【第三章】私とスネコスリがフェレットでスネカジリ【三十話】
なんとなく思っていた事だけど、フェレットことスネコスリの食欲が凄い。
餌を出せば出すだけ食べやがる。
トウフが可愛がって、あと他にやることもないからか、フェレットに餌をよくやっているんだよ。
で、今は一日一袋食うんだよ、あの小動物。
三キロの袋だぞ?
子猫とそう大差ない大きさの小動物が三キロだぞ?
自分の体積の何倍も喰ってやがる。
まあ、おかげでスネコスリとしての自我はほぼ失って獣化しちゃったみたいで、今は本当にただの小動物なんだけどさ。
たまに思い出したように喋るけどな。
そこも含めて我が家のかわいいペットだよ。
私には相変わらず懐いてないけどな。
「スネコスリじゃなくて、スネカジリだな、まるで」
と、私が呟きたくなるのも分かるだろ?
三キロも喰うのに私にまるで懐かないんだぞ?
誰の金だと思って…… まあ、トウフの稼いだ金か。
じゃあ、まあ、いいかな。
「酷いですよ! カズミさん! カズミさんがそうなるように仕向けたのに!」
トウフに非難がましく言われる。
いや、非難がましくではなく、完全に私のことを攻めているな。
もっともと言えば、もっともだよな。
そう言われると、人格のある存在を獣のようにしちゃうって、随分と酷い事のように感じて来るな。
「いや、うん、悪いとは思ってるよ。だから、スネコスリ改めフェレット改めスネカジリって呼ぶことにするよ」
ほら、スネカジリならさ、人格少しは取り戻せそうな上に、逆らいもしないじゃん?
良いアイディアじゃないか?
「ほんにひどい人でありんすね」
私の素晴らしいアイディアに対して、カラカサがそんなことを言ってくる。
えぇ…… そんなに私、酷いか?
「そう言うなって。ここまで大食いって知らなかったんだよ」
そうだよ、私より食ってんじゃないか?
いや、私は一日三キロも食わないよな。
どんだけ燃費悪いんだよ、この小動物。
これだけ食うのに太りもしないし。
「出されたら無意識で食べているだけでありんすね」
カラカサも今もトウフの手の上に乗せられた、フェレット用の餌をもりもりと食べているフェレットを見ている。
あ、スネカジリにしたんだっけ? 名前。
これからはしっかりとスネカジリって呼んでやらなくちゃな。
「なにそれ? それも妖怪の特性的な?」
なんか妖怪にも習性というか、特長というか、特性的な行動があるらしい。
例えば、豆腐小僧のトウフが豆腐を皿に乗せて持っている、とかもそうらしい。
そう言う摂理であり、妖怪の本能的な物らしい。
トウフのように豆腐小僧になぞらえたものもあれば、まったく関係のないものもあるのだとか。
トウフで言えば、頭のちょんまげだ。
あれも豆腐小僧に、というかトウフという個体になくてはならないもの、とのことだ。
わけがわからん。
「そうかもしれないですね。ボクが可愛いからって餌をあげ続けたばっかりに……」
そうなんだよな。
トウフがせっせせっせと餌をあげてかわいがるから、スネコスリのフェレット化がはかどっちまったんだよな。
あれか、猫じゃらし的な遊べるおもちゃも買ってやればよかったんか?
いや、でも、この小動物が本気出したら目で追えないほど速く動くしな。
そんなのと遊ぶだなんて無理だぞ?
「ああ、トウフ、落ち込むなよ。な、だから名前をスネカジリにすれば、良いだろ?」
そうそう、それが最良だよ。
ペットであるし、そんな名前になったら逆らう気も起きないだろうしな。
「なにが良いんでありんすか?」
少し怒ったようにカラカサが言ってくる。
いや、うん、名前でスネカジリってつけられたら、そりゃ良くはないよな。
「でも、その名に偽りなしだろ?」
「そうですけど……」
私がそう言うと、トウフの奴は渋々ではあるが認めた。
トウフもペット化したスネコスリと今更別れるだなんてできないよな。
随分かわいがっているから、情も移っているだろうしな。
「よーし、おまえは今日からスネカジリだぞ、って、相変わらず私には懐かないな」
私がそう言って、手を伸ばすと、キィィィィと警戒されたように吠えられる。
「当然至極の結果でありんす」
それを見て当然だろうとカラカサが頷いている。
「あっ、餌なくなりましたよ」
「もうかー、買い置きもないのか? これからは通販にするか、あの袋いくつも買うの重いんだよ」
一袋で三キロだぞ?
それをホームセンターから何袋も買って持って帰ってくるんだぞ?
やってられるかっての。
「買い置きもないですね。ホームセンターでしたっけ? 行きましょう! あそこは色々あって楽しいです!」
トウフからしてみれば、ホームセンターは娯楽施設みたいなもんか?
そろそろ本当になんか娯楽をこの妖怪たちにも与えないとな。
でも、ゲームとかやらして、トウフにひきこもりになられてやだな。
なにせ、今、私がほぼほぼひきこもりだからな。
家の事はトウフが甲斐甲斐しくやってくれている。
もう私は家事なんて何もしてないぞ。
掃除洗濯炊事も全部トウフが代わりにやってくれている。
自分がどんどん怠惰になって行くのがわかるよ。
最近は私の健康にまでトウフが気を使うようになってきているくらいだぞ。
そうだな。最近コンビニすら行ってないし、外に出るのは買物にいくくらいだもんな。
「まあ、散歩がてらに行くかー、カラカサも来るか?」
ひきこもりはまずい。
部屋の環境が良いだけに、これになれるととことん沼りそうだしな。
外に出なければ……
「今日は日差しが厳しいので遠慮しんす」
カラカサは窓から外を見てそう言った。
もう夏だし日差しも大分強い。
トウフと違いカラカサの奴は陽の光が少し苦手らしい。
「傘の癖に日差しを気にするんじゃないよ。まあ、荷物になるだけだし良いか。トウフ、散歩の準備だ」
花魁が使っていた傘なら、雨傘よりも日傘なんじゃないか?
それともただの飾りなのか?
まあ、いいか。
なんだかんだ、カラカサをそのまま歩かせるわけには行かないからな。
私が抱えなくちゃならん。
フェレット用の餌を何袋も買った後じゃ、それも一苦労だよ。
「はい! 着替えます! カズミさんは着替えないんですか? ずっとそのジャージですよね?」
うっ、痛いところついてくるな。
トウフはお洒落さんだよ。
ちゃんと寝間着と部屋着と外に出る服を分けているんだからな。
私は下着とシャツだけ変えて後はずっとこの高校の時のジャージだよ。悪いか?
「もう何日着てたっけ…… そろそろ洗濯しないとダメだよな」
そう言って臭いを嗅いでみるが自分ではわからない。
臭くないよな?
「そうですよ」
と、完全に見下した目でトウフが私を見て来る。
や、やめろ、そんな目で私を見るな、トウフ!
「はいはい、私も着替えるよ、着替えればいんだろ」
で、私の服はどこにあったっけか?