【第七章】私と人生という名の恐ろしい壁と目覚めてしまった性癖【六十三話】
「足か。けど足も見えないよな」
足を棒で払えばいいというが、その肝心の足が見えない。
まあ、だから棒で探り当てろって話なのかもしれないが。
棒なら適当に振り回せばいいだけだからな。
「だから、棒で足らへんを払うんですよ」
トウフにもそう言われる。
トウフじゃなかったら怒っていたかもしれない。
いや、間違いなく怒ってたな。
自分でも理不尽だと思うよ。口に出して言ったわけじゃないし、心の中でそう思っていただけなんだから。
けどさ、思っていたことを指摘されるほうが、イラっと来るもんじゃん?
そういうもんだよね。
まあ、今はまったく関係ないんだけど。
「なるほど。理にかなっているというわけか」
まあ、確かにそれなら足で踏むより棒があったほうが便利だよな。
けど、実際問題として棒なんてもんはない。
ないけれどもどうにかしないといけないわけで。
「でもその辺を適当に踏んずけていけば…… あっ、割と下のほうまで見えない壁があるな…… これは確かに棒でもないと大変だな」
見えない壁は意外と下のほうまで、足で探るのも難しそうだ。
棒で払うにしても、それこそ地べたに這いつくばって払いでもしなければならない感じだぞ、これ。
「ほら、やっぱり棒がいるんですよ! カズミさん! まずは棒を探してきましょう!」
トウフはやけに棒にこだわるな。
確かに子供って、特に男子は木の棒好きだよな。
校庭とかに落ちてると絶対拾っているもんな。
男だからか?
男はやっぱり棒が好きなんだよな。うんうん、私は詳しいんだ。だから、わかるぞ。
まあ、ナニがとは言わないけれども。
「もう少し進めれば、アパートの用具入れから箒でも取れるんだけどな……」
アパートの敷地手前で見えない壁に阻まれてしまって用具入れまでもいけない。
あそこには箒とか色々あるはずなんだけどな。
「棒! 棒ですよ! カズミさん!」
そう言ってトウフは、道に棒が落ちてないか辺りをきょろきょろするが、そんな落ちてないよ。
それにな、トウフよ。トウフさんよ。
「棒、棒って、トウフが言うと、なんていうか、少しいけない気持ちになってくるから、やめてくれよ」
まるでトウフが欲情しているみたいじゃないか。
ちょっと無理やりすぎるかもしれないが、私の腐った脳味噌は簡単に変換できちゃうんだ。
だからやめてくれよ。涎が垂れてきちゃうじゃないか。
「え? な、何言ってるんですか?」
真顔でトウフにそう言われて私も真顔に戻る。
うん、自分がおかしいことは自覚している。
だが、直そうとも思わないんだ、悪いな、トウフ。
オマエは私の妄想の糧となるんだよ。
「いや、ほんと何言ってるんだろうな、私は。けどな、トウフ、さっきも言ったけど、今どき棒なんてそうそう落ちてないんだよ」
まあ、今は妄想に花を咲かせている場合ではないのも事実だ。
とりあえず家に帰らないとな。
少しは私も真面目に考えよう。
その結果、棒はあきらめる。だってないもの。
「じゃあ、どうするんですか!?」
「んー、かなり低いところまで見えない壁があるしな…… これじゃ足で払うこともできないよな」
トウフにどうすると言われて私も困る。
正直、手の打ちようがない。
意外と柔らかくはあるから、蹴り倒せないか?
「カズミさん、いきなり蹴ったりしないでくださいよ!」
トウフ。おまえはエスパーか。
私の心が読めるんか?
若干動揺しながら、
「いっ、いや、見えない奴相手に蹴りなんかできないよ。逆に怪我しそうじゃん」
と答える。
なんか柔らかいし怪我はしなさそうだけれども。
なんかこの状況で蹴り飛ばすこともできなくなったな。
「そうなんですか?」
不思議そうな顔をしてトウフが聞き返してくる。
トウフ、トウフよ、おまえは私を何だと思っているんだ。
「そうだよ。むやみやたらに蹴りなんかするもんじゃないんだよ」
私だってむやみやたらと蹴ったりはしないよ。
「じゃあ、なんでスイカ侍さんを蹴ったんですか?」
えっとそれは……
まあ、向こうに敵対の意思があったからじゃないか?
あとはちょうどよさそうな位置に頭があったからつい……?
「ちょっ、ちょうどいい場所に蹴りやすい頭があったから…… って、今はそんなことどうでもいいだろ?」
なんでそっちを口走ってしまう、私?
敵対する意思がありそうだったからと言えばいいじゃないか。
「そ、そうですね…… でも棒がなければ家に帰れませんよ!」
ほら、トウフにまた引かれている!
でも本当にトウフの奴やたらと棒にこだわるな。
そんなに好きなのか? 棒が?
「やっぱり足で踏んでいくしかないだろう? こうやって…… ん? こいつの足はこれか?」
私がなんとなく見えない壁の下の隙間に足を入れると、そこには何も見えないが何かに当たる感覚がある。
あれ? 簡単に見つけちゃったか?
「見つけたんですか? さすがカズミさんです!!」
あ、久しぶりのトウフの尊敬の眼差しだ!
「じゃあ、踏んでやるか……」
私は少しだけ足を上げて……




