【第五章】私と粒餡派か純情派か、はたまたコーヒー豆か?【四十一話】
今日の夕方の散歩は帰りがかなり遅くなった。
散歩のついでだったはずのスーパーで夏祭り的なイベントをやっていてトウフがはしゃいでいたせいだ。
長々と金魚すくいとかやった上に、結局一匹も獲れないトウフは可愛かった。
まあ、捕まえてもうちじゃ金魚飼えないしな。
ほら、うちには既にスネカジリっていうペットがいるしな。
アイツ、金魚とかも食べそうじゃん?
それにこれ以上トウフが世話するもの増えてもな。
トウフも大変だろうて。
しかし、祭りか。まあ、悪くはなかったよな。
トウフが浮かれるのも分かる話だよ。
私? 私はもうお祭りではしゃぐ年齢じゃないよ。
いや、まあ、はしゃいでいるトウフを見ているのは楽しかったが、目の保養にはなったが、本当に御馳走様だったが、うん。
そのせいもあって、もう日も完全に落ちてしまってから、私とトウフはアパートについた。
せっかくお祭りの出店で買ってきたアイスコーヒーも氷が解けてしまっているくらいだ。
アパートに着くと、どこからともなく聞こえてくる。
ザーッ、カラカラ、ザーッ、カラカラと不気味で不吉な音が辺りから鳴り響いてくる。
音の出処は見当がつかない。
いろんな方向から絶えず、ザーッ、カラカラ、ザーッ、カラカラと聞こえてきている。
私にはその音が何の音かまるで分からない。
小道具で出す波の音と言えば、それっぽい音だ。
けど、トウフはその音に心当たりでもあるのか、元から色白の顔をさらに真っ青にさせている。
「どうした、トウフ? 顔色が悪いぞ」
そんなトウフに私が話しかけると、
「こ、この音は……」
と、トウフは真っ青な顔で驚いて、意味深なことを言う。
何かの前振りか?
いや、まあ、うん。トウフのこの反応からわかるよ、また妖怪なんだろ?
もうわかってるからそういうのはいいって。
「知り合いか?」
と、トウフに聞くと、トウフは頷いて見せる。
「は、はい、多分ですけど、この音は小豆洗いさんです!」
小豆洗い。
小豆洗いねぇ。名前は聞いたことある? かな?
どんな妖怪なのかは知らんけど。
けど、食べ物か。それは大助かりだな。
トウフの次は小豆か。餡子が毎日食べれるのはいいな。
「小豆洗い? 今度は餡子か。またオヤツが増えるな」
餡子は嫌いじゃない。
粒餡もこし餡も私の好物だ。
そうかそうか、今度は無限餡子製造機が来てくれたのか。
でも、もううちの部屋に新しい妖怪が住むスペースはないぞ。
ただでさえワンルームに三人も住んでいるんだぞ。
「よ、妖怪連合がとうとう本気を出して来たんですよ! 急ぎましょう!」
トウフのこの慌てようを見るに、危険な妖怪なのか?
「なんだ? 危険な妖怪なのか?」
私も気を引き締めて、トウフに聞くと、
「小豆洗いさんは、小豆を洗う妖怪ですよ!」
と、トウフは必死の形相でそう返して来た。
小豆を洗う妖怪か。そのまんまだな。
名は体を表すって奴だ。
で、どんな妖怪なんだよ。
何が危険なんだよ。
「え? えぇ…… どんな害があるんだ?」
気が抜けた私がそう聞くが、トウフは真剣な表情のままだ。
「わ、わかりません、とにかく急いで部屋へ戻りましょう、カラカサさんに相談ですよ!」
トウフは必死にそう言っている。
つまりトウフも小豆洗いって妖怪のことは何も知らないんだな?
「まあ、それが良いかもなぁ。トウフは頼りにならないし」
トウフに手を引かれて歩くのもそう悪くはない。
私はそう思いながら、先を急ぐトウフの後頭部を見つめる。
トウフの奴、後頭部まで可愛いな。
でも、やっぱり頭の上のちょんまげは私からすると、あんまりいただけない。
これ取っちゃダメなんだっけ?
そんな事しか思い浮かばない私の方がおかしいのか?




