【第四章】私と侍、破壊と再生、そして、新しい生命へと繋がる環【三十八話】
私とトウフとの日課である買物も兼ねた夕方の散歩に出かける。
部屋着から外着へと私も着替える。
着替えると言っても、部屋着用のジャージから、外着用のジャージに着替えただけだけど。
楽なんだよ、ジャージ。
触り心地もいいしな。
「おっ、庭先の西瓜、大きく実ってるな」
庭先に実っている西瓜は随分と立派な大きさだ。
ブランドものの西瓜なら五千円以上はするような大きさだ。
濃い緑色で、縞模様も見えづらいほどだ。
とても美味しそうに私には思える。
きっと中身は真っ赤に熟れているに違いない。
「ですね。この西瓜、西瓜侍さんになるんですかね?」
トウフは私とは恐らく別の理由から愛おしそうにその小さくも可愛い手で大きな西瓜を撫でた。
西瓜と少年……
侍と少年……
う、うーん、顔がなぁ…… 西瓜じゃなければワンチャン行けたかもしれないが、実物を見てしまったインパクトがあるから、どうにもイケメンの西瓜侍を想像できん。
私はそこで妄想するのをやめて、トウフの問いに答えてやる。
「さあ? でも多少放置してても人型になるようなことはないみたいだよな」
なんかそんな話だ。
一度死んだ妖怪は、人間のように終わりではないが、元の姿に戻るまで妖力をため込まなければならないので時間がかかるという話だ。
「カラカサさんの話だと、そう簡単に妖怪の姿に戻れるわけではない、って、言ってましたね」
まあ、カラカサの話を信じれば、だけどな。
ただ実際ここまで育っても西瓜侍のような人型になるようなこともないし、間違いという訳でもないみたいだな。
つまり今、この西瓜には妖力はないってことだよな?
なら、私が食べても平気なんじゃないか? それはもうただの西瓜なのではないか?
ただの西瓜がこんなに早く実を実らせることもないけどな。
「そうなんだ。旨そうだよな、この西瓜」
そんな事を考えていたら、思ったことがそのまま、口から漏れ出た。
それを聞いたトウフに嫌な顔をされながら、
「た、食べる気なんですか!?」
と聞かれてしまう。
旨そうだ、そう思いながらも中々手は出ないもんだ。
人型の、しかも頭部だったからな、実際食べるとなると少しばかり勇気がいる。
「いやいや、流石に妖怪の西瓜は食べないよ」
そうだ、食べたらなんか嫌だしな。
もし仮に、この西瓜を食べた人間が新たな西瓜侍になるとかだったら嫌だしな。
なんかありそうじゃん? そういうの。
ただ私の言葉にトウフは不思議そうな顔をする。
「え? でも、ボクの豆腐は食べているじゃないですか」
それは確かに。
言われてみればその通りだ。
私もトウフのようなショタになれるなら……
あっ、それは悪くないな。素晴らしき少年ライフが過ごせるのじゃないか?
「そういやそうだな。美味しいからな、トウフの豆腐は」
トウフは知らないだろうが、この言葉にはいろんな意味が込められている。
だが決して卑猥な意味は込められていない。決してな。
「えへへ……」
と、トウフもなぜか嬉しそうだ。
トウフが嬉しそうで私も無意味に嬉しいぞ。
「でも、実際トウフの出す豆腐は旨いよな」
なんだろな。トウフの出す豆腐は凄い濃厚でスーパーで売っている豆腐とはまるで違うというか。
とにかく旨いんだよな。
「そりゃ町一番の豆腐職人さんの豆腐ですからね」
「そうなのか? ふーん? ん? トウフが出す豆腐には元となるモデルがあるのか?」
町一番の豆腐職人?
豆腐屋の有名店ってところか?
「そうですよ! カズミさんだから言うんですけど、そこで使われていた豆腐皿がボクの本体ですよ! 内緒ですよ!」
「そうか、トウフはやっぱり皿なのか。だからそんなに肌がツルツルなんだな」
なるほどな。
やっぱりトウフは皿なのか。
それを素直に教えてくれる、というか、前にも言ってたっけ。
でも、だからトウフの肌は陶磁器のようにつるつるなんだな。
納得だよ、トウフのつるつるの美しいあんよの秘密がわかったよ。
「え? そうですか?」
トウフはきょとんとしていて、あまり理解できていないようだが、トウフのように綺麗な足、女の子でもいないぞ!
「ああ、素晴らしいくらいにツルツルだよ。トウフのあんよは本当に素晴らしい」
私がうっとりとした表情でそう言うと、トウフは私から距離を取った。
「なんか言い方が少し気持ち悪いですよ」
そして、軽蔑の視線を向けてくる。
そ、そんな目で見ないでくれ、トウフ!
「ぐっ…… わ、悪かった、今のは聞かなかったことに」
私がそう言うと、
「まあ、いいですけど……」
トウフはそう言ってくれる。
そして、散歩に行くんだ。トウフと手をつなぎながらな。