【第六章】私と油の相容れなくもない不思議な関係【五十三話】
「ほんとかんべんしてくれよ。そこを通してくれない?」
いつまでも道を譲らないアブラスマシに、少し苛立ちながらそう言うのだけれども、返ってくる言葉は、
「ようこそ」
だけだ。
道を譲るわけでもない。
すまし顔なので、コイツの意図がまるで分らない。
とりあえず敵意はなさそうだよな。
でも、まだ私達の前に立っている理由はなんだ?
「いや、それしか言えないのはわかった。だから、なんか用があるんだろ? それをどうにか伝えてくれよ!」
私が少しイラッとしてそう言うと、
「カズミさん、そんな怒鳴らないでくださいよ」
と、トウフが私をたしなめてくれる。
まあ、少し沸点が低すぎたか?
「いや、悪い。けどなぁ……」
「ようこそ、ようこそ」
これじゃあな。
まったく意図が伝わってこないんだよ。
ようこそ、しか言わないんじゃ……
あ、いや、待て。
「ああ、そうか、ようこその回数で、肯定、か、否定、にしようぜ? いいか? 肯定、なら一回、否定、なら、二回だ! どうだ?」
私が思いついたようにそう言うと、
「ようこそ!」
と返事をした。
心持か、アブラスマシのすまし顔が笑顔になった気がする。
「それは同意で良いんだよな?」
一応もう一度確認すると、
「ようこそ」
アブラスマシは一回だけその言葉を発する。
これで多少はコミュニケーションが取れるか?
「うんうん、敵意はあるのか?」
「ようこそ、ようこそ」
二回だから否定の意味だよな。
やっぱり敵意はないのか。
念のため、アブラスマシのすまし顔、その目を見ながら、
「敵意はないんだな?」
「ようこそ」
確認すると、アブラスマシは一回だけ答えた。
肯定の意味だから、やっぱり敵意はないと言うことか。
「敵意はないが何か用事がある?」
「ようこそ」
と、アブラスマシは少し食い気味に答えてきた。
別の用事があって、まだ私達の前に立ちはだかっている訳か。
「どんな用事だよ」
と私が聞くと、返事は返ってこない。
肯定、か、否定、では、返事が出来ない事ってことか。
なんだ?
どんな用事があって私の前に立っているんだ?
私が悩んでいるとトウフが何か思いついたのか、
「あ、もしかしてアブラスマシさんもボクたちと一緒に住みたいとか?」
と聞く。
そうすると、
「ようこそ!!」
と、勢いよく答えが返ってきた。
あー、なるほど。
コイツも妖怪連合をとやらを抜けて、ここで暮らしたいってわけか。
ますます妖怪アパートだな。
「あー、もしかしていく当てがないのか?」
「ようこそ!」
私がそう聞くと、頷くようにアブラスマシは答える。
私はあたりを見て回る。
もう夕方で人通りは少ない。
だけれど、まったくないわけではない。
私や人間にしか見えないトウフならまだしも、頭の大きい地蔵にしか見えないのと喋っているのを見られたら、警察に通報が行きかねない。
「なるほど。まあ、とりあえず…… 一旦うちに行くか?」
私ってこんなにお人よしだったか、とそう思いながらもアブラスマシを一旦部屋へと招く。
部屋にはトウフよりは妖怪に詳しいカラカサもいるしな。
「ようこそ」
と、アブラスマシはすまし顔なのだが少し嬉しそうに、返事をする。
「うーん、うちワンルームだぞ? それ以前に床抜けないか? まあ、とりあえず行ったん部屋へ戻ってからカラカサを交えて話すか」
よし決めた。
とりあえずカラカサに丸投げしよう。
そうしよう。
私は深く考えることを破棄した。




