【第一章】私とトウフと寿命がない【八話】
「な、な、なんですか!? これ! これを履けって言ってるんですか?」
トウフは白ブリーフを摘まみながらそう言った。
その顔は若干引いているようにも、絶望しているようにも見える。
ふんどしを締めてた奴にいきなり白ブリーフはダメだったのか?
基準がわからないが。
「トウフ…… お前、ふんどしなんて、そんなマニアックなものを履いて…… でも、これはこれで……」
トウフのふんどし姿を見て、これはこれで良い物だと、そう思う私だった。
というか、トウフの奴、本当に綺麗な白い肌だな。
女の私よりも綺麗なんじゃないか?
やっぱりトウフは豆腐なのか?
「目が、カズミさんの目が、なんか怖いです!! こ、こんなもの履けないですよ!」
ちょっと凝視しすぎたか。いや、眼福眼福。
しかし、白ブリーフを拒絶するとはいけないトウフだ。
「人間の子供は皆これ履いてるよ、これ履かないとすき焼き食いに行けないなー、残念だなー」
と、私はわざとらしく言う。
今のガキって何履いているんだ?
でも、トウフくらいの年齢なら、みんな白ブリーフじゃないのか?
いや、わ、わからん……
「そ、そんな…… うっ、ぐっ…… 履きます……」
トウフは涙目になりながら、ブリーフの袋を開け始めた。
うんうん、いいぞ、いいぞ。トウフ。
私にもっとオマエのそそる表情を見せてくれよ!
私の妄想に火を! 薪を! くべてくれ!
「そうだぞ、素直な方が可愛いぞ」
そう言って、服を脱ぎ始めたトウフをじっと見つめる。
その視線にトウフが目ざとくも気づく。
「なんで、じっと着替えるの見ているんですか?」
しまった。凝視しすぎたか。
「え? いやぁ…… あっ、ほら、ちゃんと着替えられるかなって?」
まあ、それもないことはない。九割九分九厘は私欲で、一厘だけちゃんと着替えられるのか、とは思っているよ。
「なんで疑問形なんです? あ、あっちで着替えて来ます! 脱衣所! あそこは服を着替える場所だってボク知ってます!」
いらん知識だけ持っていやがって。
せっかく着替えの様子を見てやろうと思ってたのに。
まあ、チャンスはいくらでもある。
しばらくは一緒に暮らすんだからな。
「チッ、まあ、良いよ、そのうち機会はいくらでもあるからな」
「機会って何の機会ですか!?」
しまった。欲望が口から出ちまったか。
まあ、実際あるだろ、そんな機会いくらでも。
そもそもこの部屋はワンルームなんだぜ?
へへへっ、いくらで機会はやってくるってもんよ。
「いいから着替えて来いよ、そのうちにすき焼き食べられる場所探して置いてやるから」
私がそう言うと、着替えを全部持ってトウフは脱衣所へと駆け込んでいった。
一瞬、覗いてやろうかと思ったけど、それほど余裕もないんだよな。
時間の余裕がない、というか不明なんだよ。
お店の時間はともかく、トウフくらいの子供を連れて歩くのって、何時くらいまで不審に思われないんだ?
いや、そもそもトウフの奴は何歳なんだ?
見た目は…… 小学生低学年くらいか? 幼稚園児程ではないよな?
そんなことを考えながら、スマホで探すが近所には和風のファミレスがあるくらいだ。
「中々近場にはないな。歩いて行ける場所が良いんだけど…… 和風のファミレスくらいか。後は遠いなー」
一人暮らしのせいか、つい考えていたことが声に出てしまう。
しばらくスマホで探しているが、やはり和風のファミレスくらいしか徒歩圏内にない。
「き、着ました……」
と、聞こえ、脱衣所の扉が開かれる。
トウフが、半ズボン姿で上は緩い半袖パーカーで出て来る。
「おっ、おおぅ…… 似合ってるじゃん」
と、自然と声が出て来る。
なんか、こう、ギュッとしたくなるな。
純粋に邪な気持ちで。
「本当ですか!?」
と、少し照れながら嬉しそうにトウフはしている。
にしてもだ。
半ズボンから出ている足が、綺麗だ!
白いしツルツルだ。
いやー、いいね。トウフ、キミ、最高だよ。
でもやっぱり頭の髷が気になるなぁ。
「ああ、後の頭のちょんまげをほどこう」
「こ、これはダメです!」
と、トウフは真剣な表情で私を見て来た。
あれ? なんか今までと違う感じだな。
「なんでだよ」
と、私が聞くと、
「妖怪にも決まりはあるんです! これは解いちゃいけないんです!」
トウフはそう言って大事そうに髷を手で押さえた。
まあ、妖怪だしな。
そう言うこともあるのかもしれない。
「うーん…… まあ、いいか。じゃあ、行くか。ファミレスくらいしか近場になかったけど」
それでも十五分くらいは歩くことになるけどな。
車なんて持ってないよ。
免許は一応持ってはいるけどもさ。
「ファミレス! あの二階にあって、一階が駐車場の!?」
けど、トウフは嬉しそうにそう言った。
確かに一階が駐車場のファミレスはあるけれどもさ。
「ん? まあ、そう言うのが多いけども…… なんか偏った知識だな」