【第一章】私とトウフと寿命がない【三話】
夢か幻か、はたまた幻覚か。
まあ、私の頭の中に豆腐小僧という存在が強く残ってしまった。
妄想のディテールを細かくするために、ちょっとした空き時間に豆腐小僧のことをスマホで調べたせいだ。
少し調べた限りだが、大体は無害な妖怪と言うことだった。
ただ中には、持っている豆腐を食べるとお腹を壊したり、全身カビだらけになったりする、そんなことが書かれていた。
全身カビだらけってなんだよ。
水虫か? 水虫の事か? 水虫もカビって言うしな。
全身水虫とか最悪だろ。
でも、まあ、命がとられるような記述は見当たらなかった。
そうなんだけれども、私が出会った豆腐小僧は、私に死んでくれって言ってたよな?
豆腐の角に頭をぶつけて?
そんなの死ねるわけがない。
なんだよ、豆腐の角にぶつけて死んでくれって、逆に難しいだろ。
にしても、個体差でもあるんかね? 豆腐小僧で。
そういえば、妖怪も色々と大変とか言ってたな。
どこも厳しいんだな。
はぁ、世の中生きづらいなぁ。
と、それはともかくだ。
あれが私の作り出した妄想ならば、家に連れて帰っても問題ないよな?
今日も帰り道に出会ったら……
連れて…… 帰るか?
相手が妖怪なら犯罪じゃないしな。そもそも、私の妄想だしな。
でも、それでどうするんだよ、私。
冷静になれ。欲望を暴走させるな。
そもそも、持ち帰ってどうするんだって話だろ?
そんなことを悶々と考えつつ、私は日中、仕事をこなしていく。
んでもって、帰り道。
今日もしっかりと終電だった。
そもそも帰る理由が終電だから、だもんな。
そりゃ、終電になるよ。
女だから会社に泊まるのは免れているだけで。
いつものコンビニで弁当を買う。
今日はパスタだ。カルボナーラだ。
それしか今日は残ってなかった。別に嫌いじゃないけど。
一昨日と昨日はこの辺で…… そう思っているとやっぱり同じ場所に居た。
人気のない公園の電灯の下。
そこに古めかしい着物を着て、大事そうに豆腐の乗った皿を持つ少年。
美少年というよりは、かわいらしい男の子。幼さがかなり残る。
白く美しい肌。
まだすね毛の生えていないつるつるとした足は、私の大好物だ。
あ、ついでに裸足だな、こいつ。
そこは少しマイナスかな。靴くらい履けよ。
後、頭の髷だけは大きなマイナスだな。
でも、本当にかわいい少年だな。
はぁ、連れて帰ってしまおうか。
待て待て待て待て。
だから、連れて帰ってどうするんだよ、って、話だ。
いくら何でもそれはまずいだろ。
法とか法じゃないとか、そういうことは一端、置いて置いて。
人として超えてはいけない線を超えてしまう気がする。
ストレスたまってるもんな。欲望も有り余ってるもんな。
でも、ここは一旦冷静になろう、なあ、和美さんよ。
私自身に少年に襲いかかる趣味はないんだ。
連れて帰っても意味はないんだよ。
うん、そうなんだ。そうなんだよ。
私はただ単に、少年と少年の絡みが見たいだけであってだ。
そこに私が入り込まなくて良いんだよ、本当に。
そして、私は頭の中そのことを整理整頓して答えを導き出す。
「お前の持っている豆腐を食べると全身水虫になるって本当か?」
何を聞いているんだ、私は。
まあ、それも気にならないと言えばウソにはなるけども。
何も整理整頓できてないじゃないか。
頭の中ぐっちゃぐちゃのままじゃないか。
「え? 全身水虫ってなんですか、怖いこと言わないでくださいよ」
あっ、豆腐小僧の奴、涙目になって本気で怯えてる。
やっぱり可愛い奴だな、連れて帰りてぇな。こんちくしょう!!
なんなんだ、この生物は。
妖怪か、妖怪って奴は全部こうなのか?
そうなんだよなぁ、妖怪なら連れて帰っても犯罪じゃないんだよ。
って、そういう話じゃないだろ。
もし仮に普通の人間だったら、一時的に保護したとでも言えば、通るか? 通るものなのか?
でも、明日も会社だしなぁ、どんな理由があっても休めないし、どうすりゃいんだ、これは。
分かっているのか、かわいらしい少年よ。
お前が男だからと言って襲われないという保証はないんだぞ。
私の妄想の中では既に……
いやいや、本人を目の前にして私は何を考えているんだ……
そろそろ、色々と限界なのかもなぁ。