【第三章】私とスネコスリがフェレットでスネカジリ【二十九話】
「なんだ…… スネコスリっていうのは割とよく食べるんだな」
スネコスリが餌を食べる姿がかわいいもんだから、ずっと餌をあげてたら、三キロあった餌の袋が半分以上もうなくなっていた。
なんて大食いだ。
体の体積より食べた量の方が多いんじゃないか?
コイツがうちに来てから、もう三日か?
また餌を買いに行かないといけないじゃないか。
「小さいのにたくさん食べて可愛いですね」
トウフが柵の中に入り、スネコスリの頭を撫でながらそう言った。
おまえ、ペット化には反対してなかったか?
なに可愛がっているんだよ。
いや、まあ、良いんだけどさ。
それにしてもだよ。
「いや、うん、可愛いよ。でも、食いすぎじゃね?」
だよな。下手すら一日で一キロ以上は食うぞ。
意外と高いんだぞ、この餌。
「あれだけ素早く動くんですから、一杯食べるんですよ」
トウフは当然とばかりにいうんだけれどもさ。
消費カロリー的にはそうかもしれんが、柵で閉じ込めてからコイツまともに動いてないぞ。
いや、実は食いすぎで動けないのか?
「あら、随分と小動物が板について来たようでありんすな」
カラカサも寄って来てスネコスリのフェレットの様子を見る。
もう完全にフェレット化したよ、餌を食っている時は。
それ以外はたまに我を思い出すけどな。
「だろ? 我を忘れてフェレット用の餌にかじりついていんだよ」
「微笑ましい姿でありんすね」
と、ニヤリと笑ってカラカサはフェレットと言う名のスネコスリを見る。
コイツはあんまり妖怪の洗脳とか、そういう話では怒らないな。
まあ、本人がギャルになりたいって言ってるくらいだしな。
「でも、餌を定期的にやらないと、我を取り戻しちゃうんだよな。せっかく小動物ぽくなって来たのに」
今もフェレットは餌を両手で持って口に押し当てるように貪っている。
その姿はやはりかわいい。
トウフとは別方向で癒されるものがある。
「随分とむごいことをする人でありんすね」
ただ、カラカサも思うことはあるのか、憐れみの目でフェレットを見る。
「そうか? そうなのか? うーん、でも、餌は好んで食べているみたいだぞ」
そうだよな。私は別に無理やり食べさせていないんだよ。
フェレットの奴が好き好んで、フェレット用の餌を食べているんだよ。
それはもうフェレットなんだよ。
「妖怪の獣落ちと言う奴でありんす」
意味ありげにカラカサはそうつぶやいた。
「よくないのか?」
妖怪の獣落ちねぇ。
そのまんま、妖怪が獣みたいになるってことだよな。
あー、未確認生物とか、ほら、ツチノコとか?
そう言うの元々は妖怪とかだったとか? そう言うことか?
「今の時代はそちらの方が良いのかもありんせんが」
さらに悲しそうにカラカサはそう続ける。
随分と肩身の狭い思いをしているようだな。
まあ、私からすれば他人事だけどさ。
「だってよ、トウフ」
「うう、スネコスリさん……」
カラカサの言葉を聞いたトウフは悲しそうにそう言いつつも、フェレットの頭を撫でるのをやめない。
トウフ、おまえが一番スネコスリをフェレット扱いしている気がするぞ。
トウフにスネコスリと呼ばれたからか、
「ハッ、ワチは…… ワチは…… なにをして……」
フェレットの奴が自我を取り戻す。
余計なことを。
「スネコスリさん!」
「こら、トウフ、違うだろ? スネコスリじゃなくて、名前はフェレットだろ?」
と、私が訂正する。
「け、けど……」
上目使いでトウフは私に何かを訴えて来る。
くそ、かわいいな、トウフの奴め。
だが、私に泣き脅しなんてもんは通用しない。
「何の不満があるんだ? こうやって危険なく毎日好きな餌を食べれているんだぞ」
そうだ。
安全で餌まで貰えるんだ。
何の不満があると言うんだ?
「ヒト、ヒトよ! そちは悪魔のような奴だ。魅惑的な食べ物でワチを魅了して獣落ちさせるとは……」
必死にフェレットの奴はそう言うんだけどもさ、その餌をかじりながらなんだよな。
言葉に説得力がないよ、説得力がさ。
「そもそも、脛しか擦れないフェチ妖怪なんだから、小動物になってもかわらんだろ?」
フェチ痴漢妖怪より、小動物でいたほうがちやほやされるだろうしな。
「な、なに! ワチを馬鹿にするというのか!」
そうフェレットの奴がいきり立って言うんだけどさ。
「じゃあ、なにができるんだ?」
と、聞くと黙るんだよ、結局のところ。こいつは脛に擦り寄って来ることしかできないんだよな。
「……」
ほら、言い返せない。
更にわざとらしく顔を作って、
「えぇ!? 本当に何もできないの?」
と、煽ってやる。
ハハッ、プルプル震えてやがる!
そこでトウフに
「カ、カズミさん!」
と、咎められる。
少しやりすぎたか。
「ああ、いや、じゃあ、たまにカラカサの脚を好きにして良いからさ、私のペットになれよ、な? 餌も毎日ちゃんと上げるからさ」
「ヒト…… そうだな、この環境はワチは恵まれているのかもしれない……」
だろ?
本人もそう思ってんだから、ウィンウィンの関係って奴だよな。
「そうだろ?」
うんうん、と言う訳で私に懐いてくれないかな。
私が近づくと威嚇されるだよ、イィ!! ってさ。
獣かよ。獣だったわ。
「ダメですよ、スネコスリさん、カズミさんの口車に乗ったら! カズミさんは口が上手いんですから」
トウフがそう言うんだけどさ。
「そう言うそちも、ヒトに餌付けされているではないか」
と、フェレットに言い返されて、トウフがきょとんとした顔になる。
まあ、なんだ。
トウフもあれだよな。食べ物に吊られた感じだよな。
何気にトウフも食欲強いしな。
名前だけでも食べ物の妖怪だからなのか?
「え? ボク餌付けされていたんですか?」
と、トウフが私の顔を涙目でまじまじと見ながらそう言った。
い、いや、そんな顔で見ないでくれよ。
「否定はできんせんね」
カラカサがしたり顔でそう言った、まあ、事実だしな。
確かにカラカサの奴はあんまり飯を食わないんだよな。
それに比べると、トウフは簡単に食べ物で買収できちゃうからな。
「え? じゃあ、ボクもカズミさんのペットなんですか!?」
ペット!?
トウフがペット!?
い、いや、それは考えてなかったわ。
ヒモか? ヒモって奴か? それは悪くない。
いや、今はトウフの方が稼いでいるしな。
ヒモではないよな?
「うーん、トウフはペットと言うより同居人かな。カラカサは…… 喋る置き物?」
うん。同居人だよな。同棲ってわけでもないしな。
同棲じゃない同居だよ、ただの同居。
私はトウフに手を出す気はないよ。な、ないよな?
「あちきは置き物でござんすか」
呆然とそう言うカラカサとは対照的に同居人と言われたトウフはなぜか嬉しそうだ。
「ボクは同居人なんですね、よかった」
まあ、トウフが嬉しそうならそれでいいけども。




