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【徒然妖怪譚】私とトウフの奇妙な共同生活  作者: 只野誠
【第六章】私と油の相容れなくもない不思議な関係

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【第六章】私と油の相容れなくもない不思議な関係【五十六話】

「トウフ、おまえは揚げ出し豆腐作るのか?」

 アライが同じキッチンに立つトウフの料理の材料を見て声を掛けた。

「はい! そうです! アライさんは何作るんですか?」

 トウフもそれに元気に答える。


 いい、いいぞ。

 二人とも。

 もっと仲良くなれ、親友を超えて愛し合うんだ!

 それこそが私の望み!!

 ああ、なんて素晴らしい光景が目の前に広がっているんだ。


「さっき調べた。この豆腐の菜種油コンフィってのを作ろうと思う」

 そう言ってアライはトウフに貸した私のスマホを見せる。

 それをトウフも覗き込む。


 二人で一つのスマホを覗き込むとか、これはもう…… じゃないか?

 そうなんじゃないか!?

 ああ、いい、素晴らしい。

 天国はここにあったんだ!


「おー、どんな料理ですか?」

「油で作る煮物? らしいぞ。足りない具材は、森田! お前が買ってきてくれ!」

 急に私の苗字を呼ばれて正気に戻る。

 クッソ、良いところだったのに。

 私のことはどうでもいいんだよ。二人の世界に入っててくれ。


 それに、

「え? なんで? 私が?」

 買って来なくてはならない。

 こんな天国のような場所から動く気はしないぞ。

 私はトウフとアライを、生ぬるく見守らないとならないからな。


「おまえしかいないだろ?」

 アライそう言われ、確かに、と私自身がそう思う。

「まあ、そうか、せっかくの観察チャンスなのな…… で、何買ってくればいいんだよ!」

 トウフ一人で買物に行かせるのは危険だ。トウフは可愛すぎるからな。

 それにトウフとアライはこの場でイチャイチャしてもらわなければならない。

 残るのは、カラカサとスマシさんだ。

 この二人が買い物に行けば大事件になってしまう。

 けばいピンク色で艶めかしい一本足の傘と頭の大きな地蔵だぞ。

 そりゃ、事件になるよ。


 私が行くしかないのか?


「ニンニクと赤トウガラシ、後ハーブって書かれているけど、ハーブってなんだよ」

 アライが読み上げた物を聞いて、私は安心する。

 それくらいの物なら私の部屋にある。

 ニンニクはチューブのだけどな。


「とりあえずスマホを返せ」

 自分のスマホをアライから奪い返して、アライが見ていたレシピが書かれているページを見る。

 豆腐のコンフィの作り方が書かれている。

 煮物とも違うが、またお洒落なものをアライの奴は選んだな。


「でも便利だな。これ使えば新メニューもすぐできるんじゃないか」

 スマホで確認しているアライは私にそう言ってくる。

 コイツ自身も新メニューを作りたかっているのか?

 まあ、その為にならスマホくらい貸してやってもいいけど。


「なるほど。とりあえずハーブならなんでもいいらしいな。でも、これ半日寝かせるとか書かれているぞ」

 でも別のページには電子レンジ数分チンしてできあがりっていうのもあるな。

 豆腐がチーズみたいに?

 うーん、それと塩がいるのか。まあ、その辺を持ってくればいいか。

「ダメなのか?」

 と、聞いてくるアライだ。

 これから歓迎会を開こうというのに、それはダメだろう。

 まあ、急に押し掛けた私が言える立場ではないが。

 でも、電子レンジで数分温めるだけの方なら、大丈夫そうだな。


「わからん。まあ、この材料ならうちにあるし、それでいいよな。ハーブはローリエでいいだろ。それぽいのでうちにはあるのはローリエくらいだし」

 ささっと取ってきて、もう一度トウフとアライのイチャイチャを見せてもらおうではないか。

 

「ローリエ? なんだ、それは」

「月桂樹の葉だよ」

 アライの問いに私が答えてやる。

 が、

「月桂樹か…… ああ、うん」

 月桂樹の方もアライの奴からすれば、思い当たらないようだ。


「月桂樹も知らないのか」

「俺様は小豆以外に興味ねぇよ!」

 まあ、小豆洗いだからな。

 そうだろうよ。


「まあ、それはそうか、今、取ってくるからな」

 しかし、トウフとアライ、二人並んでキッチンに立つ姿は良い。

 万病に効く。

 ずっと見ていたいな。

 はー、しさしぶりに良い物見たぞ。

 生意気なクソガキのアライと純真で素直なトウフ。

 思った以上に相性がいい。

 二人ともなんだかんだで、美形だしな。

 ああ、妄想が膨らんでいく!!


 私はニコニコしながら、足らないものを取ってくる。




「ほら持って来たぞ」

 持って来た物を洗いに手渡し、奥の部屋から、トウフとアライの様子を観察する。

 二人とも妖怪同士なだけあって仲が良い。

 これなら、私の妄想が現実になる日も遠くはないだろう。

 クハハッ!!


「なんだ、このパリパリに乾いた葉っぱは!」

 そう言ってアライは私が渡したローリエを捨てようとするので、

「それがローリエだよ。ハーブってやつだよ。肉や魚料理に入れるのが基本だけど、煮込み料理になら使っても問題ないはずだぞ」

 と声を掛けてやる。

 まあ、見た目はただの葉っぱだよな。


「そうなんですか! カズミさん料理作らないのに詳しいですね!」

 と、急にトウフに刺されたが私は気にしない。

 い、いや、トウフが料理上手なだけで、私も作れない訳じゃないからな?

 こう見えて一人暮らしも長いんだし。


「ああ、まあ、商品で扱ったことあるからな」

 超絶ブラック会社だった通販会社でな。

「大変な仕事だって言ってましたよね? 何やってたんですか?」

 トウフにそう聞かれ、走馬灯のように一瞬で社畜時代の思い出が、私の頭の中を駆け巡る。

 今思い出してもおかしいよな。

 午前中は、受注作業と電話の応対、それとページ作成、午後からは在庫確認とそれの反映、そして、配達業者が来るまでに今日の出荷分の準備。

 それが終わったら、再び通販ページの作業を終電まで。

 やっぱり色々と終わってるよな。

 本当にやってもやっても作業は終わらないし、昼ご飯すら食べる時間がないってなんだよ。


 ただトウフに聞かれて愚痴を返すわけにもいかない。

「え? あー、通販サイトの商品登録とページ作成、運営、客対応、品出し、在庫管理、出荷、まあ、携わること全部だな。薄利多売だったから、とにかく忙しかった…… 思い出したくもない」

 そう思っててもどうしても愚痴になってしまう。

 そもそも薄利多売なのが悪いし、商品は無駄に多いし、自社で在庫を抱えているから、在庫チェックも常だし、賞味期限があるやつを売るために特集ページを作らないとだし……

 何もかもが間違ってたな。


「なんか大変そうですね。でもカズミさんが事あるごとにネットで注文しようっていうのは、仕事だったからなんですね」

「ん? まあ、そうかもな。元いたネットショップは、もうまともに動いてなさそうだったけど」

 そう言ってスマホで元いた会社のぺージを確認するが、私が辞めてから更新された様子もない。

 どうなっているんだろうな。

 社長を含めて悪い人たちじゃなかったんだが、あれはもうどうにもならんて。


「じゃあ、作るからスマホをもう一度貸してくれよ」

 アライに言われて、私はそのページを元の豆腐の菜種油のコンフィのページに切り替えてアライにスマホを渡す。

「ほらよ」

「あっ、ボクにも見せてください!」

 そう言ってトウフとアライが一つのスマホを覗き込む姿を見ているだけで、私は幸せだ。

 ああ、寿命が延びるってこういうことなんだ、そう実感したよ。








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