【第七章】私と人生という名の恐ろしい壁と目覚めてしまった性癖【六十六話】
何とか探し出した安全靴を床に置いておく。
そうするとちょっと目を離した隙に安全靴が見えなくなる。
カラカサの話では今履いているところらしい。
「どうだ? ちゃんと履けたのか? というか安全靴も見えなくなるんだな…… これなら確かに足の高さが変わるハイヒール、というか厚底靴とかもありだったんじゃないか?」
ハイヒールはともかく厚底靴は意外とありなんじゃないか?
安定性に欠けるか?
まあ、実物のヌリカベが見えないから何とも言えないけどもさ。
どんな奴なんだろうな、ヌリカベってさ。
触った感触は柔らかくて強く押すと抵抗が強かったんだよな。
コンクリの壁とかそういった感じではないんだよ。
どんな姿をした奴なんだ?
「ほんとですね、さっきの靴がみえなくなりましたね」
トウフも不思議そうに靴の消えた辺りを見ている。
そのかわいいおててを伸ばして、辺りを探っている。
「どうした、カラカサ?」
そんな中、カラカサの表情が妙に嫌そうなことに気づく。
「知り合いの劣情に溺れる顔を見るのは何ともしんどうござりんす」
本当に嫌そうにカラカサはそういった。
あっ、あぁ…… まあ、踏んで喜ぶような妖怪だからな。
私の中古の靴で喜んでもおかしくはないのか?
というか、ただの脚フェチ妖怪なんじゃないのか? それはもう……
なんというか、そんなこと今まで考えたことなかった。
「あ、ああ…… ま、まあ、それが報酬の第一段ということで、このあたりの警備を任せていいってことだよな?」
まっ、まあ、もう私が安全靴を履くことないだろうしいいか?
いいのか?
何とも言い難い嫌悪感は確かにあるな。
でも、使われない靴も一応靴として有効利用されるということで、いいとしとこうか。
「それでよいみたいでありんす。喜んで衛ると言ってやす」
「そ、そうか……」
喜んじゃったか。
あれだな、妖怪の侵入を防ぐごとに私の靴を要求されたりすんのか?
それはそれで嫌だな。
ここは…… やっぱりカラカサに擦り付けるか?
脚好きならカラカサでもいいだろ?
擦り付けられるとまだ気づいていない、カラカサは本当に嫌そうに、いや、ヌリカベを軽蔑するように、
「後は定期的に踏んで欲しいと、そう言ってやす」
そう私に向かい言ってきた。
伝えて来てくれたところで悪いが、ヌリカベはこれからお前の担当だぞ。
心苦しいが。
そもそも、今、私、靴そんなに持ってないしな。
「まあ、そっちはカラカサに任したよ」
私がそう言うと、
「何を言っているんでありんすか? は? 主さんも何を言っているんでありんすか?」
私に向かい信じられないといった顔を見せた後、ヌリカベが何か言ったのか、ヌリカベがいるはずの方向、私から見たら何もいない方向に向き、さらに信じられないといった顔を見せる。
「ん? なんて言ってるんだ?」
カラカサの驚愕している表情に何を言われたのか気になる。
「あちきでもいいと……」
絶望したような表情でカラカサがそう言った。
うむ、ヌリカベをなんて言いくるめようとそう思ってたけど、特にその必要もなかったな。
まあ、脚だけなら、カラカサはモデル並みの脚線美だよ。
そのほうがヌリカベもいいだろう?
「じゃあ、頼んだぞ、カラカサ! おまえも仕事がなくて今まで心苦しかっただろう? よかったな」
よし、変態をカラカサに押し付けて、ガードマンもゲットだ!
これでこれ以上妖怪がこのアパートにやってくることもないだろう。
「とても複雑な気持ちでありんす」
呆然とした顔でカラカサは呆けている。
いや、私も悪いと思うよ。
でも、あれだよ、あれ。やっぱり気持ち悪い。
うん……
自分の使っていた物に興奮されるのって、こんなにも気持ち悪いことなんだな。
初めて知ったよ。
「よかったですね、カラカサさん! これで負い目なく買い物もできますよ!」
トウフが他意なく善意だけで、カラカサに追い打ちをかける。
「それはうれしゅうござりんすが」
ただカラカサも自分だけ何もしていなかったことを心苦しく思っていたがそんなことを言う。
まあ、メイドの仕事をカラカサがしていてもあれだったしな。
なにせ、アライにも役立たずとは言われないが、取った注文を伝えても、もう聞こえているよ、と言われるだけだったしな。
ワンルームの狭い室内だしな、仕方がない。
出来た料理を届けてくれるスマシさんのほうがまだ役に立っているしな。
スマシさんが動くと顔が大きくて邪魔なんだけどな。
よく皿とかカップとか割ってるしな、未だに。
「欲しいって言ってたブーツ買っちゃいましょうよ!」
と、トウフがカラカサを元気づけている。
でも、カラカサがこれから請け負う仕事に、悲しいかな報酬は出ないんだよ。
ついでにアライの店でやっているメイドのバイトにも報酬は出ていない。
それを考えると少し可哀そうだよな。
「少し考えさせておくんなんし」
報酬が出ないことはわかっているのか、カラカサは少し難しそうな顔を浮かべている。
カラカサに変態脚フェチヌリカベを押し付けてしまったので、私も若干心苦しい。
「遠慮するなよ、トウフの稼ぎ、そこから生活費ともろもろを抜いた金でよければ使っていいからな」
そう声をかけてやる。
「いくら残るんでありんすか?」
ブーツは欲しいのか、カラカサは顔を明るくさせて聞いてくる。
いくら残ってるんだ?
足は出てないと思うけども……
まあ、私も当分の間は貯金があるしな。ブラックで使いたくても時間がなくて使えなかったお金がな。
金の心配はしばらくしなくていいよな。
「さあ? 計算したことない。とりあえず、スマシさんとアライさんにも知らせてくるか?」
あの二人にもヌリカベのことを紹介しておかないとな。
ヌリカベの奴が二人を通せんぼしちゃうかもだしな。
「そうですね! また歓迎会しましょう! あっ、今日は豆腐ハンバーグ作りますよ!」
トウフは嬉しそうにそう言った。
トウフ的に豆腐ハンバーグはありなんか?
でも、トウフはハンバーグ好きだしな。深いことは気にしないでおこっと。
「んじゃ、アライんちに行くかー」
アライんとこの新メニューもできたというしな。
「はい!」
豆腐ハンバーグの材料を用意しつつ、元気にトウフが返事をする。




