【第八章】私と何も知らない総大将【七十六話】
オイオイオイ、成り行きでぬらりひょんを部屋に入れちゃったけどよかったのか?
妖怪連合の総大将だろ?
見ろ、あのカラカサが呆けているし、アライやスマシさんまで正座しているぞ。
部屋に招いてしまったぬらりひょんを見ながら私は少し後悔していた。
それに、ぬらりひょんが来た、ということで隣にいるアライやスマシさんまで私の部屋に来ているので部屋が狭いのなんのって。
「ほぅ、これだけの妖怪を従えて、おまえは何が望みだ?」
従えて?
従ってくれてるのか?
なら、トウフとアライの仲をもっと発展させたいんだけども?
今のところただの隣人の妖怪仲間ってところからまるで発展しないんだけどな。
私の頭の中じゃ…… 今はそんな妄想を考えている場合でもないか?
「え? 私? 私の目的は…… トウフとアライだけでいいんだけど? そっちで引き取ってくれるなら後の奴らは別に?」
まあ、究極的にはそれだけでいいんだよな。
他の連中は…… ま、まあ、そちらで引き取って貰えるというのであれば?
私としては構わないというか?
「カ、カズミさん!? なんてこと言うんですか!」
と、トウフが怒って私に抗議しだす。
とは言ってもな。
このアパートに妖怪集中しすぎだろ?
それに妖怪の総大将が出てきちゃったんだぞ?
こっちで何かできることあるのか?
あのいつもすまし顔のスマシさんが今は焦っていて、すまし顔できてないほどだぞ?
「いや、引き取らんし、そもそもワシも妖怪連合などという組織はどうかと思っているのでな」
んあ?
え? ちょっと待ってくれ。総大将からして妖怪連合を抜けたいって話なのか?
じゃあ、なんでそんな組織作ったんだよ。
「え? 総大将のあんたが?」
「そもそもワシは勝手に家に上がり込んで主人のように振る舞うだけの妖怪で、総大将の器ではないのだ」
いやいやいや、妖怪の総大将といえば、あんただろ?
ぬらりひょんさんよ。
「え? そうなの?」
と、私が言うと、
「それは初耳でありんす」
驚いた表情でカラカサが続く。
更にトウフが、
「そうなんですか?」
と、続き、最後にアライが、
「は? 俺様は、いや、オイラはぬらりひょん様が総大将というから妖怪連合に入ったんだぜ?」
と、驚いた顔を見せる。
「アライ!」
言い間違えるところか、言いなおしやがったな、コイツ。
私が釘を刺そうとすると、
「今はさすがにいいだろ!」
と、アライに怒鳴り返された。
「まあ、上司みたいなもんだしな。仕方がないか」
上司の前で、私ではなく、わたくし、を一人称にしろ、って言われたら私でも嫌だしな。
「そこよ。なぜかワシが総大将という位置づけに、いつの頃からかなってしまっていてな。ワシ、偉そうにしているだけの妖怪だぞ? そんな器じゃないのだ。ぬらりと避け、ひょんと浮き出る。そんな妖怪よ」
「あっ、あー、妖怪は噂の影響とかを受けるって話だったけか? 鬼の子供が活躍する有名な漫画があってそれの敵役で妖怪の総大将役がぬらりひょんなんだよ」
つまりこいつも妖怪連合の被害者ってことなのか?
その気もないのに総大将に担ぎ上げられたってことか?
まあ、思い当たるところがあるとしたら、それくらいだよな。
本当に噂というか、人間の認知って感じか? それの影響を受けるんだな、妖怪って。
「なるほどな。それで妖怪達の認識が変わって、ワシを総大将と認めるようになったのか…… 漫画か。ワシは読まんからな」
妙に納得したようにぬらりひょんは頷いて見せる。
「といっても、私が知っているのはそれ程度だぞ。もう用は済んだだろ。帰って妖怪連合を解散してくれよ」
なんだかんだでこうも妖怪に押しかけられると迷惑は迷惑なんだよな。
せめて私の死相が消えるまで押し寄せてこないでくれよ。
「言ったであろう? ワシは総大将の器ではないと。そんなことしてみろ、暴動でも起きたならば、大変なことになるぞ」
そういうぬらりひょんは凄みを見せて笑って見せる。
なんだ、コイツ脅そうとしているのか?
「どうなるって言うんだよ」
「ワシ、荒事は苦手でな」
あっ、ああ、自分で止められないって言いたいわけね。
本当に担ぎ上げられただけの爺さんなんだな。
けど、この話の流れは……
「なんだよ…… って、まさかおまえ、ここに住む気か?」
って、ことだよな?
これ以上ここに妖怪が住み着くのかよ。
ってか、その妖怪連合のトップがいなくなったらまずいんじゃないのか?
でも、ここはヌリカベの奴が守ってくれているのか。
なら、まあ、いいか? いいのか?
「ふむ、それも悪くはない。確か隣が空き部屋だったはずだ。ここならヌリカベに守られておるしな、安全だろう」
そう言ってぬらりひょんは笑って見せる。
今思いついたように言ってるけど、コイツ最初からそのつもりで来たんだろ?
もう妖怪連合に居たくはないが、総大将を辞めるといえば、どうなるかわからない。
だから、ヌリカベに守られているこのアパートに逃げ込んで来たってことだろ?
「それはそうだけど、隣はアライが勝手に住み着いているぞ」
他の部屋は…… たしかこのアパートはもう埋まってたはずだよな。
「す、すいません! すぐ開けますので!」
アライが慌ててそんなことを言い出しやがった。
お前はトウフの近くにいないとダメだろうか。
アライをいっそのこと私の部屋に招くか?
それもそれであり? さすがに狭いか?
「そうか、かまわないぞ。そのまま住んでいても」
私が頭の中で葛藤していると、ぬらりひょんはそんなことを言い出した。
「そうなんですか!?」
と、アライが面食らったように聞き返す。
「ワシも住みつくだけじゃからな。ワシ、そういう妖怪だしな」
こいつ、自分をアライに介護させようとしてないか?
まあ、見た目が爺さんなだけで、介護とかいらないかもだけど。
「あ、あー、まあ、隣の部屋ならいいか」
隣にアライとスマシさんとぬらりひょんか。
うーん?
まあ、部屋が狭そうだけど、深く考えないことにするか。
「それはそうと、あのヌリカベは足を払われて何故消えん?」
「あー、安全靴を履かせたんだよ。効果あったんだな」
ぬらりひょんの疑問に私が答えてやる。
しかし、効果あったんだな。
あれ? じゃあ、ヌリカベの奴は最強になったのでは?
「安全靴とな? そんなもので妖怪の弱点を克服するとは…… もはや妖怪の時代は終わったのかもしれぬな」
ぬらりひょんはそう言って遠い目をする。
まあ、それはそうかもな。
今の時代に妖怪とか言われてもな。
「ぬらりひょん様、そ、そんなことは……」
と、アライが目に涙を浮かべながら言ってるけどさ。
コーヒー被れになったお前が言うなよ。説得力がない。
「お前達のように人間と共にひっそりと隠れ住むことこそが、今の妖怪の在り方なのかもしれぬな」
それは…… そうなのかもな。
そもそも新しい妖怪とか生まれてるのか?
どっちかというと都市伝説的な感じか? あっても妖怪っていうより幽霊って感じだよな。
妖怪と幽霊の違いなんか私にはわからないけど。
それに、
「ん? んー、人んちに上がり込んで勝手に暮らすっていうなら、ぬらりひょんは元からなんじゃ?」
って話だよな?
私がそう言うと、ぬらりひょんは嬉しそうに、
「ハハッ」
と笑った。




