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【徒然妖怪譚】私とトウフの奇妙な共同生活  作者: 只野誠
【第一章】私とトウフと寿命がない
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【第一章】私とトウフと寿命がない【五話】

 よし、決めたぞ。

 お持ち帰りするぞ。

 そう決めた私は無言で、トウフを脇に抱え上げる。

 軽い、軽すぎる。

 子供ってこんなに軽い物なのか?

 こいつが妖怪か幻覚だからか?


「え?」


 と言うトウフの声が聞こえたが私は気にしない。

 そもそも妖怪なんて存在しない。

 私の妄想が生み出した幻覚なんだ。

 だから、その妄想の産物を私が私の部屋に持って帰っても何の問題もない。


 妙に軽いトウフを小脇に抱えて私は帰路に着く。

 最初こそ抵抗していたが、そもそも力も子供だ。

 私の力には敵わずに抵抗することをトウフも諦めた。


 なんか泣き声と鼻水を啜る様なものが聞こえるが、私は気にしない。

 取って食うつもりはないので、その点は安心しろ。

 せいぜい妄想をはかどらせるだけだしな。実質無害だ。


 ボロアパートの自分の部屋に着いた私はトウフをちゃぶ台の前に座らせ、カセットコンロを用意する。

 その上に水を張った鍋を置き、火に掛ける。

 そして、めんつゆと小皿を持ってきて自分の前に置く。

 昆布があればよかったんだが、そんな気の利いたもの、うちにはない。


 コンビニで買って来たカルボナーラをトウフの前に置き、私はトウフの対面に座る。


 トウフはきょとん、と、したかわいらしい表情を見せるだけだ。

 そのまま、鍋の湯が沸くまで、無言の時間が流れる。

 湯が沸いたら私はトウフが大事そうに持っている豆腐を奪い取り、鍋の中に入れる。


「あっ、ボクの豆腐が……」


 と、信じられないような顔をするトウフ。

 その様子もまたかわいい。

 ついキュートアグレッションしてしまいたくなるのも無理のない話だよな? だよな?

 これは妄想がはかどると言うものだ。

 うん、実に良い表情だ。


「そのカルボナーラ食べて良いから」

 私が言うとトウフは目を輝かせる。

 そんなにカルボナーラが食べたかったのか?

「え? 良いんですか!!」

 随分と嬉しそうだな。

 不安そうな顔が一気にニコニコ顔だ。

 笑った顔も可愛いな。なんで妖怪やってんだ、こいつ。

「ああ、いいぞ。私はこっちの豆腐を貰う。コンビニ弁当にも飽きてるんだ」

 とはいえ、豆腐一つで私の腹は膨れないが。

 まあ、良いだろう。

 明日は辞表を提出して…… って、役員じゃない限り辞表じゃないんだったけ? まあ、いいか。

 後はたまりにたまった有給を使おう。

 もう辞めると決めたんだ。

 後の事なんか知ったことじゃない。

 まあ、私がいなくなっても……

 無理だな、私というか誰か一人でも欠けたらもう仕事が回らないぞ、あの会社は。

 潰れるべくして潰れたと言うことで。

 流石に、こっちも命が掛かってるんだ。


「一度、人間の食べ物食べてみたかったんですよ」

 そう言って、トウフは慣れない手つきでカルボナーラの包装を剥がそうとするが、もたもたとして剥がせないでいる。

 このまま見ているのも良いが、話が進まなさそうなので、私が包装を破き、プラスチックのフォークをさして渡してやる。

 そうすると、トウフは本当に嬉しそうな顔をする。

「豆腐も人間の食い物だろ?」

 だよな?

 確かに肌が白くてトウフ自体も豆腐ぽそうなところはあるけど。

 もしかしてコイツ、人型の豆腐だったりするのか?

 いや、流石にないか。それだったら小脇に抱えたときに崩れているよな。

「大事な豆腐ですよ、自分で食べる訳ないじゃないですか!」

 そう言って、トウフは鍋の中で茹でられている豆腐を悲しそうに見た。

 けれども、慣れない手つきでカルボナーラを口に運ぶと、嬉しそうな顔のなる。

 今は、その大事な豆腐よりも、カルボナーラの方が大事そうだけどな。

 本当に小動物みたいな奴だな。


 けど、大事な豆腐となると……

「はぁ? おい、これ、いつの豆腐だよ! 古いんじゃないだろうな!」

 と、言うことが気になるよな。

 これはいつの豆腐なんだよ、食べて大丈夫なのか? いつから大事にしてたんだ?

「それは、カズミさんが来る直前に出したので、新しい豆腐ですよ」

 ん? んん?

「出した?」

 そう言ったよな? 豆腐を出せるってことか?

 豆腐の妖怪なだけに?

 そうか、これから毎日豆腐をタダで食べられるってことか。

 寿司小僧とかどっかにいないもんかね?

 いや、似たような名前のお店はあるが、そう言うことじゃなくてな。

「はい! それをカズミさんが食べたらまた新しいの出さないといけないですね」

 やっぱりか。

 コイツ無限豆腐製造機かよ!

 これは、よい拾いもんしたな。

「もしかしてトウフ、お前豆腐を無限に出せるのか?」

 私の質問にトウフは驚いた顔をする。

 いや、若干引いている顔か?


「無限と言うことはないですけど、一日で三丁くらいなら出せますけど……」

 けど、なんだよ?

 なんで不満そうなんだ? ん?

「一日で三つか……」

 三つ程度の豆腐を出されてもな。腹の足しにしかならないじゃないか。

 それを商売につなげるのは流石に無理か。

「いえ、違いますよ、カズミさん。丁は偶数の事なので、三丁と言うと豆腐が六つですよ! 豆腐一つなら半丁ですよ!」

「そうなのか? ふーん、知らなかったな。流石豆腐小僧…… つまりその分の食費は浮くってことだな?」

 ほへー、初めて聞いたよ、そんな事。

 でも、やっぱり売るほどの量じゃないな。

 それにそんなに食ったらすぐ飽きそうだな……

 どっかで物々交換でもできないもんかね? せめて寿司小僧だったらなぁ。

 その話はもういいか。


「え?」

 何を鳩が豆鉄砲喰らった顔をしているんだ。

「え? じゃない。トウフ、お前にはしばらくうちに居てもらうからな」

 うむ。少なくとも死相が消えるまでは居てもらわないと困る。

 仮に死相の原因が働きすぎじゃなかったら困るからな。

「なっ、なんでですか!?」

 そんなに驚くことか?

「明日、私は会社を辞める」

 辞めるぞ。辞めてやるぞ。

 流石に自分の命が掛かっているんだ。

 これ以上は働けないっての。

 

「え?」

 と、トウフは再び驚いた顔を、訳の分からないと言った顔をする。

「それで死相が消えるかどうか見てもらわなくちゃならない。会社を辞めたが、死相は消えなかったなんて、ごめんだからな」

 豆腐が困惑しているので優しい私はトウフに説明してやる。

「それで、なんで会社を辞めるんですか?」

 良い質問だ。

「それしか思い当たる節がないからだよ」

 だって、仕事しに行って家に帰って来て飯食って寝るだけの生活だよ?

 一日の大半を仕事に費やしている状況だよ?

 それ以外に何があるっていうんだ。


「そうなんですか?」

「そうだよ。なので、報酬にそのカルボナーラをやろう」

 私がそう言うと、流石にトウフの手が止まる。

「え? えぇ……」

 さっきまでウキウキで食べていたのにもかかわらず、トウフはフォークから手を放す。

 もう遅いぞ。一口でも食べたんなら、もう遅いんだぞ。


「なんだよ、不満かよ。じゃあ、そのカルボナーラも私が食べるから寄こせよ、あと追加の豆腐を出せよ」

 私がそう言うと、トウフはカルボナーラを腕で囲い込む。

 そんなに食いたいのか?

 いや、まあ、いいけどさ。

「これはボクが貰います! 豆腐も出しますから!」

 あ、あの、そんな涙目で抗議しなくても、食っていいから……

 そんなに食べたかったのか? カルボナーラ? コンビニのだぞ?

「うむ。素直なのが一番だぞ」

 と、私が言うと、トウフも何か決心したかのような表情を見せる。

「じゃあ、ボクも辞めます!」

 そして、プラスチックのフォークを掲げてそう言った。


「へ?」

 トウフの言葉に、今度は私が間抜けな表情を見せる。

 辞める? 何を?







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