【第六章】私と油の相容れなくもない不思議な関係【五十九話】
目覚まし代わりの、
「ようこそ」
という声で目を覚ます。
目を追開けると大きな地蔵のような顔が私を覗き込んでいた。
「起こしてくれるのはいいが…… 覗き込むのはやめてくれないか? 心臓に悪い……」
朝一番に見ていい顔じゃない。
怖い、怖すぎる。
既に身支度を終えて朝食を作っているトウフが台所から、
「カズミさんが中々起きないからですよ」
と、声をかける。
気持ち楽しそうにトウフは朝食の準備をしている。
恐らく久しぶりに朝食を作るからかもしれない。
最近、朝食は隣のアライのカフェモドキで食べてたからな。
「そ、そうか? いや、うん…… あれ? トウフ、今日は朝食作ってるのか?」
「はい! アライさんは今日はいないって言ってたじゃないですか。カフェのマスターとコーヒー豆の仕入れに行くと」
そういやそんなこと言ってたな。
あのマスターもカフェ的な店を趣味でやっているだけだって言ってたっけ?
まあ、アライも完全に趣味の領域だからな、気があうのかもしれない。
「ああ、そんなこと言ってたな。あの二人仲良くなったんだな」
趣味が合う同士だもんな。
そりゃ仲良くなりはするか。
アライの奴には早くトウフとも仲良くなって欲しいんだがな。
まあ、急かすことでもないけれども。
「アライさんはマスターのことを師匠って呼んでましたよ」
師匠…… 師匠か。
まあ、そうだよな。アライはあの店のコーヒーの味に惚れて自分でもカフェモドキをやっているんだから。
師匠は師匠なんだよな。
まあ、確かに弟子らしく同じバリスタマシーンだもんな。
近くのスーパーで売ってた……
一時期私もあのカフェ気に入ってたんだけどな。
い、いや、深く考えるな。豆はいいものを使っていたんだしな、うん。
「あー、いや、まあ、いいんだが、スマシさんよ。いつまで人の顔を覗き込んでいるんだ? これじゃ起きるに起きれないんだが?」
岩石のような大きな顔面に覗き込まれたままで、起きるに起きれなかった私はスマシさんにそれを伝える。
「ようこそ」
まあ、返ってくる言葉はそうだよな、それしか言えないしな、スマシさんは。
少し迷惑そうに、いや、実際迷惑なんだが? そうしている私に向かいトウフが、
「カズミさんもスマシさんを目覚まし代わりに使うのやめてくださいよ」
と、そう言ってくる。
でもな、確かに目覚ましの提案をしたのは私だが、スマシさんのほうが、
「だって、こいつが役に立ちたいとそう言ったからさ…… あっ、洗面所に戻るな、今から使うから……」
役に立ちたいっていうからさ。
スマシさんが定位置の洗面所に戻るのを止める。
朝飯前に顔を洗って歯も磨かないとな。
さすがにワンルームの洗面所にスマシさんがいると狭すぎるからな。
「ようこそ」
スマシさんはそう言ってその場で立ち止まる。
胴より顔のほうがあるから、その場に立たれるだけで邪魔過ぎる。
「ちょっ、図体でかいな。縮んでこれかよ」
つい愚痴ってしまってもしょうがないよな? な?
「ようこそ」
ほら、スマシさんも認めているじゃないか。
知らんけど。
そんな私をトウフがジト目で見てくるので、私は慌てて言い訳を口にする。
「責めているわけじゃないぞ、部屋自体が狭いんだよ。そもそも一人で暮らす部屋であって複数人で過ごす部屋じゃないんだよ」
そう、そうだよ。
そもそも一人用の部屋なんだよ。
体の小さいトウフや傘立てにいるカラカサならまだしも、顔が異様に大きくて岩のようなスマシさんはさすがに無理があるんだよ。
「ようこそ、ようこそ」
とスマシさんは二回その言葉を口にする。
何か否定的なことを言っているようだが、私にはわからん、さっぱりわからん。
というか表情すらない本当に地蔵みたいな奴だぞ?
わかるわけないってさ。
「カズミさん、あまりスマシさんをいじめないでくださいよ」
トウフが少しムッとした顔で私を責めてくる。
違うんだ、トウフ。いじめているだけじゃないんだよ。
「いじめてんじゃないよ。事実を言っているだけだよ」
口に出してもそういうが、トウフはすでに朝ご飯を作るのに夢中だ。
その後、朝食を終えた後、かたずけようとした皿をスマシさんにぶつけて割ったり、足の小指をスマシさんにぶつけ足りした。
マジでコイツ地蔵じゃん? 石じゃん。
いや、ワンルームで頭の大きい地蔵と生活するのは無理だって!




