道満は数珠をそっと手に持ったが小さな音に反応したのか晴明は声を落として言った。
晴明「早く立ち去れ。わが破軍があなたに届く前に・・・」
大きな風が吹き、多くの足音が近づいているように感じた。
道満は慌てて走りだし、屋敷をあとにした。
道満「先ほどの話、よく調べてみよう。伊周様の父君にはよく様々な物を寄進していただいた。道長様に取って変わってもらえば・・・」
道満は伊周の屋敷の場所を思いだそうとしながら平安京の町に消えた。
翌日の暗くなった頃、道満は伊周の屋敷に向かった。
屋敷の者は道満に最初警戒していたが、伊周の弟隆家は寺にきていたので知っているはずだと伝えると隆家が出てきた。
隆家「道満殿、お久しぶりです。今はどのような状況かご存じないのか?」
道満「存じております。この状況だからこそお話したいと思い参上いたしました。」
隆家「わざわざ来ていただき申し訳ないが兄は今・・・荒れておりまして。お会いにならないほうが・・・」
道満「少し話をしたら帰ります。どうか・・・」
頭を下げる道満に隆家は困惑していたが、警護の者とともにいることを条件に屋敷に通された。
屋敷の奥に通されると何かをぶつぶつとつぶやきながら床に何かを打ち付ける伊周の姿があった。着物は破れ、調度品もほとんどが倒れていた。
隆家「まるで何かに取りつかれているかのようです」
隆家は困った顔のような複雑な表情をしていた。
道満「私が近づいてもいいですか?」
隆家は周囲の警護の者たちに目を向けた後言った。
隆家「いいですが・・・兄に何かされても知りませんよ?」
道満は数珠を取り出し言った。
道満「私は法師であり、陰陽術も多少心得ております。」
道満の表情をみて隆家は警護のものに目くばせし少し後ろに下がった。
道満が静かに近づくと伊周は気づいて獣のようにうなり始めた。
手元には藁人形が握られ道長と書いてあった。
道満「伊周様、道満です。私がわかりますか?」
伊周はさらにうなり声を大きくした。
道満「何か変だ・・・これは人心を惑わす言霊の術では?」
道満は数珠を鳴らしながらある呪文を唱え伊周の周りをぐるぐると周り始めた。伊周は目で追い、隆家は警護の者を抑えながら様子を見守っていた。
少しして、伊周は突然眠ったように倒れた。
様子をみていた隆家は近づいてきて言った。
隆家「兄は・・・眠っているだけですか?」
道満「おそらく言霊の術。不安定な状態の人心をたやすく操る術があるのです。その術を解く言霊の術を行いました」
隆家「兄は目覚めるのですか?」
道満「目覚めるでしょうが、一連の記憶が無いかもしれません。強力かつ恐ろしい術です」
隆家「なんと・・・」
隆家は何も言葉がでない様子だった。
道満「私が本日伺った真の理由をお話いたします。伊周様が目覚めたとき、どうするかご相談ください」
道満は放心している隆家に昨日の道長と晴明の様子を話した。隆家は途中から真面目な表情になり、考えこんでいた。
隆家「道長の叔父上が・・・ありえるな。本日はお疲れでしょう。部屋を用意いたしましょう。」
道満「私は一度お暇したほうが・・・」
警護のものに目を向けると頷いていたが隆家は言った。
隆家「あなたの言葉で説明していただきたい。まさに言霊の術でね」
隆家の表情に道満も含め少し恐怖を感じていた。
道満は了承し、屋敷で朝を待つことにした。
翌朝目覚めると伊周のもとへ通された。
隆家もすでにその場におりことのいきさつを説明した。
伊周「道長・・・私を陥れるために晴明を使ったか・・・」
隆家「記憶はございますか?」
伊周「残念ながらほとんどない。何か聞こえると思った後意識がなくなったことは覚えているのだが・・・」
道満「それこそまさに術を受けた証」
隆家「道満殿が来てくれて助かりました」
伊周「しかし、道長め・・・」
伊周は何かをひらめいたように道満の目を見て言った。
伊周「法要のことで奴らの屋敷にいたと申したな、道満殿」
道満「いかにも」
伊周「引き続き何事もないように屋敷に行ってくれまいか?」
道満「私が・・・ですか?」
伊周「道満殿のお立場なら屋敷に出入りしても怪しまれまい。ここに来たのも慰めと称しておけばよい」
道満「つまり、道長一派を探れと・・・?」
隆家「道満殿なら大丈夫です。それに落ちぶれたとは言っても我らだって中関白家
と言われる藤原一門の一角」
道満はしばらく考えて言った。
道満「かしこまりました。私にお任せください」
伊周と隆家は笑顔で頷いた。
明後日、法要の件で再び道長のもとに道満は複数の法師とともにやってきていた。
法要の打合せの後、道長は言った。
道長「では、本日はこれで。道満殿、ともに来てくれないか?」
法師たちがざわつく中、道満は道長とともに部屋を出た。
しばらく廊下を歩いていると道長が話し出した。
道長「道満殿、先日は中関白家に顔をだしたそうですな?」
道満は唾を飲んだ。顔を隠すように深く頭を垂れながら言った。
道満「伊周様をお慰めに伺ったまでのことです。とても荒れていらっしゃいましたが、私の術で落ち着きを取り戻しになりました。しかし、もはや出仕はかなわないかと」
道長「道満殿も世渡り上手なこと。まぁ良いでしょう。隆家には申し訳ないが中関白家も見る影がないな。奥の部屋で安倍晴明が待っています。参りましょう」
微笑む道長の表情を見て道満は寒気がしていた。
奥の部屋に着くと道長が声をかけた。
道長「晴明、中におるのだろう?ここを開けてくれ」
扉が静かに開くと蝋燭の明かりのみの暗い部屋に晴明を含めて10名ほどの陰陽師がまっていた。
晴明「わざわざ申し訳ございません。ここらは私にお任せください」
道長「よいよい。では道満殿、ごゆるりと」
笑顔で言う道長と現在の状況に道満の焦る表情を察したのかすぐに扉は閉められた。
晴明「道満殿、先日ぶりですかな?」
道満「何のことでしょう?」
晴明は近くにいた陰陽師に声をかけて座布団を用意させた。
晴明「どうぞこちらにお座りください。お話したいことがあるのです」
道満は周りの様子を見ながら着座した。
道満「そこの陰陽師、女ですかな?しかも朝鮮語をはなされたような気がしましたが?」
晴明「これは驚いた。気づいたのはあなたが2人目です。我が母であり陰陽術の師の1人です」
微笑む陰陽師に道満も微笑み返したが、後戻りできないことを再認識していた。
晴明「この件はもうよいでしょう。実は先日あなたが屋敷から出た後、我が式神廉貞 に後をつけさせました。一連の流れも把握しております。隠す必要はありません」
ゆっくりと道満を見つめる目は品定めをしているように感じられた。
道満「・・・わざわざ呼び出した理由が何なのか、教えていただいても?」
晴明は静かに笑い始めた。
やがてなにか呪文を唱えはじめた。すると他の陰陽師も呪文を唱え始めた。
深い唸りのように脳に響く術を聞き、道満は心の中で「何か術にはめる気か?」と考え反撃の術を唱えはじめた。
しばらく呪文を唱え合う時間が続いた。
晴明はクスクスと笑いはじめ、陰陽師たちも術を唱えるのをやめた。
晴明「さすがは道満殿。我が言霊の術は敵わぬか。しかし・・・我が式神に勝てるかな?武曲 」
すると小刀を携えた集団が現れた。
道満「晴明殿の陰陽術。これが式神の正体」
晴明「いかにも。私の式神はまさに神のように突然現れ消える存在。どうやら私の言霊の術はあなたには勝てぬらしい。しかし式神の力は絶大ですぞ?」
にやりと笑う晴明をみて道満は冷や汗をかいていた。
道満「私1人にこの数とは、まだまだこの道満捨てたものではありませんな。しかしさすがに勝つのは難しい。逃げさせてもらおう」
出口に走る道満をみて「巨門 」という言葉が聞こえると鬼のような姿の男が道をふさぐように現れた。
道満「・・・なるほど。北辰の名の通りの役割があるのですな?」
晴明「逃げられません。外には破軍が潜んでいます。ご覚悟なさいませ。」
道満は部屋の隅に少しずつ寄りながら言った。
道満「それほどの力がありながら、なぜ道長様に仕えているのです?」
晴明「我が力は京を守るためにあるもの。そして京を守るのに必要なのは道長様。理由はそれだけです。」
晴明とにらみ合いになりながら誰も微動だにしなかった。
しばらくして道満は蝋燭をとり床に投げつけた。
火は広がり部屋が燃え始めた。
晴明「早く火を消せ」
慌てる陰陽師や式神に対して晴明の目は道満を見つめていた。
道満は煙が広がるのを待ち言った。
道満「これにて失礼」
火が壁となり混乱に乗じて道満は屋敷から逃げ出すことに成功した。
中関白家では道満は火を屋敷にかけて逃げたとの報告が届いていた。
伊周「道満め、役に立たぬやつ」
床に周辺の物を投げ出した伊周を止めながら隆家は言った。
隆家「落ち着かれよ兄上。道満殿は精一杯やってくださった。もはや都にはおれぬでしょうが必ずや姿を表してくれるはずです」
伊周「そのまま京を出たのではないか?」
隆家「いい加減にされよ兄上。われらの為に火までつけてくれたのだ。そこまでしてくれたものに対して何たる言い草か」
隆家の剣幕に少し落ち着きを取り戻して言った。
伊周「すまん」
隆家「どうせこれでわれらも京に残ることはできなくなりました。道満殿との接触もしやすくなるでしょう」
伊周「これであきらめもつくというものか」
伊周の小さな笑い声が響いた後、静寂が中関白家を包んでいた。
道長の屋敷では建物の後片付けなどが行われていた。
道長「晴明、お主というものがありながら逃げられるとは」
晴明「申し訳ありません」
道長「まぁよい。それほどの男であったということか」
晴明「すでに破軍をはじめとした式神たちに探索を命じています」
道長「相変わらず動きがはやいな。どうせもう京にはおらぬだろうが人相書は張り出しておこう」
空を見上げながら道長は言った。
道長「晴明、引き続き職務に励め。お主には大いに期待している」
晴明「ありがとうございます」
京では検非違使を含めた役人たちの大捜査に式神たちがまぎれていた。
京を追われ、太宰府や出雲へと下る兄弟の背を見送るように、都には冷たい風が吹いていた。数年の時が流れ、やがて兄弟は京に呼び戻されることになる。そこに、あの闇に消えた法師の影があったのかは、誰にもわからない 。
言霊の術は今の催眠術、式神は特殊な訓練を受けた忍のイメージをもとに描きました。




