【第四章】私と侍、破壊と再生、そして、新しい生命へと繋がる環【三十九話】
西瓜をかじる。
赤く熟れた西瓜はとても瑞々しく甘く旨い。
この蒸し暑い時期にはぴったりだ。
赤い果肉にたっぷり含まれた甘い水分が私の乾いた心と胃をやさしく癒していく。
この部屋、古いエアコン使ってるからエアコンつけてても暑いんだよな。
そんな時にこの冷えた西瓜の旨さといったら、言葉にしがたいものがある。
「え? カズミさん、何食べているんですか?」
信じられない物を見るような目でトウフは私のことを見てくる。
そんなに西瓜を食べていることが珍しいのか?
「西瓜だよ、西瓜!」
と、私は答えてそれとなくトウフを観察する。
驚いてはいるが怒りはないようだ。
これなら、どうとでもなる。
と、思っていたけども、トウフは両手を握りワナワナと震えさせている。
「ま、まさか…… 西瓜侍さんを食べているんですか?」
んー、思ったよりも怒っているか。
ま、まずかったかな?
とりあえず、すっとぼけよう。
「んー、ただの西瓜だよ」
そう、これはただの西瓜だよ。
「ただの西瓜…… 西瓜侍さんじゃないんですよね?」
そう言ってトウフはまっすぐな瞳で私を見て来る。
なんてまっすぐな瞳なんだ。
その視線に耐えきれなかった私はカラカサに話を振る。
「な? 旨いよな、カラカサ」
と。
ただカラカサには手はない。
カラカサが自分で食べるには直接かじりつくしかないけれども、カラカサはそんな事をしない。
なんならカラカサの奴は私よりも上品だ。
ただ、カラカサも暑さにやられているのか物欲しそうに冷えた西瓜を見ている。
「あちきは自分では食べれんせんゆえ、食べさしてくれんせんか?」
カラカサはそう言ってトウフの方を見る。
「だってよ、トウフ」
と、私もカラカサからトウフへと視線を移す。
「まっ、待ってください! この西瓜、西瓜侍さんですよね?」
泣きそうな顔でトウフは確認してくる。
トウフに泣かれると流石に心が痛む。
可愛すぎるんだよ、トウフは。
「どうしてそう思うんだ? トウフ」
「え? いや、だって……」
トウフはそう言って口ごもる。
「証拠もないのにそんなこと言うのか? トウフ」
まあ、ぶっちゃけ、この西瓜は西瓜侍の西瓜なんだけどな。
トウフが昨日お風呂に入っている隙に採ってきて、真っ二つにして冷蔵庫に入れておいたんだよな。
というか、すでに昨日のうちに半分食べちゃっているし。
そんなトウフを見てか、軽くため息を吐いたカラカサが、
「もし仮にこの西瓜が西瓜侍でありんしたとして、食べねえ理由にはならねえでありんすが」
そう言った。
カラカサからすれば、既に切られた西瓜は食べ物であり妖怪の同胞ではないのかもしれない。
いや、元々カラカサの奴は西瓜侍というか、侍が嫌いそうだったっけ。
「カ、カラカサさんまで!? 妖怪同士で食べるとかおかしいですよ!」
そうなのか?
カラカサもトウフが出した豆腐を毎日食べてるぞ?
「既にあちきは主さんの豆腐を食べてやすが?」
だよな?
今更だよ。
「それはとこれはとは、話が違いますよ!」
そう言ってトウフは憤慨するけれども、一緒だよな?
どこが違うんだ?
「なにが違うんだ、トウフ。一緒だろ。無から出て来る豆腐と一日で実る西瓜。どっちも普通じゃないだろ」
私からすればどちらも妖怪由来のものだけど、なんかその辺にトウフには譲れないものでもあるのか?
「そ、それはそうですが…… これ、ボクがおかしいんですか?」
トウフは私の問いに上手く反論できずに涙目だ。
泣くなよ、トウフ。
諦めて西瓜を食おうぜ?
よく冷えていて甘くておいしいぞ?
「そもそも、トウフが出した豆腐を毎日食べている時点でなぁ? カラカサ」
トウフ自身、自分で出した豆腐を、カラカサの口にしているんだよ。
それには抵抗ないのか?
おかしくないか?
「そうでありんすねえ」
と、早く西瓜を食べたいのかカラカサも頷いている。
「え? ええ……」
私とカラカサ、二人から言われて、トウフも動揺しているようだ。
あと一押しだな。
「そもそも、トウフ、昨日、おまえもフルーツジュースを飲んで旨いって言ってたじゃんかよ」
いきなり食べるのは怖かったから一旦絞ってジュースにしたんだよな。
それを市販のフルーツジュースで割って、みんなで飲んだんだよ、昨日。
とりあえず、それで何も起きなかったから、今日はそのまま食べているわけだ。
「え!? アレにも入ってたんですか!?」
そうだぞ、トウフ。
昨日おまえが風呂上がりに美味しいと言っておかわりまでしたフルーツジュース。
あれは西瓜侍の果汁入りだったんだよ。
「さあ、どうかな……」
私はそう言って意地悪くトウフに向かい微笑む。




