【第四章】私と侍、破壊と再生、そして、新しい生命へと繋がる環【三十七話】
トウフが朝起きると一番最初にやる仕事は庭先になっている人面西瓜の採取だ。
ただ大きくなると人面の凹凸は見えなくなって普通の西瓜そのものになるので、人面西瓜といってよいかどうかは不明だけど。
とりあえず一日二日で、西瓜侍の西瓜を放っておいても西瓜侍になる様子は今のところない。
不安ではあるけれども、今のところは問題はなさそう。
西瓜を採取したら、西瓜の種をまた撒いておく。それも、もちろんトウフの仕事だ。
スネカジリの世話はトウフの仕事だからね。
採取してきた西瓜を大きく割ってタライに入れてスネカジリの柵の中に入れる。
タライに切った西瓜を入れるのは、スネカジリが食い散らかして汚れるからだ。
スネカジリに餌をやり終えたのを確認した、トウフは洗面所へ行き、歯磨きと顔を洗う。
ほとんど寝ぐせもないが、寝ぐせがあれば整える。
身だしなみを整え終わったら小賢しくも洗面所で、パジャマから部屋着へと着替える。
私の目の前で着替えてもいいのに。
部屋着に着替え終わったトウフは台所へ行き、台の上に乗って朝食の用意を始める。
今日の朝食は、目玉焼きとシャケの塩焼き、ご飯、そして、豆腐の味噌汁。
これぞ朝食という感じの朝食を作るトウフを、まだ背の低いトウフが一生懸命に私のために料理を作る姿を見て、私はなにか、こう…… 感じるものがある。
トウフ、ありがとう。
私は心の中でいるかいないかわからない神様に感謝する。
トウフと出会わせてくれてと。
朝食を食べ終えると、トウフは食器を洗い、そして、今日の天気予報を確認する。
今日の天気が良ければ洗濯でもするつもりなのかもしれない。
ただ、今日は降水確率七十パーセントだったようなので、洗濯はやめたようだ。
最初こそ、トウフに下着を洗われるのが気恥ずかしかったし、トウフの下着を洗うのも若干楽しみだったけども、今はもうそんな気持ちもない。
洗濯も全てトウフの仕事だ。
私の世話を焼いてくれるトウフに感謝の念しかない。
朝食後は、トウフもしばしのチルタイムだ。
その間、トウフは私のスマホを弄っている。
人間の暮らしのことを調べているのだろう。
私? 私は…… 布団の上に寝っ転がりながら、そんなトウフを眺めている。
相変わらず可愛い。トウフは美少年だけれども、美少年というよりは、可愛いという言葉がよく似合う。
見ていて飽きない。
大体朝十時くらいか、トウフは部屋の掃除を始める。
左は空き部屋だが、右の部屋には住人がいるため、気遣っての、この時間からの掃除だ。
少し古い掃除機の音は意外と大きいからな。
今度、トウフ用に小さめで静穏性のある掃除機を買ってやるのもいい。
そもそも今の私は無職で貯金暮らしだけど、その貯金は減るどころか増えている。
トウフが作る浮世絵風の付け爪は未だにいい金額で売れている。
そう思うと、私の方が家事をしなければならないはずだけれども、私は、ほら、あれだよあれ。
死相! そうそう、まだ死相が完全に消えたわけじゃないから!
私は休まないといけないから!
あれ? でも私が無職になってから、どれくらいの時間がたった?
一ヶ月? そんなに経ったか? あれ? ま、まあ、いいか……
考えると怖くなるので、考えることを私はやめる。
掃除が終わると、冷蔵庫の中身を見て、昼食の準備を始める。
本当によく働くトウフだよ。
ついでにカラカサは未だに傘立ての中に刺さったまま眠りこけている。
妖怪だからな、カラカサは夜の方が活発になるんだよ。いや、アイツこそニートそのものじゃないか?
まあ、そんなことはどうでも良くて、今日のお昼はサンドイッチのようだ。
トウフが丁寧に食パンの耳だけを落としていってる。
ゆで卵も作っているし、たまごサンドは決まりかな?
トウフ、おまえは私のママか?
トウフにおぎゃっていいのか? 私は?
などと考えていると、美味しそうなサンドイッチが出て来る。
たまごサンドとベーコンレタストマトサンドだった。
BLTサンドの方はフライパンで焼いてパンの表面に若干の焦げ目までつけている。
なんかよくわからないが濃厚で美味しいマヨネーズベースのソースもよく合っている。
お店で売っているレベルだぞ。
トウフ。おまえはなんて奴なんだ。
おまえは私をどんどん堕落させるな。
けど、そんなトウフも悪くはない。
昼食を食べて布団の上に横になりながら、かわいいトウフを私は眺める。
それが今の私の仕事だ。
こんなに可愛いトウフだ。
攫われないように私が監視しなくちゃな。
うんうん。