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【徒然妖怪譚】私とトウフの奇妙な共同生活  作者: 只野誠
【第五章】私と粒餡派か純情派か、はたまたコーヒー豆か?

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【第五章】私と粒餡派か純情派か、はたまたコーヒー豆か?【四十七話】

 ワンルームである私の部屋で、流石に狭すぎると思いつつもトウフを真ん中に川の字で寝た翌日のことだ。

 私、トウフ、アライは近所にある個人経営の喫茶店に来ていた。

 老夫婦がやってる喫茶店で、私がまだ大学生の時はよく使ってたけど、社会人になってあまり使わなくなった、というか使う暇がなくなった喫茶店だ。

 久しぶりに来たけど、雰囲気があって静かでいい場所だよ。

 そんな場所で、アライに本物のコーヒーを出してもらう。

「こ、これが本物のコーヒーだと!? き、昨日飲んだのより数倍深みもコクもあるじゃないか!」

 豆はどこどのを使っている、っていう知識は私にはないけど、ここのコーヒーはとにかく旨い。

 香ばしい香り、程よい苦味とコクの中にほんのりと隠された甘味、ここのコーヒーは他の店では味わえない何かがある。

 アライが驚愕するのもうなずける。

 なにせ、私はこの店のコーヒーを飲むまでブラックでコーヒー飲めなかったからな。

 この店でコーヒーを飲んでから、コーヒーをブラックで飲めるようになった。

 それくらい旨いコーヒーを淹れてくれるんだよ、ここは。


「そりゃ、昨日のは、そもそも氷解けて薄まってた奴だからな。比べてやるなよ」

 そうだ。

 比べるな。この店と店で売っているようなバリスタマシーンが淹れたコーヒーには雲泥の差が…… あるはずなのだが、あれ? おかしいな。

 店の奥に見えているのは、昨日スーパーで売ってたバリスタマシーンじゃないか?

 あれ? あれれ?


「にしてもだ、何だこりゃ…… なんだこの味わい深い飲み物は……」

 う、うんうん、わかるじゃないか、アライ。

 ここのコーヒーの良さがわかるとはお前見る目はあるよ。

 けど、店の奥に見えるバリスタマシーンは…… 見なかったことにしよう。

 トウフとマスターの奥さんが、雰囲気が良い店を持つのが目的で、コーヒーとか別にこだわりがないの、とか世間話をしているが、聞かなかったことにしよう。

 

 そんな世間話に夢中のトウフは一口コーヒーに口をつけただけで、二口めはつけていない。

「……」

 トウフはマスターの奥さんの話に相槌だけ打っているだけだ。

「どうしたトウフ。コーヒー飲まないのか? ここのは旨いぞ」

 私がそういうと、トウフは私をまっすぐに見た。

「ちょっと苦いです……」

 そして、そう言った。

 ああ、なんてかわいらしい生物なんだ。トウフは。


「トウフにはまだ早かったか」

 そうかそうか、まだ早いか。

 トウフにブラックはまだ早いよな。


 マスターの奥さんも、アラアラと慌ててミルクと砂糖の用意をし始める。


 そんなトウフとは違い、アライにはコーヒーの良さがわかるのか、しみじみと少しづつコーヒーを嗜んでいる。

「コーヒー…… なんて奥深い飲み物なんだ…… オイラは感動したよ」

「俺様な? もしくは妥協して俺な? いい加減にしないと笊に穴を開けるぞ?」

 朝からたそがれているアライに私は即座に食ってかかる。

 アライは大事そうに持っている笊を私から慌てて隠す。


「おまえは悪魔のような女だな」

 そして私に向かい、そんなことを言ってくる。

「何言ってやがる、私は天使だよ。だから今日の喫茶店の代金も私が払ってやるんだぞ」

 そうだぞ。

 ここの代金くらい私が払ってやるよ。

 どうせ妖怪は金持ってないだろうしな。


 そう思っていたのだけれども、

「いやいい、これくらい自分で払う」

 そう言ってアライはブランド物の財布を取り出した。

 おや、コイツは金持ってんのか? 妖怪なのに?


「え? お前金持っているの?」

 私が聞くと、アライは決め顔で答えて来る。

「その昔、小豆相場で儲けた金がある」

 小豆相場?

 先物取引の?

 あれで儲けって出るんだ……

 まあ、小豆は赤いダイヤなんていうし?

 コイツは小豆洗いだしな…… そういったセンスがあるのかもしれない?


「小豆洗いが小豆相場で……」

「この服も自分で買っている。選んでもらいはしたがな」

「あー、なるほど…… そういう事なのね」

 そういう事か。

 どっかの金持ちに買わせたわけじゃなく、選んでもらって金は自分で出したってことか。

 アライの服を選んだ人は良いセンスだな。

 あまり周りと溶け込めてないけど、アライによく似合ってはいるぞ。

 しいていえば、半ズボンじゃないところが、マイナスだけどな。


 その話を聞いていたトウフがアライに向かい尊敬の眼差しを向ける。

「凄いんですね、アライさんは!」

「トウフ、おまえも十分に稼いでいるぞ」

 そうだぞ。トウフ。

 おまえの浮世絵風付け爪、高いときは五桁行くんだからな。

 いや、本当に良い稼ぎだよ。


「ボクじゃ、そのやり方がよくわからなくって…… 付け爪送るのもカズミさんがやってくれてるじゃないですか」

 人手が足りない時は私も商品の発送やってたしな。

 父の日、母の日、年末とイベントごとのある時期は地獄だったよ。

 それに比べれば、一日一件二件の発送くらい面倒でもなんでもない。

「んま、それくらいはな」

 しかし、トウフは謙虚だな。

 あの出来だしもっと誇っていいぞ。

 付け爪のレビューも大体好評だしな。


 私が内心トウフの慎ましさに感動しているとアライが、

「まあ、いい。オイラも決めたぞ」

 と、何かを決心した。

 ああ、この流れはわかる。

 あれだろ? なんだっけ、連合だっけ? それを辞めるって奴だろ?

 そんな事よりもだ。

「だから、いい加減に、俺様って言ってくれよ」

 と、私はアライにダル絡みをする。


「おまえもしつこいな! そんな事よりも豆腐小僧! オイラも妖怪連合を抜ける」

 はいはい、勝手に抜けてくれよ。

 でも住む場所どうするか。

 流石の私の部屋はもう狭いぞ。

 そもそもワンルームだしな。

 これを機に引っ越すか?

 できれば、トウフとアライの絡みを間近で見たいしな。


「そうですよね。アライさんもザァーザァーと音を立てるだけですもんね。流石に辛いですよね」

「おまえ…… 意外と容赦ないな。まあ、いい、オイラはこれからはコーヒーで生きていく!」

 トウフは自虐のつもりで言ったのかもしれないが、かなりざっくりとアライを刺しているぞ。

 けど、コイツ何を決心したんだ?

「え? なに? コーヒー農家でも始めるの? ってか、コーヒー豆って日本で育つのか?」

 日本産のコーヒーってあんまり聞いたことないよな。


「違う! オイラもこんな店を開きたいって話だよ」

 つまり、おまえも買うのか?

 あのバリスタマシーンを?

 そして、喫茶店を開くんだな?


「ああ、喫茶店か。まあ、良いんじゃないか、金があるっていうのなら…… いや、無理か? テナントを貸してくれる所がないか。アライはまだ子供だしな」

 だよな。土地持ってるとかならまだしも妖怪じゃな。

 土地持てないだろうし、いくら持っているかわからないけど、店開くなんてことできるのかね?


「オイラは子供じゃねぇよ!」

 まあ、そうだろうよ。

 私よりも長生きなんだろうな、妖怪だし。

 トウフもこう見えて江戸生まれって話だしな。

 だが、見た目は子供なんだよ! ショタなんだよ!!

「見た目の問題だよ。そもそも身分証もないんじゃなぁ……」


 私の心配をよそにアライは、喫茶店だかカフェだかを開く自信でもあるのか、

「まあ、そのあたりはどうにかするさぁ。コーヒーというものを教えてもらった礼だ。オイラの店が出来たら招待してやるぜ」

 そう言って笑った。

 それに対して、トウフが、

「楽しみにしてます!!」

 と、笑顔で答える。

 トウフの笑顔を曇らすんじゃねぇぞ? わかってるのか?







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