【第六章】私と油の相容れなくもない不思議な関係【五十七話】
「トウフの作った揚げ出し豆腐…… 美味でした」
旨かった。
トウフ、おまえ、料理の腕を上げたな。
こんなおいしい料理を作れるようになるとは。
「豆腐の菜種油コンフィも中々でありんしたよ」
トウフにあーんをしてもらいながら、カラカサそう言った。
「なんというか、トウフというか辛味が付いたチーズみたいな感じだったな」
まずくはないが私としては、そのままめんつゆでもかけて食べたほうが旨かったな。
トウフの豆腐はそのまま食いたい。
そう思いトウフを見ると、
「うーん……」
と、トウフも少し納得していない様子だ。
「トウフ的にはなしだったか?」
と、私が聞くと、トウフ自身もよくわかっていないような表情を浮かべる。
「そういうわけでもないんですけど、でも、何でしょうか、豆腐である必要性が感じられなくて……」
まあ、確かに。
チーズでよさそうだしな。
なんならチーズを食べたほうが旨いよな。
いや、まずくはないんだがな。
トウフに同意するようにアライも深く頷く。
「まあな、オイ…… いや、俺様も小豆をこんな風に料理されたら少し複雑な気分になるぞ」
そうは言われてもだな。
小豆料理って餡子以外になんかあるのか?
お赤飯か? あとは固いあのアイスか?
そもそもあんまり思いつかないな。
「そういうもんなのか?」
まあ、その食材の妖怪だしな。
思うところもあるのかもしれないな。
本体は笊みたいだけどな。
「言っちまえば我々は固定観念の塊でありんすゆえ」
私の疑問に答えるようにカラカサがその言葉を口にする。
「なるほどな。湯豆腐や揚げ出し豆腐は良くて、菜種油コンフィはダメなのか。和風か洋風かの違いか?」
固定観念ね。それもトウフやアライの独自の固定観念だろうしな。
他人が理解しようとしても無理な話だよな。
「でも、その辺の線引きも、ボクの中では実ははっきりしなんです……」
そう言ってトウフは少し寂しそうにはにかんだ。
まあ、妖怪だなんてあいまいな存在だしな。
でも、
「豆腐ハンバーグとかもダメなのか?」
と、私が問うと、トウフは顔を輝かせた。
「な、なんですかそれは!? 豆腐がハンバーグになるんですか?」
あっ…… あー、これ、それほど深刻な問題じゃないな。
ただの好みの問題だわ。
「想像以上に喰いついたな」
「心の持ちようです!」
トウフは早速豆腐ハンバーグなるものをスマホで調べだしている。
こりゃ明日の食卓には並ぶな。
「といっても、流石に足りんな。なんか主食となるようなもんないのかよ?」
揚げ豆腐とコンフィだけじゃさすがに足りない。
というか、ただの酒のあてでしかないじゃやないか。
「うーん、この菜種油の瓶からまだまだ油がでるから、それで揚げ物でも作るか?」
そう言ってアライが鍋に油を注ぎ始める。
すでに油瓶の容量を超えて菜種油が出てきているが止まる様子はない、これも妖怪由来の品だからなんだよな。
けど、油か。
残念だけど、主食にはならないよな。
揚げ物はいいけど、後始末が大変だし、部屋が油臭くなるしな。
これからは揚げ物するときはこっちの部屋を使わせてもらうか?
そういえば冷凍庫に冷凍の揚げ物がいくつかあったな。
でもあれは電子レンジ用か? 油で揚げなしてもいいやつか?
あとで持ってくるか?
「おっ、良いね、トウフも手伝ってやれよ」
「はい、わかりました!」
トウフはそう言ってアライの横に立ち、料理の手伝いを始める。
いや、いい、いいぞ。
この二人が並んで台所に立つ姿なんか、もう夫婦そのものじゃないか!!
いや、ありがとうございます! ありがとうございます!!
今は揚げ物よりも二人の仲睦まじい様子を見ていたい!
まあ、それはそれでよいんだが、今日は一応スマシさんの歓迎会なんだ。
歓迎してやらんとな。
「で、えーと、なんだっけ、スマシはスマシさんで良いんだよな?」
「ようこそ」
一回だけだから、肯定ってことでいいんだよな。
なんか妙な威厳というか迫力があるんだよな、スマシさん。
つい名前にさんをつけてしまうくらいだよ。
「うんうん、で、妖怪連合をどうして抜けたいんだ? カラカサ通訳!」
でも詳しく聞くにはカラカサに通訳を頼まないとな。
「人使いが荒うござりんすね」
カラカサはやれやれといった感じでそう言って、スマシさんのほうを向く。
「ようこそ、ようこそ」
それに対して今度は二度、ようこそ、という言葉をカラカサに向ける。
私との話では二回は否定的な意味合いだったような?
「ふむふむ、なるほどでありんす」
うんうん、と相槌を打ったカラカサは一人で理解し切った顔を見せる。
なんで今ので通じるものがあるんだよ。
「で、どういうことだよ」
「この方は最初から妖怪連合に入るつもりはのうござりんしたが、ようこそようこそ、しか言えなくて、そのまま妖怪連合に取り込まれてしまったそうでありんす」
カラカサの答えに私も絶句する。
いや、たしかにそうだけどさ。
そうなんだけれどもさ。
「はっ? ああ、でもそうか。にしてもだよ、さっきの言葉の中にそんなに意味が込められてたのか?」
「言葉ではのうて察する心でありんす」
カラカサはエスパーか何かかよ。
まあ、そうであっても不思議じゃない容姿はしてるけどさ。
「そーかい。んじゃ、しばらくうちにいて良いからよ。なんか働いてくれよ、適当にな」
「ようこそ」
確かにすまし顔だが、スマシさんは嬉しそうに返事を返した。




