【第一章】私とトウフと寿命がない【四話】
「えっと、豆腐小僧くんよ。なんで私を狙っているのよ? そんな水虫程度で怯えているような、あんたが?」
そうだよな。
確かに全身水虫は嫌がだ、それにおびえているような奴が、なんで命を狙う様な事を?
私がそう聞くと、自称豆腐小僧は、私から目線を外し何か言い辛そうにしている。
「あっ、えーと…… その……」
目に見えて豆腐小僧は私に答えることを迷っている。
もじもじして、なんだ、この可愛い生物は。
「なに? 何か言い辛い事でもあるの?」
なになに? 私がタイプだったとか? そう言う事?
んー、でも、いくら君が可愛いからって命までは上げられないな。
って、何を考えているんだ、私は。
「は、はい、その…… お姉さん……」
「森田。森田和美よ。あんた名前ないの?」
豆腐小僧にお姉さんって言われて、嬉しくなってつい本名を言ってしまった。
ま、まあ、いいか。
相手は妖怪だし。
何なら私の幻覚だしな。
「森田…… 和美…… カズミさんって呼んでも良いですか?」
ああ、良い。こんなかわいい子にカズミさんって呼ばれるの、なんか良い!!
「それは、まあ、いいけど? あんたの名前は?」
気持ち悪い笑みがこぼれ落ちそうになるのを何とか押さえつつ、私も名前を聞く。
太郎とか、そんな名前だったらどうしよう。
かといって、このなりできらきらネームでも嫌だけどさ。
「豆腐小僧は豆腐小僧です。名前なんてないですよ」
なるほど。
妖怪に名前なんてないのか。
種族名? が名前みたいなもんなのかな?
「じゃあ、あんたの名前はトウフね」
うん、言いやすいしな。
豆腐小僧なだけあって、トウフという言葉がよく似合う。
「え? まあ、はい、それで良いですけども」
そう言いつつ、少し不満そうだな、コイツ。
「なに? 不満?」
「いえ、不満も何もないですよ」
そうか? 不満そうだぞ。
もしかしてきらきらネーム的なのを希望してたのか?
桃尻の桃に腐ると書いて、桃腐、それでトウフって名前にするか?
いや、コイツが本当に桃尻かどうかはわからないけど。
まあ、そんな事はどうでも良くて、こいつが私に拘る理由はなんなんだよ、それが聞きたい。
私の幻覚だから、私に拘るって言うので納得できちゃうけどけれどもな。
「で、結局なに?」
「何ってなにがです?」
きょとんとした可愛い顔で話を聞いてない奴だな。
まあ、顔が可愛いから許すが。許してしまうが?
「私を狙う理由よ」
私がそう言うと、トウフは、ハッと気づいた顔をする。
本気で忘れてたのかよ?
大丈夫か? コイツ?
ただの善良な可愛い生き物なだけじゃないか?
「あ、あの…… 死相が見えてます…… カズミさん。もうすぐボクがなにかしなくても死んじゃうんですよ。だから、ちょうど良いかなって……」
「は? 死相? 私、死ぬの?」
え? 待て待て待て。
心当たりは…… ありすぎるが、私、死ぬのか?
死相が見える?
え? ええ? いや、まあ、否定できる要素が皆無だわ。
もう死んじゃうから、私に声を掛けたってのも、このトウフの性格からしても納得できちゃうんですけど?
「はい、このままでは……」
そう言って、悲しそうな表情をトウフは浮かべる。
それが本当に悲しそうな表情なので、悲壮感が私にまで伝わってくる。
「嘘でしょう…… ん? このままでは? 回避する方法があるの?」
このままでは? って、言ったな。
じゃあ、回避できる、ってことか?
「げ、原因を取り除けば? 恐らくはですが……」
原因も何もブラックな職場環境のせいだろうけども。
そうかー、私死んじゃうかー……
いや、それ以外の可能性もあるような。
実はコイツのせいとか?
「原因ってなによ? あんた、そんな可愛い顔して私を呪い殺す気?」
まさか、と思いつつも聞いてみる。
「の、呪い!? そんなの使えませんよ! ボクはただ豆腐を持っているだけの存在ですので」
あー、凄い驚いている。
本当に豆腐を持っているだけの存在なのか?
なんか、ちょっとそれも哀れだよな。
「じゃあ、原因ってなに?」
いや、言わずともわかっているよ。
働きすぎだよな、うん。
「そ、そこまではわかりませんよ。ボクに見えるのは死相だけですので……」
トウフは憐れみの目で私を見る。
悪い奴…… ではないんだよな。
なんか、こう、愛くるしいしな。
よし、決めたぞ。
持って帰ろう、この可愛い生物を。