【第七章】私と人生という名の恐ろしい壁と目覚めてしまった性癖【六十四話】
少しだけ上げた足を、見えない相手、ヌリカベの足がある場所に向かい力の限りふんじばった。
ついでにすりつぶすように足をねじりまわす。
力の限りねじりまわし踏みつけてやった。
今はいているのはただのサンダルだが、ハイヒールでも履いてきて踵で踏みつぶしてやればよかったと、そう思いながら踏みつぶす。
いい加減、迷惑なんだよ、なんで妖怪がこうも私の前に現れるんだ。
そんな理不尽な恨みを込めて踏んでやった。
「カズミさん、そんなに力を込めなくても! しかも、そんなすりつぶすように!」
それを見ていたトウフが心配そうに言ってくる。
安心しろ、トウフ。
私の足はこう見えて頑丈だ。
高校時代、空手をやっていたからな。
いや、トウフが心配しているのはヌリカベのほうだろって?
そんなの分かってるよ。
分かってても私は自分がトウフに心配されたいんだよ。
「あ? だって、道をふさがれたんだぞ? なら報いを受けてもらわなくちゃだめだろうが!」
そうだ。
ちゃんと報いを受けてもらわないとならない。
自堕落な生活を送り、正常な、決して重くはない、体重を取り戻しつつあるだけで、決して太っていない私の体重をかけた踏みつぶしを喰らいやがれ。
そうこうしていると前方の圧というか、壁が消えたのが分かった。
それでも私はまだ感触のある見えない足を踏み続ける。
「ええっ!? あっ、ほら、壁が消えましたよ、もういいでしょう!?」
そう言ってトウフが私の足を持ち上げようとしてくる。
あ、トウフめ、私の足に触りがって……
まあ、いいけど。
トウフが触りたいのであれば、私は一向にかまわないけどな。
「ダメだ。まだ私の気が収まらん! 壁が消えたなら、ちょうどいい!! 踏みつぶす勢いで踏んでやんよ!」
トウフに足を触られ、というか、トウフに足に抱き着かれて、少し照れた私はそれをごまかすためにさらに強く力を込めて見えない足を踏んでやる。
それもグリグリと踏みつぶすようにねじりながら踏んでやる。
「そんな! ヌリカベさんはただ道を塞いでいただけじゃないですか! そこまでしなくても!」
ヌリカベさんとやらを庇いトウフは私に必死に訴えかけてくる。
相変わらずトウフは妖怪愛が強いな。
トウフも妖怪なんだから、それはそうかもしれないが。
「十分だろうが! 私とトウフの散歩を邪魔しやがってからに!」
けれどもその愛ゆえに私はヌリカベとやらの足を力強く踏むのだ!
「カズミさん、そこに怒っているんですか?」
けど、とりあえずで私が叫んだ言葉にトウフが反応する。
つい本音が……
「あっ、いや、そういうわけじゃ…… あ、足の感触も消えたぞ」
トウフに言われ、気が緩んだ瞬間に踏んでいた感触もなくなる。
私の足も無事大地を踏みしめる。
「とりあえず今のうちに帰りましょう、そして、カラカサさんに相談しましょう!」
「まあ、そうだよな……」
とりあえずヌリカベがどんな奴かカラカサに聞いてからだな。
けれども、カラカサが言った言葉に私は絶句した。
「はっ? 今なんて言った?」
「だから、ヌリカベさんはまだそこにいましんす。そして、主さんに踏まれて、うれしゅうて興奮しちまった、そう言ってやす」
少し飽きれ果てたようにカラカサはげんなりとしながら、その言葉自体言いたくない、と言った感じそう言った。
「変態かよ」
その内容を聞いての私の感想はそれだけだった。
それ以外に何を感じろってんだ。
私に足を踏まれてうれしかった?
やっぱり変態じゃないかよ。
「あ、顔を赤らめてやす」
「本当ですね、空中が少し赤くほてってます」
カラカサがそう言うと、カラカサの視線を追い、トウフが見つめる場所に、何もないのに、なぜか赤く染まっていっている場所があった。
体は透明なのに、顔が赤くなる反応だけ見えんのかよ。
なんだ、その、なにそれ……?
「火照るとその部分だけ見えるとか、キッモ……」
特に意図せず思ったことが口から出てしまう。
「鼻息を荒うして興奮してやすね」
それに対してカラカサがため息交じりにそんなことを言い出した。
やっぱり本物じゃん。
ヌリカベ本物のヤバい奴じゃん。
「えぇ…… まっ、まあ、敵意がないなら、いいのか? 私、襲われたりしないよな?」
一応好意を持たれているということか?
でも姿が見えない壁じゃな……
壁尻……
トウフの壁尻?
いや、それは…… よすぎないか?
しかも壁が透明で、全部よく見えちゃうじゃないか。
それはいいのか? 悪いのか……
そうか、そうか…… ふむ、ふむ……
「逆に襲って欲しい、と言ってやすね」
私が少しだけ、ほんの少しだけマニアックな妄想に浸っていると、カラカサがまた余計なことを言ってくる。
いや、カラカサは翻訳というか、ヌリカベの言葉を伝えてくれているだけで悪くはないんだけど……
ドM壁なのか……
壁だから…… なのか?
「うわぁ…… マジもんじゃん? 私じゃなくてカラカサの足じゃダメなのか?」
とりあえず足で踏まれるだけなら、私じゃなくてカラカサのでいいじゃんか。
足だけなら私よりきれいだしな、カラカサの脚は。
「え? 主さんは何を言っているんでありんすか?」
カラカサは私の代わりに自分を差し出そうとしている私を見て、信じられないものを見る目でガン見してくる。
そうか、私はこの時のために、カラカサを拾って来たんだな。そう確信したよ。




