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【徒然妖怪譚】私とトウフの奇妙な共同生活  作者: 只野誠
【第五章】私と粒餡派か純情派か、はたまたコーヒー豆か?

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【第五章】私と粒餡派か純情派か、はたまたコーヒー豆か?【四十四話】

 私にお持ち帰りされた小豆洗いは憮然とした顔でテーブルというかちゃぶ台の前に座らされている。

 すでに氷が解けてしまったアイスコーヒーをそんな小豆洗いの前においてストローも刺してやる。

 そうすると小豆洗いも少しだけ態度を軟化させる。


「で、どういう了見だ?」

 小豆洗いは私に向かいすごんで見せるが可愛いものだ。

 背がトウフと変わらない小豆洗いに睨まれても、子供が背伸びしているようにしか思えない。

 そこに恐怖といった感情を私が感じることはない。

「そんなことよりもだ。なんでおまえはそんなにお洒落しているんだ?」

 そうだ。

 なんでコイツはスーツなんか着ているんだ?

 しかも、わざわざ子供用のスーツだぞ?

 流石におかしいだろ?


「ん? この服か? 怪しまれないように…… うわっ、何だこの化物!」

 小豆洗いは素直に答えようとしていたが、どんな服かと覗き込んで来たカラカサを、ピンク色のビニールの生地に色々とデコされ、更に濃いピンク色の口紅をさし、大きな瞳につけまつ毛、網タイツと部屋用サンダルを履いたカラカサを見て驚き、その回答は中断された。

 いや、まあ、その反応は正直わかる。

 夜中見たら私でも悲鳴上げそうになる容姿だぞ、今のカラカサの姿は。

「おや、ぬしも捕まって来たのでありんすか?」

 カラカサはまるで知り合いかのように、小豆洗いに話しかける。


 だがそんな事よりも、

「捕まった? やはりここで妖怪を捕獲していたんだな?」

 と、私をすごんで見せる。

 捕獲した? いや、まあ、確かにスネカジリは捕獲したな。

 だから、私は黙っていると、カラカサが否定してくれる。

「捕獲ではありんせん。ああ、一匹だけ捕まったのはいんすが」

 カラカサはそう言って、柵の中にいる完全にペット化してしまったスネカジリを見る。

 ここ最近奴が言葉を話しているのをそう言えば聞いてないな。

 自分のことをワチとか言ってて可愛かったんだけどな。


 少し寂しそうにトウフが

「スネコスリさんが、完全にスネカジリさんになってしまいました」

 そう言った。

 あんまり余計なことを言わないでくれよ。

 この小豆洗いにはおまえのパートナーになってもらわなくては困るんだからな!

 けど、私の思惑通りにはいかないのか、ペット化したスネカジリを見て、

「これはスネコスリか? 獣化してるじゃねーかよ!」

 小豆洗いは怒っている。

 やっぱりダメな事だったのか?

 でも、スネカジリは元気だぞ。毎日たらふく西瓜食ってるしな。


 憤慨している小豆洗いに、カラカサは少し目を細めて、

「ぬしさんも随分と人間らしい恰好をしてやすね」

 と言った。

 確かに、人間らしいというか、こんなにバッチリ決めている子供は七五三くらいだぞ。

 いや、七五三ではスーツは着ないか。


「こ、これはだな。人間に怪しまれないための技術だ。そう、人を欺くための技術なんだ!」

 そう言って、小豆洗いはスーツの襟を正した。

 あ、コイツこの服気に入ってるな?

 どこで手に入れたんだ?


 トウフも夏用のパーカーと半ズボンを小豆洗いに見せながら、

「ボクは着やすいから来てます! どの服も凄い柔らかいですしカッコいいです! 前の服はごわごわでもう着る気がしません」

 嬉しそうにそう言った。

 トウフは動きやすくて柔らかい服が好きみたいだな。

 あ、半ズボンは私の趣味だけどな。

 小豆洗いもそのうち半ズボンにさせるか。うむ。

 トウフの意見に小豆洗いも納得なのか、

「まあ、それは確かにな」

 そう言って頷いている。

 まあ、そりゃそうか。


「で、聞きたいことはそんな事じゃない。けどもだよ。なら、おまえも、ふんどしだったのか?」

 今はスーツを着ているコイツも、このスーツに着替える前はふんどしだったのか?

 ふんどし、ふんどしか。

 まあ、悪くはないんだが…… いや、トウフのを見てちょっといいかも、と思ってはしまったが。

 ふんどしか…… ふーん。


「そ、そうだが、なんだよ!」

 私の視線から何かを感じ取った小豆洗いがむっとした顔を私に向ける。

「なら、今は?」

 からかうように私は笑い、ズボンの辺りを見ながらそう言った。


「はっ? そ、そんなことがお前に関係あるのか!?」

 小豆洗いは顔を赤くさせて叫んだ。

 なんだ、かわいい奴だな、コイツ。

 白ブリーフはいいぞ。違ったらおまえにも勧めてやるからな。


「小豆洗いは言いづらいし、人間らしくアライさんで良いか?」

 アライさんなら違和感ないしな。

 うんうん。

 トウフとアライ。

 実際に目の前に座らせると、それだけで妄想に火がついてくるな。

 ああ、どんどん妄想が止まらなくなっていくぞ。

 あれだよな、人間に囚われたトウフを、アライが助けに来る展開だよな。

 それで友情を育んでいって、その友情が感極まって愛に……

 いい、いいぞ。これはいい!!


「よくねーよ!」

 と、アライが叫ぶ。

 私の妄想を否定されたかと思ったけど、良くないのは名前の方だったか?

 けど、トウフは気に入ったようで、

「アライさん、良いですね! 人間ぽい上に小豆洗いからも外れてないです!」

 と、ニコニコで小豆洗いこと、アライに話しかけている。

 アライの方が攻め手だと思ってたけど、これはトウフが攻めなのか? そうなのか?

 それもありなのか? はぁー、それもそれで妄想が捗る。


「や、やめろ! 名前を付けるってことは、それに縛られるってことだぞ!」

 アライはそう言ってテーブルをドンと叩いた。

 そう言えばそんな話だったな。

 確かにスネカジリは完全にペット化してスネカジリになったな。

 今は西瓜で餌を賄えているからどうでもいいけど。


「ボクはトウフって名付けてもらいましたよ!」

 トウフは嬉しそうにそう言って、ニコニコ顔をアライに向ける。

 あまりにも無邪気なトウフの笑みに、アライの方がたじろいでいる。

 なるほど。無邪気攻めか。やるなトウフ。


「あちきはカラカサでありんす」

 そう言って、カラカサも二人の会話に入ってくる。

 カラカサは少し特殊すぎて私の妄想には組み込めないな。

 今やピンクのビニール生地の傘だぞ?

 それに生々しい脚がついてるんだ、わけわからないよ。


「二人ともそのままじゃねぇかよ」

 私が付けた名前にアライが突っ込む。

 おまえもそのままだけどな。

「ですよ。だからボクは自由にさせてもらっているんですよ」

 トウフはそう言って嬉しそうにしている。

 トウフよ、おまえは自由か? 本当に自由なのか?

 私とカラカサとスネカジリの世話に一日追われてないか?


「じ、自由に?」

 けど、アライはトウフの言葉を信じたのか、驚いた顔を見せる。

 まあ、スネカジリはともかく、トウフとカラカサは自由だよな。

 それに、どっちかというと、トウフには私の方が縛られているというか、ちゃんとしなさいって、トウフにお小言を言われているくらいだぞ。

「はい!」

 と、トウフが笑顔でそれを肯定する。

 うん、いい笑顔だ。

 思わず頬擦りしたくなる笑顔だ。


「この女に捕まったわけではなく?」

 と、アライは私を睨みつつそんなことを言った。

 まあ、トウフもカラカサも私拾って来たと、いえばそうかもしれないが、拘束はしてないぞ。

 カラカサはともかくトウフが出て行くって言ったら留めるけどな。


「ボクはカズミさんが会社を辞めるので、ボクも妖怪連合を辞めることにしたんです!」

 トウフはそんなことを言った。

 いや、間違ってはないが、急にそんなこと言われてもわからんだろうに。

「は? そりゃ…… なんでだよ!」

 まあ、そんな反応になるよな。


「ボク、トウフを持っているだけの妖怪ですよ? なにができるんだって言うんですか!」

 そんなことを言ってくるアライにトウフは若干涙目になりながら、そう言い返した。

 トウフ…… お前はどこまで哀れで可愛い奴なんだよ。


「そりゃ、おめぇ…… えーと……」

 言い返されたアライもいい案が思い浮かばないようだ。

 まあ、小豆を洗っているだけのおまえも似たようなもんじゃないのか?


「あちきも存在自体が時代錯誤でありんす。なら、これを機会に自由に生きてみようと思いんす」

 さらにカラカサは、すでに自由に生きているカラカサはそう言った。

 確かに今のおまえは人生を謳歌してそうだよな。

 けど、お前の見た目は十分に怖いぞ? 現代でも通じる不気味さだぞ?


「二人とも、自分の意志でここに居るってことかよ?」

 そう言って、アライは黙り込んだ。

 やっぱりコイツはトウフとかカラカサの様子を見に来ただけなのか?

 なんだよ、妖怪連合っていい奴の集まりなのか?

「はい!」

「あい」

 元気よくトウフとカラカサは返事するのだが、

「スネコスリの奴は?」

 と、アライに聞かれると、二人とも黙り込んだ。


 そして、しばらくの間を置いて、視線をずらしてトウフが、

「餌で懐柔されました……」

 と、そう伝えた。

 ま、まあ、間違ってはないか。


 アライも西瓜にかじりついているスネカジリを見て、

「そ、そうか……」

 と、納得はしているようだ。

 まあ、ペットとしては幸せそうだもんな。スネカジリは。

 若干柵の中が狭いのは不満そうだけど。


「で、アライさんよ、おまえ、トウフのことはどう思ってるんだ?」

 このままでは埒が明かなそうなので、私は確信的質問をアライにぶつけた。

 まあ、おまえの意志とか関係なく、私は妄想しちゃうんだけどな。へへっ……

「え? なんだよ、そんなに目をして! な、なんなんだ、この女は!」

 私から怪しい気配を感じ取ったのか、アライは座ったまま後ずさりしていった。






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