【第六章】私と油の相容れなくもない不思議な関係【五十一話】
まあ、なんだ。
何度目なんだ。
こんな光景は。
私とトウフが日課となっている散歩というか、買い物をを終えて帰ってくるといたんだ。
訳の分からんもんが。
地蔵か?
まあ、一番近いビジュアルは地蔵と言えば地蔵だ。
ただ顔が妙にでかい、胴回りの二倍から三倍くらいはでかい。
地蔵に大きな顔が付いていると言えば、それがイメージしやすいかも知れない。
こけしに似てなくもないが、材質は間違いなく石だよ。
ついでにだげども、その大きな顔は妙にすまし顔だ。
イラつくほどすまし顔をしてやがる。
どう見ても人間じゃない。
妖怪って奴だ。
もう私も慣れた。
最初見たときは驚いてビクッとはしたが、私の反応はそれだけだ。
それがアパートの真ん前に道を防ぐようにやってやがる。
それにトウフは、その存在を知っているかのようだ。
「アブラスマシさん! アブラスマシさんじゃないですか!」
と、嬉しそうに声を掛けた。
まあ、コイツも妖怪だよな、そんなビジュアルをしているよ。
もうこのアパートも完全に妖怪アパートだな。
えっと、どれだけいたっけ?
トウフにカラカサに、スネコスリに、西瓜侍に小豆洗いか?
で、コイツはアブラスマシ?
だから、すまし顔なのか? 安直な。
油、油か。
これからは油も買わなくて良いってことか? そういう事だよな?
問題は料理に使える油なのかってことくらいか?
「で、トウフ、コイツはどんな妖怪なんだ?」
一応聞いとくか、不気味だしな。
危険な妖怪かも知れない。
「え? えーと…… アブラスマシさんです!」
少しの間があってトウフはその名を呼んだ。
これは…… どんな奴か、トウフも知らないんだな?
「ああ、うん、何も知らないわけだな? で、コイツも妖怪連合なんだよな? なに用で来たんだ?」
まあ、トウフのことが心配になってっていうのが理由だろうけどな。
だって、トウフは可愛いもんな。
こんなにも可愛んだ。そりゃ心配にはなるだろうよ。
だけど、アブラスマシとやらは私に向かい口を開き、
「ようこそ、ようこそ」
と、挨拶をした。
「いや、ようこそじゃねぇよ。ここは私のうちだよ」
私は借りているだけだけども。
私以外にもこのアパートには人間が住んでいるけれども。
それでも私のうちであることは違いはない。
私がそういうと、アブラスマシはすまし顔で、
「ようこそ、ようこそ」
と、再びその言葉を口にした。
ああ、わかった。そういう妖怪なんだな?
「あ? ああ、コイツは、ようこそ、しか喋れない訳ね?」
超速理解って奴だ。
そうなんだろ? と私はトウフの顔を見ると、珍しくトウフが私に尊敬するような顔をしている。
えへ、えへへへへへ、そんな顔で見ないでくれよ、トウフ。
なんだか照れるじゃないか。
最近はトウフにあきれられてばっかりだったからな。
こう、たまに尊敬のまなざしを向けられると、なんか、照れるな。
「そうです! アブラスマシさんは挨拶しかできません」
トウフがそう言っているのを聞いて、私も少し悲しくなる。
なんだよ、そのゲームで町の前に立っているNPCみたいな妖怪は。
ようこそ、しか言えないとか、何の妖怪だよ。
いや、油の妖怪か? よくわからんな。
「ああ、うん、で、どんな妖怪なんだ?」
結局のところその実態はなんなんだ?
「さあ?」
私がもう一度聞くと、トウフもそう言って首をひねった。
いや、まあ、ようこそしか喋れないのであれば、トウフが知っている訳もないのか。
「トウフは何も知らないな」
と、私がそういうと、まるで頷くように、
「ようこそ」
と、アブラスマシが合いの手のように挨拶をいれてきた。
無理するなって言いたいのか?
どうなんだ、わけわからん。
「で、えーと、これはどうすればいんだ? 心配してトウフを見に来たくちか?」
私が聞くと、アブラスマシは、
「ようこそ、ようこそ」
と言いながら頷いた。
やっぱりトウフ目当てか。
妖怪相手にもモテモテじゃないか。
けど、トウフの相手には…… どうなんだ? ありか? なしか?
うぅーん…… 微妙なラインか?
しかし、簡単に可能性を捨て去るのは良くない。
一晩ぐらい悩むのがいいのではないか?
私がトウフとアブラスマシの関係性について熟考していると、
「ボクを心配してきてくれたんですか?」
と、トウフが聞く。
それに対してアブラスマシも、
「ようこそ、ようこそ」
と答えるのだが、トウフは私を見上げていうのだ。
「わからないですね……」
と。
うん、こりゃ、わからんて。
なにせずっと、すまし顔だしな、こいつ。




