【第六章】私と油の相容れなくもない不思議な関係【六十話】
「ようこそ、ようこそ」
今日もその声で私は起きる。
超重低音ボイスで聞き心地は悪くない。むしろイケボではある。
けど、けどもだよ。その声の主は地蔵だし、その言葉しか喋れない。
でも、でもだよ? 目さえつぶっていれば、と 顔を上げた瞬間、おでこに激痛が走る。
イケボの主であるスマシさんが私を覗き込んでいたからだ。
寝起きだからなのか、痛みだからなのか、目から涙があふれてくる。
そして、何よりイテェ……
やっぱりスマシさんは地蔵か何かなのか?
石の塊じゃないか。
「起こしてくっるのはいいんだけよぉ、そんな間近で覗き込まないでくれるか?」
私がスマシさんに文句を言うと、スマシさんはそのすまし顔で、
「ようこそ」
と、返事を言う。
まあ、スマシさんはそれしか喋れないのだから、仕方がないが。
なに乙女…… という年齢でももうないが、人の寝起き顔を覗き込んでやがる。
「いいから顔をどけてくれよ、いつまでも覗き込まれてたら起きられないだろ?」
私が頭をぶつけても覗き込んでくるのをやめないスマシさんに文句お言うと、
「ようこそ」
そう言って、やっとそのでかい顔をどける。
その後もスマシさんは何かと邪魔だ。
いや、本当に無理だってワンルームに顔の大きな地蔵がいるんだぞ?
邪魔がないわけじゃないだろ。
しかも一つしかない部屋の三分の一をペットのスネカジリが占領しているんだ。
手狭じゃないほうがおかしい。
さらにスマシさんはでかいんだよ、顔が。
知り合いが多いとか、態度ができとかじゃなくて、物理的に大きいんだよ。
地蔵の胴の二から三倍は大きいんだよ。
どうあがいても邪魔だよ。
空間を圧迫するんだよ。
さすがに日常生活に支障をきたすって。
「なあ、スマシさん、スマシさんには悪いんだか、さすがにこの部屋に四人、スネカジリを入れれば五人か? には、部屋が狭すぎる」
私の出した結論はそれだ。
それに、やはり朝はトウフに揺すられて起きたい。
朝一番に目に入れるのはトウフの姿でありたい。
うむ。
声は悪くないんだけどな。スマシさんも。
それ以外がチョットな。
「カズミさん、スマシさんを見捨てようというんですか!」
私の提案を聞いて、トウフが抗議をしだす。
それは予想できていたから、今日まで私も我慢してたんだよ。
だけどな、もう我慢の限界だ。
元々我慢強いほうでもないしな。
「いや、トウフ。おまえもスマシさんの顔に頭ぶつけて痛がってたじゃないか。それにカラカサを見ろ、一度傘の受骨を折られかけてから、ずっと傘立てに引きこもっているじゃないか」
そうだぞ。
このスマシさんは全身凶器で石なんだ。もしくは石のように硬い何かなんだ。
そして何よりワンルームの部屋で自由に動き回るには、スマシさんの顔はでかすぎるんだよ!
「それは…… そうですけど……」
トウフもなんだかんだで被害受けているし、家のお皿もスマシさんの顔にぶつけて割られている。
トウフが大事にする豆腐皿だって被害をいつ受けるかわからないんだ。
カラカサなんて通訳していて、スマシさんが頷いた拍子に受骨を折られかけいる。
それ以来スマシさんを恐れて、傘立てから出て来てないぞ。
「それになにも追い出そうというんじゃない。そう、これは引っ越しだ」
そう、スマシさんだけのな。
「引っ越しですか?」
「そうだ、スマシさんだけ隣のアライの家に引っ越してもらおう」
こういう時はあれだ、便利にアライさんを使おう。
あいつの部屋にスマシさんを引き取ってもらおう。
日常生活でいなくなれば、そう被害を受けるもんでもないしな。
「ああ、それはいいですね、働きながら住居も確保できますよ! それにアライさんなら安心です!」
私の提案にトウフも目を輝かせる。
そうだぞ、トウフ、お前はアライを信頼しろ。
もう最愛の人になるくらい信頼していいんだぞ。
「どうだ、スマシさん」
「ようこそ」
スマシさんはすまし顔でそう頷いた。
まあ、スマシさんはすまし顔しかできないんだけどな。
「肯定だな。よし、アライに話をつけてくる」
善は急げということでアライに押し付けてこよう。
「まあ、いいけどよ。あんまり夜には、俺様もこの部屋にいないしな」
アライと一悶着でもあるかとおもったけども、以外にもアライはすぐに了承してくれた。
それ以前い夜はお前ここにいないの?
ま、まあ、カフェというか仕事場と考えればそれもそうか?
「そうなのか?」
「ああ、資金切れでな。今は小豆相場で稼いでいることが多くてな」
小豆相場で稼ぐ?
なら、あの部屋でできそうだけどな。
今の時代パソコンからだろ?
いや、小豆相場なんてしらないからな、私は。
どう稼いでんだ?
それに夜? こいつの言いぶりからすると夜に小豆相場で稼いでるって感じだよな?
実は隠語か何かなのか?
「ん? んー、お前の言う小豆相場と私の知る小豆相場ではなにか齟齬がありそうなんだが……」
「まあ、あまり気にするな。俺様は妖怪だからな」
そう言ってアライは視線を私からそらした。
何か人に言えないことをやっているな? 小豆相場って、やっぱりなんかの隠語だろ!?
「ああ、うん…… お前の言う小豆相場って、実は何かの隠語だったりするのか?」
「詮索は不要だ」
急にアライの目が細くなって私を睨んだ。
裏で何やってんだ、こいつ?
いや、待て。
裏で何やっているかわからないような危険な男アライ。
それに危ういと分かりつつも惹かれるていくトウフ。
友情、そして、それ以上の感情をトウフはアライに感じはじめ、アライを表の世界に戻すために…… 以下省略。
いや、悪くない! これは悪くない!! いいぞ、どんどんディテールが埋まっていくぞ!!
あ、いあ、なんか、すごい興奮してきたぞ。
「わ、わかったよ。スマシさんのことをよろしく頼むぜ?」
スマシさんのことより、うちのトウフを頼むぞ、アライさん。
やっぱりお前がうちのトウフの運命の相手だ!
「おうよ。スマシさんこそ、しっかりと働いてくれよ」
アライは私の後ろにそっと立つスマシさんに声をかけると、
「ようこそ」
と、すまし顔で返事が返ってきた。
いついかなる時も、スマシさんはすまし顔だ。




